第四章 第三の道 畜生道
第48話 目が覚めるとそこは
長門未来の六道輪廻 第四章
そこで初めて愛という言葉を知る。
第三の道 畜生道
木の温もりのある明るい天井がぼんやりと見えた。
それは今や懐かしい人間世界の家屋の中であることを示した。どうやら転生したらしい。無事にこの世界に戻ったことに溜め息を吐くと、「ふにゃぁ」という変な声が零れた。
そんな声を出すようなキャラじゃないため、少し羞恥が込み上げる。我ながら間抜けな声だ。誰かが見ていたら笑われるんじゃないか。
柄にもなくおどおどして首を巡らす。なんだか小回りが利くような気がしたが……
くすっと笑う声がした。そちらに振り向こうとして、自分が仰向けに寝ていることがわかり、起き上がろうとしたのだが……慌てているせいか、上手く起き上がれない。いや、慌てているせいじゃない。手が地面につけられない。
ただただもがくようにうにゃうにゃやっていると、不意に体を持ち上げられた。
……持ち上げられた?
そこでようやく異常に気づく。手足が人間のバランスと大きく異なる。異なるとかそういうレベルじゃない。手足が見えて、ついでに尻尾まで見えてわかった。
そもそも私、人間じゃない。
人間みたいに思考を持っていることが不思議だけれど、にゃあという声から察するに、私は今、猫になっている。
おそらく人間に持ち上げられたのだろう。屋内にいるということは、飼い猫か。
しかし、そんなことに衝撃を受けている場合ではなかった。
「おはよう、ミライ姉」
「っ!?」
一気に緩んでいた思考が冷水を浴びせられたように引き締まり、冷静さと警戒心を与える。
私をミライ姉と呼ぶ人物なんて一人しかいないし、一年中何かと聞いていた声は間違えようもない。
「にゃああっ!?」
……だめだ。この鳴き声はどうにかならないのか。緊張感が台無しだ。
思わず人間の感覚で「ナガラ!?」と叫んだつもりになってしまったが、猫は猫の声しか出せないらしい。恨めしや。
「なんだ、僕の名前覚えていてくれたの? にゃんこで必死なミライ姉も可愛いねー、よしよし」
頭を撫でるそいつ。毛の上からわしわしと撫でる手は華奢。抱きしめられている胸も華奢。いや男で胸があったら怖いが……ナガラは男だよな?
不審げな声──けれど「にゃあ」にしかならない──を上げる私の思惑を知ってか、そいつは抱き方を変えた。
顔が見える。男とも女とも取れる中性的な面差し。色素の薄い灰色の目と灰色の髪。私より柔和な面差しのそいつは、紛れもなく、私の知る富井永良だった。
聞きたいことはたくさんある。
何故ナガラが人間なのか。何故私が猫としてナガラに飼われているのか。何故ナガラは当然のように私のことを「ミライ姉」と読んでいるのか。
腑に落ちない点ばかりである。
だが、その疑問を口にできない。何故なら私は今、猫なのだから。出てくる声は「にゃあにゃあ」ばかり。生き返って早々悪いが、死にたい。何が悲しくてナガラに抱かれてにゃあにゃあ言わねばならぬのだ。キャラじゃないにも程がある。
けれど一つ納得がいった。
リウが言っていた、人間道に都合よく行かせられないかもしれない、みたいなことの意味。
──こういうことだったのか。
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