第23話 ササラちゃんはロクなものを作らないよね

「あっここだここだ」そういって、街の一角にある武器屋にはいっていくカイ。




「たのも~」「こんにちわ~」それぞれの挨拶をかけながら入る姉妹。


「なんじゃ、カイか…。とお嬢さん方、こんにちわじゃな」


そういって、笑顔で応対するドワーフの親父。


「アミエルのおっさん、剣の手入れをお願いしたんだけど」


「カイ、お前さん先々週手入れしたばかりじゃないか」


そういって、カイは剣をアミエルに渡し見た瞬間に渋面になった。


「なんで、もうぼこぼこに刃こぼれしとんじゃい!!あれだけ丹念にやってどうやったらこの剣をここまでにできるのか……。一週間後には仕上げとくわい、こりゃー付与に加えて鍛造して折り返して刃付けまでやらんと無理じゃ」


そういって、溜息をこぼす。その間ササラはアミエルの髭をまるで昔の部屋の電気についてる紐の様にぐいぐい引っ張っていた。



「お嬢ちゃん、ワシの髭で遊ばんでくれよ」とササラには優しいアミエル。


「おじちゃん、お酒は好き?」子供路線で行く事にしたササラ。



「酒が嫌いなドワーフがいたら、そいつは病気かなんかじゃよ」


そういって、ササラの頭を優しく撫でながら笑った。




「元気がない、そんなおじちゃんにはこれをあげる♪」


「これは?どんな酒かな」「元気が出るお酒だよ♪」


「姉さん、それ薬酒みたいなものなの?」「ううん、もっといいやつ」


缶には、浅黒いムキムキの漢がダブルバイセップスのポーズで肩の後ろに小さく羽がデザインされてサングラスをかけ天国(へぶん)バイセップスと書かれていた。


ワキまで旨いとロゴが入っている怪しげな缶、それをギンギンに冷やしたそれをあけて手渡す。


瞬間、香りだけで手が震えるアミエル。もう判る、すぐわかる酒から見えるオーラが全然違う。ふざけた缶のデザインがもう視界にも入らない位に酒に魅入られていた。


たった一本の小さな缶に、己の全てを捨ててでも飲みたいと思う程の酒が目の前にあった。


震える手でゆっくりと、口をつけ彼は天国へ旅立った。





<END>





気がつけば空の缶がその手に握りしめられており、いつ戻ってきたのかも判らない。


「元気でた?おじちゃん♪」



笑顔でのぞき込む赤ジャージの女の子に、アミエルは「これを口にして元気が出なかったらドワーフではない!」と叫ぶ。


「このワシが、意識を一瞬とはいえ失う程の旨さと香り……」缶を必死に逆さにしてふりまくって最後の一滴を手のひらに出しては必死に舐める。



「なら良かった」そういって、ササラが帰ろうとするとアミエルは手を伸ばしササラの肩を捕まえる。


「もっと無いのか?」鬼気迫る声と血走った眼でアミエルが尋ねる。



「一本銀貨二枚です」「あるだけよこせ!!」


二十四本入りを十ケースその場に出すササラ、秒で叩きつけるように金を置くと全てのケースを同時に担いで「うほうほうほうほ~♪」とおっさんが奥に消えて行く。



「あの…、俺の剣は?」「そこに道具がある勝手にせい!」


怒鳴るアミエル、呆れる三人。



「これ、借りていいんだったらあたしがやるけど?」


「なぁ、師匠一体あれはなんなんだ」


奥を指さして考え込むカイ、仁王立ちでどや顔のササラ。


「蒸留酒ってほら、蒸留した後で樽で寝かせたりして味を丸くしたり樽の香りをつけたりじゃない。あれの時間のみを進めて、丁度のみごろにしたウィスキーよ。私用の寝酒ってやつね、辛い事があっても寝るのが大事だし?」



「アミエルさん、マジで天国に旅立ってたぞ。あんな溶け切った顔見た事ねぇよ」



「飲んでみるなら売るけど?」「一本貰うわ」



一口飲んだ瞬間に、空へ溶けていったカイ。





<END>





「なんじゃこりゃぁぁぁぁ」「お酒よ♪」


「これだけで戦争になるわ、アホ~~~」



何このヤバい口当たりの滑らかさ、まるでほっぺに優しくキスでもされてるような。


それでいて、空腹で死にそうなときに目の前で今から焼肉しますとかいってガーリックとか香りのキツイタレぶちまけられてる様な良質なアルコールの匂いの洪水。



こんなん飲まされた日にゃ、しばらく普通の酒は飲めねぇぞ。


余りの旨さに戦慄し、震えるカイ。



「これ幾らだって?」「銀貨二枚、原価は一枚だけど」「うちの国の酒造潰すつもりかよ!」


「いやだから、私の寝酒だからカイ君とさっきのオジサンは特別に売ってあげただけ」


急に、真顔になるカイ。



「絶対売るなよ、アミエルさんに追加頼まれても。他のドワーフにかぎつけられたら、自分の分残らねぇよ?」


「らじゃー」



カイの剣を魔法とアナログな道具で修理(例の創造した腕を使って)しながらササラが自分の手で敬礼した。


「全く……、ロクなもんこさえないなこの人」

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