第一章 第六の道 天界道

第5話 現状理解が及ばない

 第六の道 天界道


 その幸せがまやかしであることを、私は知っている。


 長門未来の六道輪廻 第一章


 暗い暗い水底に私の体は沈んだはずだった。

 けれど、目を開けると光を感じた。眩しすぎるほどの光。目が眩んで頭が痛む。……痛い?

「げんじ、つ?」

 疑いながら、起き上がる。辺りは果ての見えない草原だった。爽やかな風が緑を揺らす。その緑の行く先には見たことのないほどの澄んだ青空。

 ??? ……待て、状況が理解できない。

 確か、私はナガラに撃たれて、海に飛び込んだはず。死のうと思って。死ぬほど辛い思いをして、どうにか冷たい海の温度を感じ、望んだとおりに死んだはずだ。

 しかし、これはなんだ? 体は濡れてもいないし、今気づいたが、ナガラに撃たれた傷もない。それどころか妙に小綺麗になっている。血まみれだったシャツもベストも元の色を保っている。というか、新品同然だ。

 相も変わらず手足は血の気のない白で、雑に切られた髪も色素の薄い嫌な色だが……痛みもあるし、地面の質感もやたら生々しく感じられる。夢というにはリアルすぎるが、夢みたいな世界だな。

 人は近くにいない。だだっ広い草原が広がるばかりだ。

 とりあえず一応の確認、とベストの隠しポケットに手を突っ込む。固い感触があった。取り出してみると、見馴れすぎた愛用のカッターナイフ。

 何の気なしにきりりと刃を出し、右の中指の先を切ってみる。ぷつっとまとわりつくようなその液体は手の甲を伝ってぽたりと地面に落ちる。


「何をしているんですかっ!!」



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