第34話 オープンキャンパス3

 夏休みが始まり、待ちに待ったオープンキャンパスの日がやって来た。

 第一志望の大学に行けるのかと思うと、ワクワクしてくる。

 その日、僕は普段よりも早い時間に起きて準備を始めていた。


 服装は無難に制服をチョイス。別に私服で行ってもよいのだが、あまりラフな服を着ていって印象を悪くしたくなかったからだ。

 その制服も着崩さないようにして、靴やカバンも高校指定のものを使うことにする。

 起きてすぐに鏡の前で寝グセも直したため、外見はばっちりだ。

 これで少なくとも、見た目だけで悪い印象を与えてしまうことはないだろう。


 そうして準備が終わり、朝食を済ませると、僕は胸が高鳴るのを感じながら家を出た。


「行ってきます!」


 今から憧れの大学に行ける。広いキャンパス内を自由に移動し、様々な施設を見て回れる。

 それが楽しみで、どうしても浮足立ってしまう。


「……それにしても暑いな」


 夏休みなので当たり前だが、今日も朝から暑い。

 天気予報によれば本日の日本列島は高気圧に覆われるため一日を通して晴天に恵まれるそうだ。

 つまり、気温はこれからさらに上昇することが予想される。

 熱中症にならないようにこまめに水分補給をした方がよいだろう。受験生たるもの、体調管理には細心の注意を払わなければならないのだ。


 そんなことを考えながら炎天下の屋外を歩き、最寄り駅に向かった。


 そこから電車、新幹線、地下鉄などを乗り継いで遠方にある大学を目指す。

 夏休みだからか車内は家族連れや観光客などで非常に混雑している。

 思えば一人で遠出したことなどないので、ちょっとした一人旅みたいで何だか楽しかった。


 そうして片道約三時間ほどかけて、無事に第一志望の大学にたどり着くことができたのだった。


「ここが大学かぁ〜」


 活気に満ちたキャンパスに目を奪われる。

 賑やかなキャンパスは、どこを見ても非常に華やかで、行き交う大学生たちはみな輝いて見えた。


「みんな楽しそうだな……合格したらここに通えるようになるのか……」


 まだ広大なキャンパスのほんの一部分を見ただけなのに、自然とテンションが上がってくる。

 この大学に通いたいという気持ちがさらに強くなった。


「……ていうか、いつまでもここにいるわけにはいかないな……そろそろ移動しないと」


 オープンキャンパスの期間中は大学内の様々な施設が解放されている他、受験生に向けた説明会が開催されていたり、実際に講義を受けたりすることができる。

 それらに参加するためには、一箇所に留まっているわけにはいかないのだ。


 まずは受験生の向けの説明会に参加するべく、会場に向かって歩き出した。


        ◇◇◇◇◇


 そうして昼食をとるのも忘れて大学内を見学して回ること数時間。

 ついにオープンキャンパス終了の時刻が近づいてきた。

 少し残念だが、見学できるのはあと一箇所だろう。


 だが、最後にどこを見学するかはすでに決まっていた。


 その場所とは、キャンパス内にある図書館だ。


 事前に調べた情報によれば、この大学の図書館の蔵書はかなり充実しているらしい。

 大昔に出版されて現在ではすでに絶版になっているような書籍も多数存在すると聞く。

 だから、図書館だけは絶対に見学しておきたかった。僕みたいな陰キャにとって、本に囲まれた静かな空間はオアシスのようなものなのだ。


「……よし! まだ時間はあるし、今から向かえば見学できるな……」


 さっそく図書館に向かおうとする。

 が、ここで重大な問題に直面した。


「いや、図書館を見学するとか言う前に……ここ、どこだろう?」


 そう――僕は今、広すぎる大学で迷子になっていたのだ。

 敷地内に建っているどれかの建物の中だということだけはわかるが、現在地まではわからない。

 どうやら夢中になってキャンパス内を見学しているうちに迷ってしまったようだ。

 しかも、今いる建物はあまり使われることがないのか、まったく人気ひとけがないので誰かに現在地を訊ねることもできない。

 この状況はさすがに想定外だったため、僕は頭を抱えてしまった。


「まいったな……まさか高校生にもなって迷子になるとは……」


 まぁ、自分のいる場所が大学内のどこなのかわからないというだけなので、一般的な迷子とは少し違うかもしれない。図書館の見学は諦めて帰途につくという選択肢もあるのだ。


 だが、図書館は一番楽しみにしていた場所なので、できれば見学していきたい。

 見学せずに帰るなんてしたくはなかった。


「仕方ない……適当に歩き回ってみるか……」


 広いといっても大学のキャンパスなのだから、歩き回っていれば、そのうち見知っている場所にたどり着くかもしれない。

 ……というか、もうその可能性にかけるしかないだろう。


 そう考えて、アテもなく歩き出そうとした――まさにその時だった。

 突然背後から声をかけられたのだ。


「キミ……こんなところでどうしたの? もしかしてオープンキャンパスに参加している高校生かな?」


 驚いて後ろを振り返る。


 そこには一人の大学生らしき女性が立っていた。


 

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