第16話 不可能な事って挑んでみたくなるよね

「大変だ!」そういって兵士の一人が廊下を走り抜けていく。


「んあ?」それをぽへっとした顔で見送るササラ。



「どうしたんだよ、フレイヤ」


少し離れた位置で、カイがフレイヤと呼ばれた兵士に訳を尋ねた。




「あぁ、カイウェル様!モナ様の容体が!!」



それを聞いて、一瞬で真面目な顔になるカイがちらりとササラの方を向いた。




「師匠っ、すまねぇが来てくれ!!」「んぁ~、私今から二度寝したいんだけど」



寝ぼけなまこのササラを、カイが赤ちゃんをあやすガラガラの様に頭を掴んで振って起こしながら言った。


「妹がやべーんだよ!!」「カイ君の魔術でダメなの?」


「あぁ、ダメだからこんな事になってんだろが早くしてくれ!」



ぐいぐいとカイがササラを引っ張りながら、廊下を走り抜けていく。



「魔術、魔法でダメならあとは薬学の領分だけど。ここ城だから、当然主治医とかいるのよね」


「あぁ?!確かにあれは優秀だが、師匠程じゃない!」



「あっそ」「ここだここだ、俺だ入るぞ」



バン!と扉が吹っ飛ぶかという勢いで妹の部屋の扉を開けカイが容体を確認する。


それを、チラリと見たササラが急に真面目な顔でカイに向かって言った。


「カイ君、鈴を呼んできて。これ、手持ちの薬じゃ手も足も出ないから。後、悪いんだけど五時間どんな手使ってでも延命できる?それを約束できるなら、治すけど。できないなら妹の命は諦めて」



その言葉に、カイの眼に力が宿る。




「フレイヤ、聴いてたな?俺の彼女を連れてきてくれっ!。五時間は、俺が死ぬ気で持たせる!!」



その間にササラが素早く、おでこや手を触り脈を測る。



「アンタ王子でしょ、妹より命の価値が重たいんじゃないの?」

そのササラの台詞に、カイがササラの後頭部を思いっきりはたいた。



「らしくねぇな、師匠」「この症状を五時間持たせるって、本当にアンタでも命かけないとヤバいのよ判ってる?アンタと同じ事が出来て私以外でそれが可能な術使いは今この城に居るの居ないの?」



「いねぇよ、居たらとっくに呼んでる」




そういって、妹の手を両手で取って祈る様に力を込める。


黄金に光輝くカイ、超高速の早回しで根こそぎマジックパワーの残量が急降下しカイが呻く。呻きながらも、妹の手を取り続けた。




「姉さん!」そこへ、鈴が息を切らして駈け込んで来た。


「ルーム出して、秘密工房のやつ持ちだすから!!」



出した扉に向かって駆け込んでいくササラ、カイの近くで祈る鈴。


「間に合え!!」「間に合って!」


一身にカイと鈴が一心に声をかけ、モナがそれを聞いてうっすらと眼をあけ脂汗を幾つも浮かべながらそっと微笑む。


口元だけが動き、お兄様……と動いた気がした。



「こんな、急に容体が悪くなるなんてっ!」



一方、ササラは秘密工房の一角にある足踏みミシンを改造したような机の上の試験管が木琴を立てた様に並んでいるそれを見つめていた。


「出すなって言われた先から、これが無いと間に合わないかも知れないなんてね」




そう言って、薄い水色の並べられたそれを見ていた。


各、試験管には左から明らかにアンデットの魚の骨を特殊魔法液に漬け込んだものがゴム栓で蓋がされており隣の試験管に点滴の管が繋がっていて、隣の試験管には薬草の根っこから葉までが薬液につけられてその隣の試験管にさらに管がといった具合に管で繋がっていた。


その右側には水色のクリスタル、さらにその隣には別の薬草。その隣の試験管には妖精のミイラ、さらに隣には人食いの花。他にも三本程並んで、最期の試験管にはモンスターの手だけが皮だけ剥かれて薬液に浸かっている。アンデットの魚が入っている、一番右の試験管には歯車がつけられ上から蓋が重さで徐々に落ちる仕組みとなっていて。一番左側には西洋時計の文字盤の針が非常にゆっくりと回っているのが判る。


「早く早く早く早く早く早く早く……」血走った眼でササラがその文字盤に向かって言い続けていた。



死を泳ぐ魚のエキスに、約束の地より持ち出された薬草、賢者の石に、精神生命体のミイラ。


そう言った命を冒涜する薬液の、魂の力を最後の試験管に集める装置。


「流石に、壊さず魂の力を絞り出すとなるとこの速度が限界なのは判ってるけど。一時が惜しい!」


頭をかきむしり、ササラの爪が頭をかきむしる。



「あんなに妹の容体が悪いなら、初日に言いなさいよ!間に合ったら、一発ぶん殴ってやる!!」



文字盤のさらに登頂の糸が僅かずつ巻き取られ、文字盤の下の歯車の歯が一枚下に下りる度に最後の試験管に一滴が点滴の様に落ちていく。



「ったくもぉ~、作り方教えろって言われても材料もなければこれを創り上げる技術も無いとこに一々断るの面倒なのよ~」

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