第17話 打ち勝つ事もまたトラブルを呼ぶよね
「間に合った?」
扉から出て来たササラが、エメラルドグリーンの薬液をもって扉から出ると。
「持たせるって…………言ったろ」
手を取ったまま脂汗を大量に流しながら、弱弱しい黄金の光を出しつつカイが言った。
それを主治医が咎めようとするが、カイがササラから薬液をぶんどる様に取ると口に含みモナ姫に口移しで飲ませた。
あっという間に容体が良くなり、顔色も良くなる。
「すっ凄い、こんなあっさり……」
主治医が呟くが、カイとササラが睨む。
「ったく、何やってんだお前は」「面目次第もございません」
そこでうっすらと眼をあけた、モナ姫がカイの手を取った。
「お兄様」弱弱しい声と共に目覚めるモナにカイがうっすら笑う。
「俺は、風邪だって聞いててさ。師匠が見るなり焦るから心配したよ」
「あ~ずがれだぁ~~」情けない声を上げながらササラがベッドのふちに顎をのせて言うとカイが頭をポスポスやりながら「ありがとな、師匠」。
「ねぇ、姉さん。モナ姫は結局なんだったの?」「極度の内臓疾患、それも転移ガンと併発してるから回復魔法なんかかけたらガンが活性化して逆効果になるってパターンね」
「そんなん見てあんな一瞬で判るもんなの?」そんな事をいう妹に姉が辛辣に答えた。
「その程度、二秒で診察できないなら医者名乗んなって話よ。耄碌ヤブ医者決定~」それを主治医の方を見ながら流し目でいう。
「しっしかし、貴女は薬を用意出来た。それさえあればっ!」
意味不明に食い下がる、主治医にカイが睨む。
「アンタバカなの?まともな薬で治るわけないじゃない。カイ君、八哭全部ダメにしたから後で弁償してよね」
それを聞いて、カイがササラに聞き直す。「ぜっ全部?!そんなにヤバかったのかよ……」
弁償は、必ずする。妹を助けてくれて、ありがとうと頭を下げるカイ。
「八哭全部ですって!?」鈴もその言葉に思わず口に両手を当てた。
「王子……、その八哭というのは?」「師匠が薬をつくる時その入手難易度に応じて師匠がランク分けしてるんだよ。その中でも八哭ってのは、特にやべぇ入手難易度してる八ツの材料の事だ。一つを一滴水に溶くだけで、大抵の病に抗えるしろもんだけど。それをダメにしたって事は全部ぶち込んでやっと完治まで持って行けるって判断したって事だろ?」
「手持ちで百、工房に置いてある分が六万点位の材料あるけど。八哭はもう手に入らないから、次同じような難易度の病に誰かかかったらお手上げよ」
両手を軽く万歳の形にしておどけるが、その内容は深刻だ。
「気をつけても、病なんてどうにもならないからな」
「だから、使い切りたくは無かったのだけど。まぁ、アンタの妹が助かったのならそれで良しとしましょ」
「大抵の病に抗えるって、そっそれは万能薬って事ですか?」
「あるわけ無いじゃない、万能薬なんて。あるのは膨大な組み合わせと調剤で自分が知ってる風に症状みて薬作るだけよ。体重、体質、疾患や年齢なんてのも見ながら作らなきゃちゃんとしたものは出来ないのよ。人を一人救える医者は、過去に倍は殺してる。万全を尽くして経験を積みあげたものだけが真なる医者になれるのよ」
「カイ君、悪いけど私しばらく鈴のルームの中にいるね」
よろよろとした足取りで、扉の中に消えるササラ。
「姉さんね、過去に助けられなかった人が一人だけいるの」
「あの師匠が?」「私たちのたった一人の父親」
「私達母親は、生まれた時から居なくって。ずっと父親だけだったんだけど、姉さんが救えなかった人間は自分の愛した父親だけなのよ」
その瞬間、部屋が静まり返る。
「だから姉さんは、救えない奴は存在価値の無い医者だと思ってるし。楽に治療法を知ろうとしたりする、そんな愚図が許せないのよ。自分で、探し当てなさいって意味で。どんな病もなおして来た凄腕が、人生で唯一救えなかったのが自分のたった一人の親じゃ笑えないでしょ」
「それを、笑える奴はいねぇよ」
カイが妹の頭に、そっと手をのせながら苦笑した。
「であれば、それだけの薬の製法を是が非でも!」
それを言った瞬間に、カイが主治医を殴り飛ばす。
「アホか!作れもしないレシピ聞いてどうすんだ。材料も無きゃ技術もない、師匠はそれ判ってるから引っ込んだんだろが」
(昔から変わってねぇなぁ、苦手だからそうやってこっそりフェードアウトする)
「カイ君、私も行くね」そういって、モナの部屋から出ていく鈴。
「あぁ、助かった。後で必ず」
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