第64話 努力を踏み躙るそれが天才の嗜みだよね
「え?嘘だろ」「何よ、カイ君」
そこに居たのは、百八十センチの長身になった鈴だった。
声は、いつものササラの声。
元の姿に戻るとは言ってたが、元の姿って鈴さんよりニ十センチ以上長身じゃないか。
いつもの、チビ姿が多少大きくなる程度を想定したカイは完全に面食らう。
「やめとく?」赤ジャージのササラが、そんな事をいう。
「いや、こんなチャンス滅多にないから戦わせてもらうよ」
「あっそ、ルールは模擬戦式。寸止めはしなくていいわ、もっともかすりもしないでしょうけど」
そういうと、木刀を左手でもつだけの構えでも何でもない突っ立っているだけでカイの攻撃を待った。
カイは正眼に構え、力強く両手に血管が浮き上がる程の力を込め振り下ろす。
「柳揺(やなぎゆれ)」
それだけいうと、ササラの姿がブレてカイの木刀が大地を叩きつけ大地にヒビが入る。
その勢いのまま、かちあげ気味に木刀を振り上げるも同じセリフが聞こえまたもササラの体を木刀だけがすり抜ける。
(うっそだろ)
さっき、師匠はなんていった。かすりもしないでしょうけど、挑発だと思ってたけどマジでそのままの意味って事かよ。
「頑張れ、男の子♪」そういって、木刀を持っていない右手でカイの背中をトントンと二回触る。
(師匠は魔法や技術の方が得意、剣や拳は苦手って言ってたけど)
続いて、背後のササラを振り払うように剣を振りぬくがまたすり抜けた。
(これで、苦手とか不公平なんてもんじゃねぇだろ)
「最小の動きで、ただ避けてるだけよ。すり抜けた様に見える、いわゆる残像ってやつね。剣は一本、なら筋肉繊維の動きをつぶさに見ていれば私には手に取る様に判る」
私に当てたいなら、もっとシンプルに私より速く剣を振るしかない。
幾ら私でも、消えたりしてるわけじゃないもの。
それを聞いて、カイは面の攻撃に切り替える。しかし、それでもササラはカイの斬撃の剣の先端を全部点でついて止めてしまっていた。
「単純に、かすりもしないというのはカイ君が遅すぎるの」
例え、面に攻撃しても。魔法や矢が大量に降りそそいでも、速度が遅ければ私には当たらない。
「雷靂(らいへき)」上と下、左と右ほぼ同時に対称の剣閃がカイを襲う。
それを、素早く攻撃を停止し迎撃する。
乾いた音が、同時に二つ響いて止まってそれを繰り返し。カイの額からは、一滴の汗がぽたりと地面に落ちた。
「ほむ、思ってたよりはやるみたいね」そんな事を宣いながら左手で木刀をもてあそぶ。
それを見ていた、鈴が思わず苦笑いした。
「姉さん、相変わらずね~。姉さんは、自分で作った武器や薬を確かめるために自分に向かってうつような人だもの」
その言葉に?となるカイ、そして油が切れたような音を首から立てながらギギギとなった。
「つまり、あの重火器やミサイルなんかも自分に向けて撃って威力を確かめてるって事ですかね」
「そうよ」「それで、なんでぴんぴんしてるんですかね?」「口だけの男とかに負けるのがムカつくから、人体改造してるに決まってんじゃない」
(悲報:俺の最愛の人の姉、自ら人体改造する程マッドだった件)
そりゃ、生身の俺が死ぬほど努力しても。そんな事やられて、勝てる訳ないよな妙だと思ったんだよ。
「サイボーグとかじゃなくて、ひたすら生身を進化させる方向で積み上げただけじゃない」
(その行きつく先が子供化って……)
「なぁ、鈴さん。師匠いつからそんな事やってんの?」
「私が覚えてる範囲で、六才ぐらいからずっとやってるわよ」
鈴の言葉に、思わず姉妹以外の顔が激写風になった。
「成程、俺にいつも相手が人類なら努力してれば少なくとも負けても納得はできるなんて言い方してたのはそういう事かよ」
「さて、明日には元に戻すから。やっぱ、剣というか動く事は苦手ね」
(しかし、その不可能に俺は挑み続けなきゃな)
剣を構えながら、改めてカイはそう思った。
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