最終回 ごーいんぐまいうぇいに生きるって最高だよね

先日完全に伸びきるまで、ササラと全力戦闘をしたカイは激しい筋肉痛に襲われていた。


「クッソ、マジでどうなってんだあの人」


例によって、銭湯施設の内部に作った屋台コーナーで見ているだけで胸やけしそうになる位の油たっぷりの串焼きを四本両手持ちしながら。それを、マラカスの様に扱っているササラを見ながらそんな事を呟く。



「どうしたの?タコさんウィンナーが無いのがそんなに不服なの?」

「不服なのは、ウィンナーが無いからじゃねぇって……」


「あっそ、やっぱり子供ボディはいいわ。胸やけしないし、力いっぱい動けるし。何より異世界は文化レベルが低いから結構子供だとお目こぼししてもらえるし」


「単純に治安がいいだけだろ、アウトローの皆さまもそんな強くねぇし」


その言葉に、耳が大きくなるシエル。そして、「お前ら基準で強いとか弱いとかいってんじゃねぇよ」と小さく小さく怒鳴るという結構器用な事をやっていた。



「姉さん~、カイ君~」そこへ鈴がやってきて、左手を大きく振っていた。

「お兄様~、お姉さま~」その横でモナ姫も手を大きく振っている。




作りたいもの作って、やりたい事やって自由に生きる。


「まっ、俺は努力をやめるつもりはねぇよ。モナも守りてぇし、鈴さんも幸せにしてぇし。俺は、アンタと違って取柄なんて殆どないから。歩みを止める訳にはいかねぇんだわ」


その言葉に、ササラが満面の笑みを浮かべて。



「取柄があろうがなかろうが、才能があろうがなかろうが。誰かの為に頑張れる人間が弱い訳ないじゃない。もっとも、そういうのを叩き伏せられる位じゃ無ければ世の中自由にならないのも確かだけど」



自由に生きるってのも案外大変なのよ?

生粋のアフォが、そんな事をぽつりと言った。



「そうだな、自由って難しいよな」



この世で、もっとも自由に生きてるっぽい二人にもちゃんと悩みはあって。


「お兄様~、今日こそは紅茶セットを当てて見せますわ」

「おう、程々にしとけよ。クジも、全部引いたら楽しくなくなっちまうしな」



「この後、国内をちゃんと周って色んな所に眼を向けられると良いわね」

「そうだな、アフォなりに良くする努力をしていかないとな」



「私は、人生体験双六のアトラクションの制作があるから」


じゃっと行こうとしたササラの右肩をカイが左肩を鈴が腰に抱き着く様に止めたシエルが不穏なものを見る様な顔で尋ねた。



「今度はこの銭湯に何を追加する気だ」「だってぇ~、美容品に健康器具にって普通のやつばっかり作ってると私が全然楽しくないから。人生谷あり、谷底から転げ落ちるのばかりの体験双六とか作りたいじゃん~」



その台詞に全員が白眼になりながら、お互いをみやり一つ頷く。



「「「ぜってぇ~、作んなそんなもん!!」」」



怖い顔の鈴がズームで迫り、カイがササラのほっぺを両方びよいんびよいんとつねる。



「ひょひょんにゃ~」


シエルも、うんうんと力強く頷く。

よく見れば、街のお客さんも領主もみんなみんな同じように頷いていた。



「鈴さん、これが変な事しないようにこれからも宜しく頼む」

「えぇ、カイ君。一緒に頑張りましょう!」


二人で見つめ合って、愛とは違う何かを決心し合う二人。



「お二人さん、頑張って下さいよ。今必死に空中平泳ぎで脱出しようとしてるこのバカをきちっとしといてください」



シエルもササラの腰にしがみついたまま、首だけで振り向いてそんな事を言っていた。



「にげるんだYO~」「逃がさねぇよ?!」



いつも、ごーいんぐまいうぇいな人に周りは振り回されて。

それでも、面白いからついつい近寄ってしまう。





(おしまい)

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