第9話 貴方の業
ぴきぃんっ
「きゃああっ!!」
頭の割れるような痛みに私は飛び起きる。心臓が早鐘を打つ。息が、苦しい。
「どうしました!?」
傍らにリウの姿。どうやら屋内に連れ込んで倒れた私を介抱してくれていたようだが、それどころではない。痛い、痛い、痛いっ……それだけが私を苛む。
「けほっかはっかはっ……」
咳き込む私の手をさするリウの手。ちりちりとした痛みが頭の中に疼くが、少し落ち着いた。
「ありが、とう、リウ」
「いえ、まだ無理に喋らない方が。もう少し横になっていてください」
「だい、じょーぶ」
説得力の欠片もない声で呟きながら、結局リウの腕の中に力なく倒れ込む。
「貴方も、見たの?」
「何をです?」
「私の記憶」
「!?」
私の問いかけにリウが息を飲む。答えは聞かずとも想像がついていた。
「いいよ。私が望んだんだから」
「……これほどの業とは思っていませんでした。こんなに若いのに」
そういえば、私は十五で死んだんだっけ? この人も随分若い気がするけれど。
「元々、そう永くはない命だったから。そういえばリウは年いくつなの?」
「二十三で死にました。ここに来てからは長いですが」
「二十三でも、充分短い」
そう言うと、リウはくすりと笑った。
「いいえ。ぼくのいた時代からすれば普通ですよ。そうですね。貴女に少しお見せしましょう」
言うなり、リウが手を私の額に当てた。そこから仄かに光が放たれる。すると、頭の中に映像が流れ込んでくる。
固く忠誠を誓った帝。数々の戦に駆り出され、幾多もの功をあげたリウは、その功績に対して出た褒美で、弟妹たちを養っていた。幼い頃、貧困から救われた恩に報いるため、槍を振るった。どれだけ己の手を血に染めようと、弟妹たちのため、ひいては帝のために。
しかし、そんな彼はある日絶望の淵に立たされる。信じていた帝に裏切られたのだ。彼の功を妬んだ何者かが仕組んだことだった。何もしていないのに謀反人として追われ、弟妹を人質に取られ、出頭したところ、目の前で弟妹たちを殺される。
そこで、リウの中にあった何かが壊れた。彼はその場にいた全ての人間を葬った。無数の矢に射抜かれながら、彼は果てに帝までをも手にかけ、そこで絶命した。
死に際、戦い狂ったリウの瞳の琥珀色は燃えたぎっていた。
その目に残った炎の影が抜けていったところで、映像は終わった。
「これは、リウの記憶?」
「はい、ぼくが負った業です。ぼくばかりが知っていては、不公平ですからね」
そんなことを言うリウの目は優しい色をしていて、少しほっとする。
「シェン様はこんなぼくの魂を拾い、ここに導いてくださりました。それから今のこの力と役割をいただいたのです」
朗らかにリウが笑うのを見、自然と私の心も和らいだ。
「今、幸せ?」
「はい」
「なら私も、幸せになれるかな」
「きっと」
嘘のない人。
必ず、とは言わないんだ──
琥珀色の優しさに包まれながら、私はまた気を失った。
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