第48話 カイ君だって泣きそうになるよね
その激突の衝撃だけで、騎士とモンスターの大群が吹き飛ばされ。中央で激突したままの姿勢でカイと竜が爪と剣をお互いに揺らしながら押し込もうとしてカタカタと音が鳴っていた。
その余りの事に、街の城壁の上では民衆と冒険者が爆発する様に歓声をあげていたが当のカイウェルはそれどころじゃなくて。内心では、口がヒヨコの様になり脂汗を流しながらこいつどないしよ。傷も入らんのやがとか思っていた。
「竜をペットというだけの事はある、並の竜なら爪や牙位斬られてたかもしれぬ」
(なんでアンタはぴんぴんしてるんですかねぇ?)
全身が悲鳴をあげて汗にまじって、血があちこちから滴る。
一瞬だけ眼が霞む、それを意思の力を振り絞って立ち続け。
竜の方も、カイの後ろでドンドン膨れ上がる膨大な魔力の方を一瞬向いた。
(こいつはただの時間稼ぎ、本命はあれだ)
竜と同等の黒いゴーレム、いやあれはゴーレムなんかじゃない。
もっと別の、禍々しい。獣の本能が、警笛を鳴らし続けている。
その時、その黒い巨体の背からムカデの脚の様にひょろいアームが伸びてカイを撃った。
その瞬間、カイの眼に光が宿る。
「十五分経ったか、これで随分楽になる」黒い巨人の眼孔に蒼い光が灯っているのが遠くからでも判る。
黒い何かを中心に、青い水たまりが形成されその水たまりに触れた瞬間急速に疲労や傷が回復していくのが判る。街の中でも病魔すら吹き飛ばして、癒すその光に神をみたものも多い。
「なんだこの光は」「師匠のあれが青のフェーズに入ったって事だ」
水たまりに触れた、全てのモンスターの魔石が無条件に溶けて水たまりに吸い込まれ力に変換されていくのが判る。
「ブルーフェーズ:敵から奪い味方を癒す、エネルギーサイフォン」
でも、あの魔法陣から一歩も動けていないのを竜はみて確信する。
今なら、あれは破壊できる。
だが、その為にはこいつを早く倒さないといけない。
自分より少しでも弱いモンスターからは全てを奪いつくして、範囲内の味方全てを癒し続ける光を放つなど。
青い光に触れた、カイがさっきまでの疲れと傷が嘘の様に治っていく。
新たに傷をつけても、ブレスでやいても一瞬で復元しているのだ。
それどころか、カイ以外の騎士たちの疲労も嘘の様に吹き飛んでいた。
「これならいけるっ」「あぁ!」シエル達が盛り上がる中、カイだけはいやどうかなぁと首を傾げていた。
傷が入ってない事から判る通り、カイにダメージを与える手段がないのだ。
いくら、外側のモンスターをかれたとしてもボスにダメージが入らないのなら倒せない。
「イエローフェーズでもし、うんともすんともいわない様だとレッドフェーズまで粘らないといけないって事じゃねぇか。レッドフェーズの最終術式が通用しないとは流石に思わないけどな」
そう呟くと、剣をしっかりと握りしめた。
そして、深く深呼吸して竜を睨む。
「小賢しい!」
(この相手に粘るだけでも一苦労だっての)
再び、先ほどより激しい乱打戦になり。空中を走りその巨体が嘘の様に風に飛ばされる羽の様にアクロバティックに避けられてさらに加速。
「まだ速度が上がるとか、全く……恐ろしいダンジョンボスも居たもんだ」
背中の紐の様に頼りなかった腕に、力が羽の様に生えて拳を握りしめる度関節という関節から黄金の火花が飛び散って手と足の爪が少しずつ形になっているのが判る。
(黄色になりさえすりゃ……)
叩きつけられて、地面に陥没しながらもカイは立ち上がり再び長剣を正眼に構えた。
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