第53話 アラサーでも恋愛はできるのかもしれない 前編
とある平日の昼下がり。
しがないサラリーマンの俺、
(ふぁ〜何だか眠くなってきたな……)
今日は朝からずっとイスに座ってパソコンとにらめっこをしていたため睡魔に襲われてしまう。
だから一度両目を閉じて、座ったまま大きく伸びをすることにした。
ついでに肩を回したり、首を動かしたりして固まってしまった体を軽くほぐしてみる。
すると、少しだけ眠気が吹き飛んだような気がしてきた。
(それにしても、もうすぐ仕事納めか……)
壁に貼ってあるカレンダーにちらりと視線を向け、ふとそんなことを考える。
現在は12月の中旬。年末年始は会社自体が休みになるため、あと二週間ほどで仕事納めなのだ。
(あと半月頑張れば休みだけど……実家に帰省しなきゃならねぇんだよなぁ……)
俺は現在は1LDKのアパートで一人暮らしをしているのだが、毎年お盆と年末年始には実家に帰省することにしている。
というか、特別な事情でもない限りお盆と年末年始は帰省しなければならない。
それが一人暮らしをする時に両親が提示してきた条件だったからだ。
だから年末には実家に帰らなければならないのだが……あまり帰省する気にはなれないというのが本音だった。
(あぁ帰りたくねぇ……)
俺の故郷はかなりの田舎で、電車とバスを乗り継いで数時間ほどかかる。
田舎ゆえに周囲には田んぼしかない。
自然は豊かだが、非常に退屈な場所なのだ。
いや、田んぼしかない場所だということは正直どうでもよかった。
今の時代、スマホやタブレットがあればいくらでも時間を潰せるので娯楽に困ることはない。
そんなことよりも田舎特有の時代錯誤な考え方が未だに色濃く残っていることが問題なのだ。
特に結婚に対する圧力は尋常ではないと言わざるをえない。
俺の両親も例外ではなく、二人とも独身に対して未だに強い偏見を抱いていた。
俺は現在28歳なので、帰省すれば当然のように結婚を急かされる。
21世紀に突入してもう20年以上経つというのに、お見合いを勧められたこともあった。
きっと父親も母親も『男は結婚して家庭を築いて一人前』と思っているのだろう。
もちろん家族を養い円満な家庭を築いている父親は純粋にかっこいいとは思うが……帰省する度に両親や親戚から結婚を急かされていたらさすがに気が滅入ってしまう。
だから、なかなか帰省に前向きになれないのだ。
……とはいえ、俺だって別に結婚願望がまったくないわけではない。
きれいな嫁や可愛い子どもたちと一緒に慎ましやかに暮らしていく人生に憧れることも多々あった。
それなのにアラサーに突入してしまった現在まで独身なのは、単純に結婚相手が見つからないからだ。
(両親はそろそろ結婚しろってうるさいけど……そう簡単に結婚できたら苦労はしないっての)
残念ながら俺はあまり容姿に恵まれているわけではない。
顔立ちは平凡だし、体格も普通で身長も平均程度。
ごく普通の短髪に特徴のない目鼻立ちなので、外見で勝負するのは難しい。
かといって、中身で勝負するのも不可能に近かった。
昔から大した取り柄もなく、勉強もスポーツも苦手で、何をやってもうまくいかないことが多いせいか諦めグセがついてしまっている。
得意なことがないせいで、大して有名ではない今の会社に入社することすら苦労したほどだ。
そんな魅力のない俺だから、当然異性にモテたことなどない。
彼女いない歴イコール年齢だ。
結婚相手を見つけるハードルは、普通の人よりずっと高いと言えるだろう。
そして何より俺自身が女性にときめかなくなってしまったことが一番の問題だ。
十代の頃は女子の一挙手一投足が気になっていたし、女子が薄着になっただけでドキドキしていたものだが、この
異性に興味を持つこと自体がなくなり、たまに街中などできれいな女性を見かけても何も感じない。
そのせいで結婚願望は抱きつつも、そこまで真剣に結婚相手を探す気にはなれないでいた。
何の努力もしていないため、当然異性との出会いも皆無。
今は『いつか結婚できたらいいな』くらいの気持ちで退屈な毎日をただ過ごしているだけなのだ。
(いつか俺にも本気で結婚したいと思えるような女性が現れるのかなぁ……)
もしもそんな女性が現れたなら、俺は真面目に自分磨きに励むだろう。
外見を気にして、本気で仕事に取り組んで、休日も充実させるという社会人にとって理想的とも言える生活を心がける。
そうすれば今よりは張りのある毎日になるかもしれないし、何より男としての魅力も増すはずだ。
そのためにも早く俺の前に素敵な女性が現れてほしいのだが……。
(……って、仕事中に何考えてるんだ俺は……これじゃ白馬に乗った王子様に憧れる少女と大差ねぇじゃねぇか)
はっと我に返り、頭の中の妄想を振り払った。
こんな妄想をしていても虚しいだけだ。
そもそも今は仕事を終わらせることだけを考えるべきだろう。
そう考えた俺は、再びパソコンの画面に視線を向けた。
(とりあえず帰省はまだ二週間くらい先の話だし、今は仕事に集中しねぇとな)
帰省について考えるのをやめ、作業を再開する。
その後、何度も睡魔や疲労感に襲われつつも、何とか定時まで仕事を続けたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます