第56話 英語を頑張ろうと思った瞬間 前編
オレの名前は
身長や体重は平均レベル。
だが顔は比較的整っており、体格もそれなりに恵まれている方だと思う。
髪は限界近くまで短くしているため、手で頭に触るとざらざらとした感触が伝わってくる。
そして手足は長く、肌はところどころ日焼けしていた。
そんな外見だからか、初対面の人はオレをスポーツ少年だと勘違いしてしまうことも多い。
そのせいで体育の授業や球技大会などで同じチームになった生徒から活躍を期待されることも多々あった。
スポーツ少年のような外見だから、たいていのスポーツは得意に違いないと思われてしまうのだろう。
しかし実際はオレにスポーツの経験はないし、部活にも入っていない。
そのためオレの運動神経はお世辞にもよいとは言えず、体育の授業やスポーツのイベントなどで試合をする時は逆にチームメイトの足を引っ張ってしまうことがほとんどだった。
そんな運動オンチのオレだが、ひとつだけ得意なことがある。それは勉強だ。
小学生時代、テストでは満点に近い点数を取ることが多く、その度に両親や教師からは褒められ、友だちからは尊敬されていた。
特別な才能のないオレが唯一自慢できることがテストの点数だったのだ。
もちろん中学に進学してからもオレの学力が衰えることはなく、テストではコンスタントに高得点を取り、一部の生徒から「平均点を上げるな」と言わんばかりの冷たい視線を浴びる日々が続いた。
中学は小学生の時以上に学力が重視されるため、大半の生徒は羨望の眼差しを向けてくる。
それが嬉しくて、中学時代は部活にも入らず勉強に専念したものだ。
そのおかげでテストの度にオレはほとんどの教科で学年上位に食い込んでいた。
しかし、そんなオレにも一教科だけ苦手科目が存在する。
その教科というのが英語だ。
英語だけは毎回赤点ギリギリで、平均点すら取ったことがないのだ。
きっと言語体系が日本語とまるで異なるからだろう。
スピーキングもリスニングもライティングもリーディングもすべて学年最下位レベルで、単語を覚えることすら一苦労。
そのせいでなかなかテストの点数は伸びない。
そのため他の教科でどれだけ高得点を取ろうとも、英語が足を引っ張り総合得点で学年上位に食い込むことはできないでいた。
当然周囲の大人からはことあるごとに「もっと英語を頑張れ」と言われたものだ。
同級生が「アイツは英語さえできるようになれば学年トップも目指せるのに……」とひそひそ話をしているのを聞いたこともある。
たった一教科、苦手科目があるだけで学年上位を目指せないのはもったいないと周囲には思われていたのだろう。
それはオレ自身も充分に理解できていた。
だが、どうしても英語だけは興味が持てなかったのだ。
もちろん成績を伸ばすために努力はしたのだが、いかんせん興味がないから勉強してもなかなか身につかないし、何より集中力が続かない。
そのため英語の成績を上げることはもう諦めていた。
(日本で普通の暮らしをしていれば英語を使う機会なんてほとんどないし、何より今は翻訳アプリもあるからな……無理して他国語を話せるようになる必要はねぇよな)
それが最近の言い訳だ。
英語のテスト返却時などで赤点ギリギリの点数を見る度にその言い訳を自分自身に言い聞かせ、苦手科目から逃げている自分を正当化しているのだ。
きっとこの先も英語を真面目に勉強したいと思う日はやってこないだろう。
何となくそんな気がしていた。
◇◇◇◇◇
ある日の放課後。
いつものように通学路を歩いていたオレは、帰宅途中に見たことのない立派な神社が建っていることに気がついた。
境内には神主も巫女も参拝客も見当たらない不気味な神社だが、不思議と危険は感じなかったため、思いきって鳥居をくぐり境内に足を踏み入れることにする。
せっかくだから参拝していくことにしたのだ。
そのまま参道の端を歩き、途中の手水舎で手と口を清めてから拝殿を目指す。
歩きながら何を願うかを考え始めた。
(願いならいろいろ思い浮かぶけど……やっぱりここは英語の成績向上を願うべきだよな)
願いはすぐに決まった。
完全に諦めてしまっている教科だが、それでも成績が上がるならそれに越したことはない。
もう少し英語のテストで点数が取れるようになれば、学年順位も上がるからだ。
(……よし、決まりだ)
拝殿の前で足を止め、財布から小銭を取り出すと、目の前の賽銭箱に投入する。
そして本坪鈴を鳴らすと、二礼二拍手をしてから英語の成績アップを願い、最後に一礼をした。
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