第43話 幼馴染みとテストの点数勝負4

 答案用紙を見せ合ったオレたちは、すぐに自分の点数と相手の点数を確認する。


 点数はオレが97点、唯奈が96点。


 つまり……一点差でオレの勝ちだった。


「……え? うそ……」


 唯奈が動揺を見せる。


 いや、唯奈だけではない。勝ったオレも激しく動揺していた。


「マジで……? オレ、勝ったのか……?」


 正直、すぐには信じられなかった。

 採点ミスでもあったのかと疑ってしまう。


 しかし、答案用紙を確認してみても採点ミスは見当たらない。

 オレは実力で唯奈に勝ったのだ。


「やった……勝った! 勝ったぞ!」


 初めての勝利にオレは歓喜する。

 一科目だけとはいえ、優秀な唯奈にテストで勝ったことがこの上なく嬉しいのだ。


 一方、負けた唯奈は呆然としていた。

 この結果は完全に予想外だったのだろう。


 だが、すぐに敗北した現実を受け入れてオレを称賛し始める。


「おめでとう、和樹。あたしの負けよ」

「ああ、ありがとう」


 その称賛の言葉が素直に嬉しかった。

 これで少しは見直してもらえただろうか……。


「……それにしても、結構自信あったのに負けちゃうなんてね……和樹もやればできるじゃない!」

「そ、そうかな……?」

「次からは他の教科も頑張りなさいよ」

「そうだな……他の教科でも勝てるように頑張るよ」


 一番得意な教科で一回勝っただけだというのに、何だか自信がついた気がする。

 オレでも努力次第で唯奈に勝てると判明したことが自信に繋がったのだ。

 次は数学以外の科目も頑張ろうと心から思えたのだった。


「……で、和樹はあたしに何をしてほしいわけ?」


 潔く負けを認めた唯奈がオレの命令を待つ。


「あ、そうだったな……」


 勝ったオレは唯奈に何でもひとつ命令できるのだが……正直勝てると思っていなかったので、何も考えていなかった。


 その場で命令の内容を考え始める。

 だが、なかなか良い命令が思いつかなかった。


 もちろん、唯奈にしてほしいことはたくさんある。

 まず思いついたお願いの内容は、『彼女になってくれ』だ。

 何しろずっと好きだった女の子にひとつだけ命令できるのだから、思春期の男子なら真っ先にそれを思いつくだろう。


 だが、その命令はすぐに却下した。

 こんな罰ゲームで唯奈を強引に彼女にしたところで意味はないからだ。


 告白するなら、もっと努力して唯奈より優秀になってから堂々と気持ちを伝えるべきだろう。

 たった一度、得意科目のテストで勝ったくらいではまだまだ彼女に釣り合う男になれたとは言えないのだ。


 オレは再び悩み始める。


 『弁当を作ってきてほしい』『耳掃除をしてほしい』『デートしてほしい』などなど、要求ならいくらでも思いつくが、それらは付き合うことができれば普通に叶う願いだ。


 ひとつだけ命令できる権利を行使してまでお願いするようなことでもないだろう。


 せっかく命令権を手に入れたのだから、唯奈が絶対にしないようなことをやらせたい。


 それが本音だった。


(……そうだ!)


 悩んだ末にオレはようやく命令を思いつく。

 

 罰ゲームでもなければ唯奈が絶対にやらないこと。

 それを命じることにした。


「じゃあ……今日一日ノーパンで過ごしてくれ」

「……え?」


 その瞬間、唯奈が硬直する。

 何を言われたのかすぐには理解できていない様子だった。


「な……な……」


 やがて命令の内容を理解した唯奈の顔がみるみる赤くなってゆく。


 そして顔を真っ赤にしたまま罵倒してくるのだった。


「和樹のエッチ! お、女の子になんて命令するのよ!!」


「しょうがねぇだろ! 他に思いつかなかったんだから!!」


 オレも負けじと言い返す。

 本当は他にも『おっぱいを揉ませてくれ』とか『お尻を触らせてくれ』とか『一緒に風呂に入ってくれ』とか、いろいろ思いついたのだが、彼氏でもないのにそんな要求をするのはさすがに酷だろうと思い止まったのだ。


 それでギリギリ許されそうな命令を考えたわけだが……どうやら唯奈の基準では普通にアウトだったらしい。

 羞恥に染まった顔でずっとオレのことを睨みつけている。


「うぅ……ノーパンで過ごすなんて……」


 ノーパンによほど抵抗があるのか、オレの前でもじもじとする唯奈。

 その姿は非常に可愛らしかったが、同時に申し訳ない気持ちになってしまった。


「無理なら別にいいけど……」


 本気で嫌なら従わなくてもよいと伝える。

 

 だが、唯奈は命令を拒否する気はないようだった。


「罰ゲームなんだから、ちゃんとやるわ。そもそもこの勝負はあたしから言い出したことなんだし……」


 そう言って、スカートの中に両手を入れると、本当にパンツを脱いだのだった。

 

「……はい。命令通り脱いだわよ」


 片手で脱いだばかりのパンツを持ち、もう片方の手でスカートを押さえる唯奈。

 ちなみに唯奈が穿いていたのは、フロントの部分にピンクのリボンが付いた純白のパンツだった。


 そのパンツを恥ずかしそうにオレに差し出してくる。


「これ……放課後まで和樹が預かってて」

「え……オレが預かるのか?」

「あたしが持ってたら、どこかでこっそり穿くかもしれないでしょ?」

「言われてみればそうだな……」


 不正防止のためと聞いて納得したオレは、唯奈からパンツを受け取った。


「うぅ……」


 パンツを失い、心許ないと言わんばかりに両手で短いスカートを押さえる唯奈。

 その姿はとても扇情的で、また普段の何倍も可愛らしかった。


「じゃあ、そろそろ二時間目の授業が始まるし、教室に戻ろうか」


 受け取ったパンツはひとまず畳んでポケットの中にしまい、空き教室から出ていく。


「まさかノーパンで過ごさなきゃいけないなんて……恥ずかしいよぉ……」


 唯奈もスカートを気にしながら歩き出し、オレの後を追う形で教室に向かう。


 こうして勝負に負けた唯奈は、罰ゲームとして今日一日ノーパンで生活することになったのだった。


         ◇◇◇◇◇


 その日の放課後。

 学校が終わると、オレたちはいつもと同じように並んで通学路を歩いていた。

 

 もちろん唯奈は未だにノーパンだ。

 今日は不用意に走ったりできず、風の吹いている場所では常にスカートを気にする必要があり、特に階段ではいつも以上に気を配らなければならなかったためか、普段よりもしおらしく見えた。


 そして下校中の今も、スカートを気にしながらオレの隣を歩いている。

 ノーパンでいることを恥ずかしがる彼女は本当に魅力的だ。

 これは勉強を頑張ったオレへのご褒美なので、遠慮なく恥じらう唯奈の姿を近くで眺めて目の保養にさせてもらっていた。


 そうして通学路を歩き続けていると、やがて周囲の人がいなくなる。


 他に誰もいないことを確認した唯奈が、パンツを返却するように要求してきた。


「和樹……言われた通り放課後までノーパンで過ごしたわよ。だから、あれ返して……」


 しかし、オレはそれを拒否する。


「放課後までとは言ってねぇぞ? オレは今日一日って言ったんだ」

「え……まさか……」

「日付が変わるまで唯奈はパンツを穿いてはいけないんだよ」

「ええっ!?」


 唯奈の顔が青ざめてゆく。

 きっと放課後になったらノーパンから解放されると思っていたのだろう。


 しかし、それは彼女の勝手な勘違い。

 オレは最初から一日ノーパンで過ごしてもらうつもりだった。

 だから、まだパンツを返すわけにはいかないのだ。


「そういうわけで、このパンツは明日までオレが預かっておく。ちゃんと洗って返すから心配するな」

「ぜ、絶対に明日返してよ……」


 パンツを取り戻すことを諦めて、ノーパン生活を受け入れる唯奈。


 律儀な彼女のことだから、きっと本当に午前0時までノーパンで過ごすのだろう。

 だが帰宅後は自宅から出なければ問題ないのだから、本人もそこまで抵抗を感じてはいないようだった。

 

 その後も歩き続け、やがて別れ道に差しかかったので、オレたちは別れてそれぞれの家に向かう。


 その道中、家の中でノーパンで過ごす唯奈のことを想像すると、どうしても顔がニヤけてしまうのだった。


         ◇◇◇◇◇


 翌日。

 オレはいつものようにギリギリまで寝て、遅刻ギリギリの時間に登校した。


 そうしてギリギリの時間に教室に入る。


 そんなオレの元に唯奈が慌てた様子で駆け寄ってきた。


「遅いわよ、和樹! ちょっと来て!!」

「……唯奈? どうした、そんなに慌てて……」

「いいから来て!!」


 唯奈はオレの腕を掴むと、そのまま教室を出ていく。

 そして近くの階段を上り、踊り場で足を止めた。


 朝のホームルーム間近だからか、踊り場には誰もいない。

 開いている窓から吹き込んでくる風が心地よかった。


 そんな踊り場にオレを連れてくると、唯奈は体をこちらに向けてオレと視線を合わせ、恥ずかしそうに口を開いた。


「あ、あの……返して……」


 何か言っているのはわかるが、声が小さいのでよく聞こえない。


「……ん? 何だって?」

「だからその……あれよ! 昨日預けたあれを……」


 オレに聞こえるように大きな声で何かを言いかけたその時――


 ビュオオオッ。


――開いていた窓から突然強風が吹き込んだのだった。


 その強風が唯奈のスカートをめくり上げる。


 そのおかげで、オレは彼女のスカートの中を真正面から目撃することになった。


「きゃあっ!!」


 唯奈が悲鳴を上げてスカートを押さえる。


 オレは驚愕のあまりその場で硬直し、声を出すことすらできなかった。


 なぜなら、唯奈はパンツを穿いていなかったからだ。


「え……な、何で?」


 ようやく声を出すことはできたが、動揺のあまり言葉にすることができない。


 ノーパン生活は一日だけのはずなのに、なぜ今日もパンツを穿いていないのだろうか……。


 ……まぁ、唯奈の恥部を拝めたことは素直に嬉しいのだが。


 そんなふうに疑問に思っていると、唯奈が顔を赤くしてオレの顔を覗き込んできた。


「……見た?」

「え〜と……何でパンツ穿いてなかったんだ?」


 隠しても仕方ないと思い、正直に彼女の大事な部分を見てしまったことを伝える。


 見られていたと知った唯奈の顔が真っ赤になった。


「……和樹のえっち」


 顔を真っ赤にしたまま恥ずかしそうに視線をそらす。


「いやいや、オレのせいじゃねぇだろ! そもそも何でノーパンなんだよ!?」


 ノーパンの理由を訊くと、唯奈はためらいながらも事情を話し始めた。


「だって……昨日は日付が変わるまでパンツを穿いちゃだめって言ったでしょ?」

「ああ、言ったな……」

「あたし、普段は夜の10時から11時くらいに寝てるんだけど……罰ゲームのせいでパンツを穿けないから……ノーパンのまま寝るしかなかったの」

「ノーパンのまま寝たのか……」


 確かに日付が変わる前に就寝するならノーパンで眠るしかない。

 一応、ここまでの話は理解できた。


「それで今朝はうっかり寝過ごしちゃって……慌ててたからノーパンだってことを忘れちゃってて……」

「お、おい……まさか……」

「うん……急いで制服に着替えたから、パンツを穿き忘れちゃったの」

「だからノーパンだったのか」


 要するに、唯奈は昨夜ノーパンで寝たことを忘れたまま急いでパジャマから制服に着替えたため、パンツを穿くのを忘れてしまったようだ。

 こんなドジな一面もあったのかと、思わず笑いそうになってしまう。

 まぁ、本当に笑ったら怒られそうだったので何とか堪えたのだが。


 唯奈が話を続ける。


「そういうわけだから、昨日預けたパンツ返して」


 なるほど、そういうことかとオレは思う。

 

 オレは昨日、唯奈からパンツを預かり洗って返すと言った。

 それを今ここで返してもらって穿くつもりなのだろう。


 しかし、唯奈には申し訳ないが、事情があってパンツを返却することはできなかった。


 その事情を説明をする。


「あ〜実はな……パンツ洗ったんだけど、持ってくるの忘れちまって……」


「……え!?」


 オレの言葉を聞いて、顔面蒼白となる唯奈。


「だから悪いんだけど、もう一日ノーパンで過ごしてくれ」


「そんなぁ〜〜〜!! 昨日だけでも死ぬほど恥ずかしかったのに〜!!」


 唯奈の絶望の声が踊り場に響いたのだった。



 


 


 

 



 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る