第37話 特製しゃぶしゃぶでみんなで発狂するよね
カイウェルが中央、ササラが右側。左側と正面には近衛の二人が座っていた。
中央には、デカい黒い鍋が机の上から吊り下げられ。鍋の横には野菜やら肉やらが限界までうす~~~~~くきられ向こう側が透けるんじゃないかという位の状態で美しく並べられていた。
「この皿から好きな具をこう一枚つまんで、この鍋の中にある特製つゆにくぐらせてから手元のタレで食べる。食べ方はこれだけだ」
そういって、カイが一枚肉をつまんでゆっくりと三回くぐらせ赤が少し残る位で取り出してゴマダレにつけて口に運ぶ。
たった一口で、天国にたどり着いた様な顔になるカイを見て衛兵はヤバい薬が入ってるんじゃないかと疑うが。ここに来る前に料理長のフクマークからこんな事を言われていたのを思い出した。
(鈴様の作る料理は下手な薬なんかよりも、美味しすぎるという意味で猛毒だ)と。
野菜は我々が先ほど市場から購入したもので、あらって切ったのも我々。これが料理な訳がとは思いながらも、勅命とまで言われて食べない訳にもいかず。二人ともゆっくりとお互いでアイコンタクトをし、そしてキノコのスライスを一枚くぐらせて口に運ぶ。
一瞬で部屋で座って食べている筈なのに、碧羅の天が視界に広がった気がした。
眼を見開いて何度も、自分の手に持っているモノを確認する。
キノコだ、自分があらって自分がきった。間違いなく、街の市場で我々が買って来たキノコだ。
(この黄金のつゆにくぐらせ、タレと呼ばれるこれをつけただけだぞ……)
そこで、ササラが鈴に聞いた。「ねぇー、このつゆいつもより良くない?」
「かつおぶし七種類と、海藻十種類をじっくり出した出汁をブレンドしただけだけど?」
そうして聞いてる間にも、カイがマッハで肉ばかり食べていく。
「やっぱり、普段は海藻も五種類くらいだし道理でおいしいはずよね」
(は?通常はこれの半分だと?)
「ほら、カイ君が凄く近衛さん達にお世話になったじゃない。だから、美味しいモノでもだしとこうかなって」
「あーーー、肉がないぃぃぃ」ササラが視線を戻した時にもう肉が皿から半分以上消えていた。
ドヤ顔のカイ、ふくれっ面になるササラ。
「ほらほら、怒らないの。お肉ならちゃんと追加があるわよ♪」
そういって、新しい薄くきった肉を更に追加する鈴。
ガッツポーズになるササラに、きょどる近衛二人。
「それは何の肉で?」「牛、それ用に育てたやつ。モンスターのよりはウマくないかもだけど、これもかなりいけるんだぜ?」
キノコであれだったなら、この肉は……。
「い、いただきます」そういって、眼を閉じ一枚だけ取って食べた。
頭の中で、ほら貝が鳴り響いて花火があがる。
そこからは、箸と箸の応酬だった。
無言で、殺意剥きだし。
野菜もガンガン減っていき、途中で鈴が新しいのに変えてくれた。
四人は無言で、今さらにあるものに手を伸ばす。
箸からしちゃいけない、剣閃の様な音が響き風切り音とセットで鍋の周りから聞こえてくる。
鈴が何かを追加するときだけ、全員眼を血走らせて正座して無言で止まっていた。
ただ、儀式の様に無心で意識だけは皿と鍋に向け。
全てが空になったあと、天を仰いでこう言った。
「なんだよ、これ。俺達が街の八百屋で買ってきて俺達がきるの手伝ったこれがなんでこんな奇跡みたいな味になるんだよ」
それは、吐露だった。
「フクマークさんがあれ程、念押す訳だ。ウマいなんてもんじゃない」
だが、ササラとカイはまるで次のモノを待つかの様にまた無言で正座し中央の鍋を見つめていた。
「「もう、我々は一かけらたりとも腹にはいりません……」」
カイとササラは邪悪な顔で「「残念だな(残念ね)」」としたり顔で笑う。
「〆のこんにゃくうどんよ♪」「待ってました!!」
いうやいなや中央の黒い鍋に、それがやってきた。
「「あぁ……」」悲痛な声を上げる騎士二人。
手が震え、眼を見開く。
どや顔で、それを貪り食うササラとカイ。
正にその様子が、光と影だった。
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