第6話 フェチってたまに常識をこえちゃうよね

次の日、ササラとショール騎士団長が向かい合って「王子の師匠というのなら、その力を見せて見よ」みたいな事を言って騎士団全員の前で模擬戦を始めようとしていた。


眠そうな、めんどくさそうな顔をしながら小指で左耳をほじっている。ちなみに、右手にはちゃんと杖を持ってだ。



「あたし、一応魔法使いっぽい生産職で戦闘はそんなに得意じゃないのよね」とかいいつつも、騎士団長の雄っぱいにつられて戦闘中に触りまくってやろうと画策していた。



(やはり、漢の筋肉はあの位マッシブじゃないとね)



そういって、マジな眼を向けたササラに対し。


(気配が変わった、この娘やっぱり見た目通りじゃないという事か)



決定的に感覚がずれまくっている両者、先に動いたのは騎士団長。


ショールが体ごと低くして、大地を蹴って進む。



「部分召喚!炎(エン)の腕、上腕二頭筋長頭と上腕二頭筋担当をしめて」




炎で出来た巨大な腕の筋肉が、何故か有機物の様にギュムと閉まる音がショールの耳に届く。


四本の腕が、その絞められた筋肉でササラの左右に二本づつ。


その手には、炎の剣が握られていて。ショールの剣とぶつかり、金属音が鳴る。



「炎、橈骨と尺骨の辺りを肘から手首までで逆回転」


それによって、剣を持ったまままるで手甲が高速で回転している様に向かってくる。


それを、膝を折りたたむ様に背後に倒れる事でショールが躱す。


「面妖なっ!!」


「あれを初見で躱すなんてね、ちょっと舐めてた」


そういって、ショールの首を軽く触って離れる。



(おほ~、汗ばんだオスは最高よ!)


(今の首に触ったのは、いつでも首は落とせたという合図か……)



「油断したのは俺も同じ……、二度目は無い!!」


そのまま、間合いを取って再び構える両者。その心理状況には恐ろしい程の段差が存在していた。



再び、炎の豪腕が唸りをあげて落ちてくる。



二本の腕の攻撃を、盾で止め。ショールが木の葉が如く舞い、剣閃が煌めいた。


それを、ササラは杖を手放して防御は炎の腕に完全に任せショールの肩や腹筋やレバー辺りをさわさわしていた。



「くそっ、なんという制御と防御!」


(三角筋のはりも素晴らしいし、上腕三頭筋の柔軟さもさいこ~)


肩を触りながらそんな事を考えているササラ、余りの防御の堅牢さに冷や汗が流れるショール。



余談だが、炎という非実体の現象で物体である剣を自動防御で止めているというこの制御力は一緒に見学していた魔法師団からみれば鼻水と涙が溢れ出る程頭がおかしいとしか思えない。


普通、魔法や魔術は魔素に精神力で働きかける技術体系だ。


あんな、密度の高い攻撃を幾度もうちあうように止める腕を一本召喚しているだけでも負担で頭が破裂する程。


それを、四本。頭が四個ぐらいないとそれは理論的にできない筈。


大地に杖でメモをがりがりと書いている音が一団から聞こえていたが、騎士団の方はそれどころではない。自分達が高みと思っていた騎士団長の攻撃が簡単に止められていて、術者は体のあちこちを触っているのだ。


仮に毒付きのナイフや、致命傷の魔法でもうたれたらそれで終わり……。


「防御だけは立派な様だが、攻撃はさっぱりだな!」


挑発するように言えば、ササラはへらっとした顔で笑う。


「もうちょっと堪能させて欲しかったんだけど、まいっか」



(我が剣閃を堪能していただと!?)


(理想的な細マッチョで凄く好みだからもっと触りたかったな~)


杖を両手で地面からゆっくり拾うと、ササラが初めて何かを命じた。




「炎の腕、次の攻撃に合わせて右の僧帽筋と左側のリバーを手刀で」


一瞬炎の手が消えた様に見え、首筋に炎の腕の手刀が飛んできているのを剣で防ぐが余りの攻撃の重さに体が僅かに沈む。


「ぐふっ」


沈んだ所に別の腕の手刀がショールの腹に突き刺さり、限界まで目を見開く。


(大地から炎の手が飛び出してくるだと?!)


五本目の腕が、大地から飛び出し深々と突き刺さってショールが崩れ落ちる。


ササラが、杖で一回地面をカツンと叩くと腕は全て何も無かったように消えた。


ジャージのポケットから、ラムネの様な瓶を取り出すとショールの頭からじゃばじゃばと乱暴にぶっかけると傷が癒えていく。



「ほい、おしまいっと」そういって、瓶をその辺に投げ捨てると瓶が役目を終えて空気中に消えた。



「参りました……」そういって項垂れるショールの肩を軽く叩いて。


「いや~、イケオジやるじゃん。私ちょっと見直しちゃった☆」


「魔法使いは近接に弱いと思っておりましたし、スタミナが無いと勝手に思い込んでおりました」


その台詞を聞いた瞬間魔法師団の何人かが精神的ダメージを受けて、胸をおさえながら蹲る。


「私、走るのそれなりに好きだし。世の中、例外っているものよ。(脈動するヒラメ筋とか見る為に適切な位置に陣取って後ろ走るの特に大好きなのよね~)」



「確かに、例外は認めざるえませんな。なんせ実物が目の前におりますからはっはっは!」


大きく、笑いながら剣を腰におさめて一例する。


「また、お暇があればお願いしたい!」


「そうね、いいわよ~。(やった~公認で触りたい放題の眺め放題やん)」



お互いの笑顔の下に、それぞれの想いを抱えこの日の模擬戦は有意義であったと王に報告されるのだがそれは別の話。

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