第69話 リウの迎え
そこに現れたのは、見覚えのある少女だった。
黒い髪に白い肌。
「……セツ?」
塞の川原で石積みをしていた少女だ。
だが、ナガラが同時に声を上げる。
「
……え。
まさか。齢十ほどの少女だぞ。ナガラの母親、雪さんであるはずがない。
だが、雪のように白い肌に、黒く艶やかな髪は、確かに雪さんとも似ていた。
リウが私たちの反応に苦笑する。
「……ぼくにとっては、シュエなんですがね」
シュエ、というと、確か、リウの記憶の中にいた女の人だ。言われてみると雪さんに似ているような気がする。
「自分で見ていて思うが、輪廻ってのは時に複雑怪奇だなぁ」
阿修羅がこめかみの辺りをぽりぽりと掻きながら告げる。
「お嬢ちゃんの言うセツも、坊っちゃんの言うお母さんも、シェンの言うシュエも、全員元を質せば同じ魂で同じ魄の人間だ」
「なっ……」
驚愕に口が塞がらない私とナガラに、夜叉が付け加える。
「よく考えて見てください。雪という漢字は『セツ』とも読みます。そして漢字は元々漢……あなたたちにわかりやすく言うなら中国のものです。そして中国で雪は『シュエ』と読む」
まさか、という繋がりだった。
「根づいた名がその魂と魄を強く引き付け、この時代までに姿を変えずに連なってきた。歪んだ時空の中で歪まされた存在となったわけです」
そうだ。シュエはともかく、セツは辻褄が合わない。私が六道を巡る最中に地獄道に存在していながら、人間道ではナガラの母親であった、となると。……私やナガラの存在で如何に時間が捻れてしまったのかよくわかる。
「ずっと、以前、シェン様がぼくを救ってシュエを救わなかった理由がわからなかった。彼女だってぼくと近い境遇にあったというのに。その理由が、これですね」
「そう、貴方がいずれシェンの後継者になることを運命づけられていた通り、この女性にも役割があった。やがて生まれる歪みを受け止めるための六道側の歪みとなる運命が」
曰く、世界の歪みとなるナガラを受け止める存在として、六道輪廻を巡る私の案内人としての役割を受けるために、雪は存在していたのだという。
「ここにあるのは雪の魂ではなく魄。役目を終えた魂は消え、魄のみが次なる役目を与えられることになった」
「魄が?」
体だけで役目、とはどういうことだろう。
首を傾げる私に、夜叉が言ったでしょう、と告げる。
「わたくしたちがあなたたちの戦いを見ていたのは暇潰しだけが理由ではない、と。──これが来るのを待っていたのです」
「何のために?」
「あー」
阿修羅が面倒くさそうに頭を掻きむしる。
「お前らを他の六道に戻すための魄とするためさ。修羅道に来ちまったってことは、魄が存在しなくなる。魂のみがここに来て、浄められることで次の輪廻へ旅立つ。まあ、浄めっつうのが魂を滅することなんだが。
魄は正確に言うと壊れて作り直されるだけ。相性のいい魄ができたら、魂はこの世界から出ていき、他の六道に転生する。
しかし、お前らには適合する魄なんてそうそうない。何せ人間が生み出した自然に反する魂だからな。
その言葉に私はナガラと顔を見合わせる。
魄がなければ、どの道私たちは消えるだけだった、ということだ。
「だが、適合する魄は入手できた。お前らと同じ歪みの渦中にある魄だ。お前らのどちらにも適合することだろう。一体しかないが」
「わたくしたちは見たかったのです。あなたたちが何を選ぶのかを」
魄は一つ。その中に魂は一つしか入れないのだろう。
どちらかは消えるしかない。
故に、どちらかが消えなければならない。
「さあ、どうしますか?」
リウが差し伸べてきた手に迷う私。一方ナガラは──
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