第49話 富井家
一つ納得しても納得できないことの方が多すぎて混乱する。
言葉にできないのがもどかしい。
ただ一つ確証できたのは、ここが六道輪廻で言うところの「畜生道」にあたるということだ。
言葉は悪いが「犬畜生」という言葉が示す通り、人間以外の動物は悪い言い方をすると「畜生」と表現されている。故に、動物に転生する道が畜生道と呼ばれているのだ。
確か、六道輪廻の
地獄から連なる餓鬼道から天界道に戻れるとはとても思えないから、リウの干渉により行けるのは人間道か畜生道かという二択だっただろう。二分の一という確率の中で、まさか畜生道に落ちるとは。
「……にゃあ」
「ミライ姉可愛いー」
これではせっかくナガラに会えたというのにまともに会話もできないではないか。色々とナガラの方が知っていそうなのに何も聞けないではないか。まあ人語が解せるだけましなのか。
可愛い可愛いと私(猫)を撫で回す姿は重篤な動物好きを連想させた。こいつってこんなやつだったのか。
時折見えるにまにまとした笑顔にはまるで邪気がない。無垢とも言えるかもしれない。まさか、これがあの連続通り魔殺人の犯人とは。
「……にゃあ」
あまりにも絶え間なく撫でられるもので、気持ち悪くなって不機嫌に鳴くも、思い切り抱きしめてきた。苦しい、苦しい。
「こら永良、猫ちゃんが困っているでしょう?」
そこに聞いたことのない大人の女性の声がした。
「いいじゃん、お母さん」
え?
まさか、まさか、ナガラには家族がいたというの?
ナガラがそちらを向いたことにより、その人の姿が見える。黒い艶やかな髪を持つ、大和撫子な美人さんが立っていた。
この人がナガラの母親なのか? 似ているのは色白ということくらいだが……
「なぁに狐につままれたみたいな顔してるのさ? ミライ姉。あ、お母さんが美人過ぎてびっくりしてるんでしょう?」
んなわけあるか、美人だが。
「まあ、永良ったら上手いんだから」
ナガラの母親という人物は満更でもない様子だ。腑に落ちないのでにゃあと不機嫌に鳴いておいた。
ナガラの母親は人がよさそうだ。私の知る母親──長門家の母親とは違う。温かい母親だ。
ナガラはこんな温かい家庭で暮らしていたのか? ──いや。
これがナガラの過去とは限らない。どちらかというと、時間は進んでいるはずなのだ。
こんな温かい家庭にありながら、殺人鬼になったとは思えない。
しかし、その予想は裏切られる。
ナガラと遊んでいたときだ。
ナガラは新聞をくしゃくしゃにして、投げては私に取らせに行っていた。すると、母親が出てきて、あーっと声を上げる。
「ちょっと、それ今日の新聞じゃない。だめでしょ」
「あ、ごめんなさい」
ナガラがくしゃくしゃの新聞を広げる。
そこの日付を何気なく見た。
そこにあったのは……
私が通り魔になる半年前の日付だった。
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