第52話 イルカに近づいてはいけません⑦

 イルカに水着を奪われ、オレの目の前で全裸で立ち尽くす瑠衣ちゃん。


 天気が良いせいで胸もアソコも丸見えだった。


(うわ……すげぇスタイル……)


 間違いなくグラビアアイドルとして通用するであろう従妹の体に視線が釘付けになる。


 シミやむくみの一切ない美しい肌にすらりとした四肢。

 そして、丸みを帯びたボンッキュッボンな体。


 両手に収まりきらないであろう胸や目を奪われてしまうほどにきれいなアソコは、まさに芸術そのものだ。


 あまりに美し過ぎる裸体だったため、自分の従妹だというのにいつまででも見ていられるような気がした。


 一方、オレの前で生まれたままの姿を晒すハメになってしまった瑠衣ちゃんは最初のうちはぽかんとした表情で立ち尽くしていたのだが、すぐに自分の身に起きた出来事を理解したようだった。


 その可愛らしい顔が羞恥でみるみる赤く染まってゆく。


「き、きゃあああっ!!」


 そして普段の無邪気な彼女からは想像もつかないほどの悲鳴を上げると、胸とアソコを両腕で隠しながらその場にしゃがみ込んでしまったのだった。


 その声に驚いたのか、イルカが水着を咥えたまま遠ざかってゆく。


「……あ、待って! わたしの水着、返してよぉ!!」


 涙目で懇願するも、そんな声が野生のイルカに届くはずもない。


 イルカはどんどん沖合へと泳ぎ去ってしまう。


「わたしの水着……買ったばかりなのに……」


 瑠衣ちゃんが悲しそうな表情を見せるが、こればっかりはどうしようもないだろう。

 沖合までイルカを追いかけるわけにもいかないので、水着は諦めるしかない。


「え〜と……瑠衣ちゃん……」


 そんな彼女を慰めようとするが、瑠衣ちゃんはしゃがんだまま水中を後退し、オレから距離をとってしまった。


「み……見ないで、勇吾くん!!」


 どうやらオレに裸を見られるのが相当恥ずかしいようだ。

 トマトやリンゴの比ではないほど顔が真っ赤になっている。

 瑠衣ちゃんも年頃の女の子なので、従兄とはいえ異性に裸体を晒すのはさすがに抵抗があるのだろう。

 ……まぁ、裸ならつい先ほど上から下までばっちり目撃してしまったのだが。


 瑠衣ちゃんが依然として顔を真っ赤にしたまま、うつむき加減につぶやく。


「う〜勇吾くんに裸見られちゃった……恥ずかしいよぉ……」


 本気で恥ずかしそうにする彼女の姿はとても魅力的で、気づけばオレは過去最高に彼女のことをいとおしいと感じていた。


「えっと……」


 全裸の従妹を前にどうしてよいかわからず、その場に硬直する。


 そんなオレに瑠衣ちゃんが非難の視線を向けてくる。


「見ないでって言ってるでしょ!! 勇吾くんのエッチ!!」


「あ……ごめん……」


 オレは慌てて回れ右をして背中を向けた。


 反対方向を向いたことで視界から裸でうずくまる彼女の姿が消える。


 そのおかげで少し冷静になれたのか、瑠衣ちゃんが落ち着いた口調で頼み事をしてきた。


「あの……家に予備の水着があるから持ってきてもらってもいいかな?」


「……え? でも、その間ここで一人にするわけには……」


 人気ひとけがないとはいえ、こんな屋外ですっぽんぽんの女の子を一人にするのはさすがに抵抗があった。


 だが、瑠衣ちゃんはなおも頼み込んでくる。


「お願い……こんな格好じゃ恥ずかしくて家に戻れないよ……」


「それもそうだよな……」


 今の状態の瑠衣ちゃんをここに一人で残すのも心配だが、かといって裸のまま連れ帰るわけにもいかない。


 ここは急いで予備の水着を取りに戻るのが賢明だろう。


 そう判断したオレは、彼女の頼みを聞くことにした。


「わかった……なるべく急いで戻ってくるから、その間はここに隠れててくれ!」


 このあたりの磯は比較的浅いが、もう少し沖合の方に進めばそれなりに深くなっているだろう。


 そういう場所でじっとしていれば、体は海の中に隠れるはずだ。


 あとは人が来ないことを祈るしかない。


「本当に急いでね……」


「ああ、任せろ!!」


 オレはすぐに海から上がると、再び祖父母の家に向かった。


 家にはつい先ほど帰ったばかりだったため両親も祖父母も戻ってきたオレを見て驚いていたが、「裸の瑠衣ちゃんを海に置いてきた」などと言うわけにもいかないので、適当に「財布を忘れた」と嘘をついておく。


 そして、瑠衣ちゃんの荷物から予備の水着を取り出すと、それを持って再び彼女の待つ磯へと戻るのだった。


 磯に戻ると、陸から少し離れた場所でじっとしている瑠衣ちゃんの姿が見えた。


 幸いにもまだ誰にも見つかっていないらしい。


 そのことにほっと安堵しつつ、海に入り、彼女の元へと近づいていった。


「瑠衣ちゃん! 水着、持ってきたよ!」


 手を伸ばせば触れられる距離まで近づくと、持ってきた水着を差し出す。


「あ、ありがとう……勇吾くん」


 それを受け取ると、瑠衣ちゃんは海の中で器用に水着を身に付けた。


 オレは後ろを向いて、彼女が水着を着終えるのを待つ。


 渡したのは、ピンクのシンプルな水着だ。


 先ほどまで着ていた水着と同じセパレートタイプだが、それでもあの水着と比べれば少し地味に見えてしまうかもしれない。


 そんなことを考えながら待っていると、水着を着た彼女が話しかけてきた。


「もうこっち見ても大丈夫だよ……」


「あ、ああ……」


 そう言われて後ろを振り向く。


 水着を着ることができてほっとした表情の瑠衣ちゃんが、まだ少し恥ずかしそうにこちらを見つめていた。


「何も起きなくて本当によかったよ……」


 水着姿の彼女を見て心から安堵する。


 裸の瑠衣ちゃんを一人残して家に向かった時は他の海水浴客に見つかるのではないかと気が気でなかったのだ。


 はらはらすることも多かったが、無事だったのだから良しとしよう。


「あの……ごめんね、勇吾くん」


 突然瑠衣ちゃんが謝罪の言葉を口にした。


「……え?」


「忠告を無視して野生のイルカに近づいたりしたからこんなことになったんだよね……だから、本当にごめんなさい」


 謝意を示すためか、深々と頭を下げてくる。


 オレの忠告を無視したばっかりに屋外で裸にされるという結果になったため、さすがに反省したようだ。


 そんな彼女の頭をオレは優しく撫でた。


「いや……無事だったんだし、もういいよ。でも、これからは野生の動物に不用意に近づかないようにしような」


「うん、そうするね」


 素直に返事をする瑠衣ちゃん。

 これなら同じ過ちを繰り返す心配はなさそうだ。


「……それじゃ腹も減ったし、海の家で食事したら帰るか」


 これ以上遊ぶ気にもならなかったため、そんな提案をする。


「そうだね……帰ろっか……」


 瑠衣ちゃんも同じ気持ちだったらしく、あっさりと賛成してくれた。

 つい先ほどまで「まだ遊びたい」と主張していたのが嘘のようだ。


 意見がまとまったため、オレたちはさっそく陸に上がった。


 海の中に隠れて見えなかった瑠衣ちゃんの水着が視界に入ってくる。


 最初の水着も良かったが、予備の水着もなかなか似合っているような気がした。


 海から出ると、すぐに移動を開始するオレと瑠衣ちゃん。


 歩きながら瑠衣ちゃんがオレに話しかけてきた。


「ところで勇吾くん……さっきのことだけど……」


「……さっきのこと?」


「勇吾くんがわたしの裸を見たことだよ」


「あ……えっと……」

 

 確かに裸を見たのは事実だが、まさか蒸し返されるとは思っていなかったので狼狽えてしまう。


 瑠衣ちゃんは少し意地悪な表情で話を続けた。


「あの時、ずいぶんとわたしの裸を凝視してたよね?」


「いや、別に凝視はしなかったと思うけど……」


 必死に弁明するも、彼女はなおもオレを責め続ける。


「すぐに視線をそらしてくれなかったのに、何を言ってるのかな?」


「う……」


 それを言われると反論できない。


 彼女の裸体に視線が釘付けになっていたのは紛れもない事実だからだ。


「まさかあんなエッチな目で見られるとは思わなかったなぁ〜」


「いや……その……」


「勇吾くんもやっぱり男の子なんだね」


「あ、あの……そのくらいで勘弁して……」


 精神攻撃に耐えられず、降参を宣言する。


 それで満足したのか、瑠衣ちゃんはようやく許してくれた。


「安心して! 怒ってるわけじゃないから……でも、ものすごく恥ずかしかったからなるべく早く忘れてね?」


 恥ずかしそうに頬を赤く染め、上目遣いでそんなお願いをしてくる。


「あ、ああ……わかった」


 とりあえず頷いておくことにした。


 だが、あんなに刺激的で官能的な光景を忘れるなんて不可能だろう。


 あの出来事は未来永劫ずっと脳内に焼きついたままだろうな……などと思ってしまうのだった。




 ちなみに余談だが、イルカに奪われた水着は翌日ちゃんと戻ってきた。


 散歩がてら磯に立ち寄ったら、瑠衣ちゃんの水着が岩の上に放置されていたのだ。


 上下ともに揃っていて、特に目立った傷なども見当たらない。


 きっとイルカが返しに来てくれたのだろう。


 買ったばかりの水着が戻ってきたことに、瑠衣ちゃんは心から喜んでいた。

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