第44話 エアコンより扇風機の方が優れているんじゃ…… 前編
オレの名前は
顔立ちは比較的整っているが、髪はボサボサなのでだらしなく見られてしまうことが多い。
身長はクラスでも高い方で、少し前まで部活でサッカーをやっていたおかげか逞しい体つきになっているような気がする。
実際、中学生にしては筋肉がついているし、体も引き締まっていた。
外見にはわりと恵まれていると言えるだろう。
そんなオレだが、夏休みに突入した現在は冷房の効いた部屋でダラダラと過ごすことが多くなっていた。
去年までは長期休暇の時もサッカー部の活動があったので、毎日大忙しだった。
だが、今年はもうサッカー部の活動はない。
夏休み前に引退してしまったからだ。
もちろん受験勉強をしなければならないとわかってはいるのだがやる気になれず、休日は朝から晩まで自宅でゴロゴロすることが多くなってしまっていた。
そんなふうに毎日を怠惰に過ごしていたある日の夜。
「……そういや明日は登校日か……」
自室でスマホをいじっていたオレは、明日が登校日であることを思い出した。
オレの通う中学校は、夏休みに一日だけ登校日が設けられている。
そのため久々に早起きをして登校しなければならないわけだが、オレのように長期休暇でだらけきった日常が染みついてしまった生徒にはツラい日に感じられるだろう。
正直、明日きちんと起きられるか不安だった。
「起きられるかなぁ……」
サッカー部の活動がないせいで、夏休みになってからはほとんど毎日のように昼近くまで寝る生活を送っている。
ひどい時には、夜中ずっと起きていて、明け方頃にようやく就寝し、夕方頃に起床するなんてこともあったくらいだ。
完全に生活リズムが崩れてしまっているため、登校日に都合よく起きられる可能性はゼロに等しかった。
「……まぁ寝坊したらしたでいいか」
生徒は原則登校しなければならない決まりだが、別に授業があるわけではないのでサボってもそこまで問題はない。
そう考えると、無理して起きなくてもいいような気がしてきた。
これまで通り、眠くなったら寝て起きたい時間に起きればよいだろう。
完全に開き直ったオレはその日もいつもと同様に夜更かしをしたため、ベッドに入ったのは空が明るくなりかけた頃だった。
それから約二時間後。
冷房の効いた部屋で気持ちよく寝ていたオレを強引に起こそうとする人物がいた。
「……研吾、起きて! 今日は登校日よ!」
オレの体を揺すってきたり、耳元で何度も名前を呼ばれたりしたため、さすがに目が覚めてしまう。
「ん……」
睡魔で眠い目をこすりながら部屋を見回すと、見知った少女の姿が視界に入った。
オレと同じ中学校の制服を着用した少女。
身長は女子の中では高い方で、髪は腰まで伸ばした艶のあるロングヘア。
凛々しく整った顔立ちの彼女は間違いなく美人の部類で、手足はすらりとしており、肌も非常にきれいだ。
当然異性からの人気は高く、この少女にひそかに想いを寄せている男子は学校内に多数存在していた。
そんな彼女の名前は
オレと同じ中学三年生で、隣の家に住んでいる少女だ。
家が隣同士で同い年のため幼稚園の頃から仲がよく、家族ぐるみでの交流もあり、その度に何かと世話を焼いてくれている。
かなり世話好きな幼馴染みの少女なのだ。
そして、その関係は中学三年生になった今も続いていた。
「何で真希がオレの部屋にいるんだ……?」
意識がはっきりとしてきたことで、幼馴染みが部屋にいることに疑問を感じるようになる。
夏休みの真っ最中の現在は毎日のように会う機会はないため、久しぶりに真希の顔を見たような気がした。
その久しぶりに会った幼馴染みが呆れたように口を開く。
「何でじゃないわよ! 登校日だから迎えに来たの! そしたら案の定まだ寝てたから起こしてあげたのよ」
「ああ、そういうことか……」
実はオレは小学生の頃から真希に起こされることが多かった。
早起きが苦手で放っておけば昼過ぎまで寝てしまうオレを心配して、平日はほとんど毎朝のように迎えに来てくれるようになったのだ。
もちろん夏休みになってからは起こしに来ることもなくなったが、登校日の今日だけは早起きをする必要があるため心配になって迎えにきてくれたのだろう。
そうしたら懸念していた通りまだ寝ていたので、こうして起こしてくれたということらしい。
それはありがたいことなのだが……正直、今日は勘弁してほしかった。
「真希……せっかく起こしてくれたのに悪いけど、もう少し寝させてくれ……」
眠くて頭がぼうっとするので二度寝しようと再び目を閉じる。
しかし当然だが、目の前の幼馴染みはそんなことを許してはくれなかった。
「ダメに決まってるでしょ!! そろそろ登校しないと間に合わなくなるわよ!!」
「登校日なんだから別にサボってもよくね?」
「よくないわよ!!」
「そうは言っても二時間くらいしか寝てないから眠いんだよ……」
「二時間って……まさか明け方まで起きてたの!? 受験生なんだから、生活リズムはちゃんと整えなさいよ!」
「ロジハラはやめてくれ……」
確かに真希の言うことは100%正しい。
受験生なのに体調を崩したら、高校受験に影響が出る可能性もあるからだ。
だから規則正しい生活に気をつけるべきなのだが……なかなか理想通りにいかないのが現実だった。
「とにかく起きなさい!!」
真希がふとんを引っ剥がしてくる。
その途端、冷房で冷やされた室内の気温が全身を襲った。
「うおっ! 寒っ!!」
連日のように熱帯夜が続いているため、オレは夜も冷房をガンガンに効かせて室内を冷やすことにしている。
だから、ふとんにくるまっていないと逆に寒いと感じてしまうのだ。
「まったく……エアコンの設定温度が低いから寒いと感じるのよ」
真希がリモコンを手に取って、エアコンを停止させる。
そしてオレに背を向けると、
「じゃあ、あたしは部屋の外で待ってるから早く起きて制服に着替えちゃいなさいよ!」
そう言って、部屋から出ていくのだった。
再び部屋が静まり返る。
「仕方ない……起きるか……」
ものすごく眠いが、このまま二度寝をしたら真希に本気で怒られそうなので頑張って起きることにした。
そして、寝不足でふらふらとした足取りになっているのを感じつつ、制服に着替える。
それから学校指定のカバンを掴むと、登校するため部屋から出るのだった。
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