第45話 エアコンより扇風機の方が優れているんじゃ…… 後編
夏休みの登校日は半ドンのため、学校は午前で終了だ。
だが、大半の生徒はすぐには帰ろうとしない。
夏休みでなかなか会う機会のなかった友だちに久々に会えたから、帰宅する前におしゃべりを楽しもうと考える生徒も多いのだ。
オレはというと、まわりが雑談に夢中になる中さっさと帰る準備を済ませ、急いで教室を出て帰途についたのだった。
もちろん久しぶりに会った友人と話したいという気持ちもあったが、それより早く家に帰って眠りたいという気持ちの方がずっと強かった。
二時間しか寝ていないせいか、起きているのもそろそろ限界だったのだ。
どこにも寄り道せずにまっすぐに自宅に向かう。
そして帰宅すると、昼食もとらずに自室にこもった。
カバンを床に置いたオレはまずエアコンを起動させる。
その後すぐに制服から寝巻きに着替えてベッドにダイブした。
そのまま仰向けに寝転がり、ふとんをかけて目を閉じる。
すると、すぐに強烈な睡魔に襲われ、深い眠りに誘われるのだった。
◇◇◇◇◇
数時間後。
日が落ちてすっかり暗くなった頃に、オレは猛烈な暑さを感じて目を覚ました。
「暑……」
上半身だけ起こし、エアコンの方に視線を向けると、なんと冷風ではなく温風を放っていたのだった。
「マジかよ……エアコン故障してる……」
どうりで暑いわけだ。
一応、リモコンの停止ボタンを押し、しばらくしてから再度起動してみるが、正常に動いてはくれない。
完全に故障してしまったようだ。
「……まぁ子どもの頃から使ってるエアコンだからな。そろそろ寿命だったのかも……」
このエアコンは小学校に進学した頃から使っているため、10年近くが経過していることになる。
故障したとしてもおかしくはないだろう。
まだまだ暑い日は続くので、明日にでも買い替えた方がよいかもしれない。
「問題は今晩どうするかだな……」
今夜も熱帯夜になることが予想されるため、エアコンなしで過ごすのはキツ過ぎる。
かといって、リビングなどの家族の共用スペースで過ごすのも憚られた。
「仕方ないから扇風機でも出すか……」
さっそく押入れにしまっておいた扇風機を引っ張り出す。
エアコンと違って室内の気温を下げることはできないが、ないよりはマシだろう。
とりあえず今夜は扇風機で凌ぐことにした。
プラグをコンセントに差し込み、スイッチを入れる。
扇風機の羽根が回転して風を送り始めるが、エアコンに慣れてしまったオレにはあまり涼しいとは感じられなかった。
「あんまり涼しくないけど、一晩の辛抱だし頑張るか……」
今夜だけだと思って何とか乗り切るしかない。
とりあえず回転の速さを『強』に設定し、少しでも暑さを紛らわすことにしたのだった。
それからさらに数時間後。
オレは深夜にベッドに入ったが、寝苦しくてなかなか寝つくことができないでいた。
原因は明白。暑すぎて扇風機では気休めにしかならないからだ。
「くっそ〜寝れねぇ……」
何とか眠ろうと試しに羊の数を数えてみるも効果はない。
むしろ逆に目が冴えて、余計に眠れなくなる始末だ。
結局その日は、一睡もできないまま朝を迎えることになるのだった。
「あ〜あ、完全に寝不足だよ……」
外が明るくなってもまったく眠れる気配がなかったため、仕方なく起き上がって寝巻きから部屋着に着替える。
それから扇風機の前に座って涼み始めた。
もちろん『弱』や『中』では気休めにすらならないため、設定は『強』だ。
暑い室内でも扇風機の強風に常に当たっていれば、だいぶマシだと思える。
オレは部屋のドアに背を向けた状態で床に腰を下ろし、扇風機の強風を一身に受けて涼をとるのだった。
それからどのくらい時間が経っただろうか……。
扇風機の前から動く気になれず、ダラダラとスマホをいじっていると、部屋のドアがノックされた。
ノックの音に気づいたオレは、反射的に振り返る。
すぐにドアの向こうからよく知っている少女の声が聞こえてきた。
「……研吾! あたしよ! 入ってもいい?」
「真希か……?」
それは紛れもなく幼馴染みの真希の声だった。
「ちょっと待ってろ。今、開ける……」
スマホをベッドの上に置き、ゆっくりと立ち上がる。
それから部屋の出入り口の方へ向かい、ドアを開けた。
その瞬間、真希と視線が合う。
今日の真希は、模様入りの白いTシャツにピンクのミニスカートという非常にラフな格好をしていた。
「よかった……ちゃんと起きてるわね」
オレの顔を見るなり、そんなことをつぶやく。
「もしかして起きてるか確認に来たのか?」
「そうよ。夏休みにかなり生活リズムが乱れちゃったみたいだったから、今日もまだ寝てると思って起こしに来たの。でも、起きてるなら安心したわ」
それを聞いて、オレは彼女の訪問の理由を理解した。
どうやらオレの生活リズムの乱れを気にして、休みだというのに様子を見に来てくれたらしい。
昨日の登校日にだらしない姿を見せてしまったから、心配になったのだろう。
世話焼きな性格は未だに健在のようだ。
「……まぁとりあえず入れよ」
いつまでも立ち話するわけにもいかないので、部屋に招き入れることにする。
「ええ……お邪魔します」
今まで何度も入ったことのある部屋なので、真希も特に躊躇したりはしない。
ドアを押さえているオレの横を通り、遠慮なく部屋に足を踏み入れた――まさにその時だった。
つけっぱなしの扇風機の強風が真希のスカートをめくり上げたのだ。
かなり丈の短いスカートだったため盛大にめくれ上がり、パンツが丸見えになってしまう。
「し、白……」
その決定的な瞬間を思春期真っ只中の男子が見逃すはずがない。
オレの視線は真希のパンツに釘付けになってしまっていた。
真希はすぐには何が起きたのか理解できていない様子だったが、やがて扇風機の風でスカートがめくれたことに気がつき、
「きゃあっ!!」
悲鳴を上げてめくれたスカートを押さえるのだった。
「…………見た?」
しばらくして真希が真っ赤な顔でオレを睨みつけてくる。
「い、いや……」
とりあえず否定しておくが、そんな嘘はすぐにバレた。
「嘘つかなくていいわよ。さっき『白』って言ってたでしょ……」
「う……」
真希の穿いていた純白のパンツが偶然視界に入ったため思わずつぶやいてしまったのだが……どうやら聞かれていたようだ。
「ごめんなさい……やっぱり今日はもう帰るわ……」
パンツを見られたことがよほど恥ずかしかったのか、未だ顔を真っ赤にした状態の真希が逃げるように部屋から出ていく。
オレはその後ろ姿をただ黙って見つめていた。
「……まさか真希のパンチラが拝めるなんてな……」
真希の姿が見えなくなったため、部屋の中央に置かれた扇風機に視線を移す。
扇風機は今も強風を送り続けてくれていた。
「これは扇風機の……いや、扇風機様のおかげだな……」
エアコンでは真希のスカートがめくれることはなかっただろう。
扇風機だからこそ起きた現象と言える。
真希は学校でもかなりの美少女として男子生徒に人気だ。
そんな美少女のパンチラを拝めたのだから嬉しくないわけがない。
朝からこんなラッキーなハプニングに恵まれるなんて、今日は幸せな一日になりそうだ。
「もしかして扇風機ってエアコンより優秀なんじゃ……」
先ほどのパンチラ事件が嬉しすぎて、本気でそんなことを考えてしまうのだった。
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