第55話 アラサーでも恋愛はできるのかもしれない 後編
翌日。
どんよりと曇った空を眺めながら、俺は通い慣れた道を歩いて駅に向かっていた。
今日は一段と冷え込んでおり、非常に冷たい風が頻繁に吹きつけてくる。
もしかしたら今夜あたりから雪が降ってくるかもしれない。
そう思わせるほどの寒波がこのあたりの街を襲っていた。
(なんか本格的に冬が来たって気がするなぁ……)
昨日までとは比べものにならないほどの寒さに体を震わせる。
例年通りなら、この寒さはきっと来年の春頃まで続くだろう。
明日からはもっと防寒対策を考えて外出しなければならないなと感じた。
そんなことを考えながら駅への道を無言で進む。
そうして自宅と最寄り駅のちょうど中間地点まで来たところで、一人の女子高生が目の前を歩いていることに俺は気がついた。
非常に小柄な女の子だ。きれいな髪を二つにくくってツインテールにしているため、余計に幼く見える。
制服を着ているから高校生と判断できるが、私服だった場合はおそらく中学生と間違えてしまっていただろう。
そんな女子高生が俺の目の前を歩いていたのだ。
俺は歩きながら彼女の後ろ姿をじっと見つめる。
(あの子……かなりのミニスカートだけど寒くないのか?)
ふと、そんな疑問が頭をよぎった。
……というのも彼女は上は長袖のブレザーを着用しているが、下はかなり短いチェック柄のスカートを穿いているからだ。
もちろんタイツなども穿いていない。
きれいなおみ足の大部分が外気に触れている状態だった。
(……まぁ若いんだし多少の寒さは平気なのかもしれないけど)
このあたりの高校の制服のスカートはもう少し長いはずなので、自分の意思で短くしているのは間違いないだろう。
現在は12月の中旬。当然だが朝から気温は低い。
それなのにミニスカートを穿くなんて、なかなか逞しい女子高生だ。
おそらくスカートは短い方が可愛く見えるからそうしているのだろうが……冬でもそれを貫くのは素直に尊敬できるような気がした。
(でも風邪引かないかちょっと心配になるな……)
そんなことを考えながら、俺はなおも彼女の後ろを歩き続ける。
おそらく彼女も駅へ向かう途中なのだろう。先ほどからずっと進む方向が俺と同じだった。
そうして前方に目的の駅が見えてきた頃――ちょっとしたハプニングが発生する。
前方から突風が吹いたのだ。
思わずのけぞってしまいそうになるほどの強い風。
そのせいで目の前の女子高生のスカートが大胆にめくれ上がってしまっていた。
(パ、パ、パン……)
俺の目の前であらわになるフリルの付いた白いパンツ。
女子高生の下着を偶然目にしたことで大げさなくらい取り乱してしまう。
純白のフリル付きパンツは、小柄で可愛らしい彼女にはよく似合っていた。
また、布の面積が比較的小さく生地も薄かったために彼女のお尻の形も丸わかりだ。
彼女の臀部は小ぶりだが引き締まっており、女性的魅力にあふれている。
外見は幼くとも、体はしっかりと大人に成長しているのだろう。
そんな魅力的なお尻に、俺の視線は釘付けになってしまっていた。
一方、スカートが盛大にめくれてしまったことに気づいた彼女は「きゃっ!!」という可愛らしい悲鳴を上げて、両手でスカートの前側を押さえた。
それから少し遅れて後方を振り返り、スカートの後ろ側も押さえる。
その瞬間、彼女と目が合ってしまった。
「……え?」
ようやく俺の存在に気づいた彼女の顔がみるみる赤くなってゆく。
「あ……えっと……」
どんな言葉をかけてやればよいのかわからず、俺は口ごもってしまった。
俺たち二人の間に気まずい沈黙が流れる。
しばらくして強風がやむと、彼女はか細い声で訊ねてきた。
「…………見ましたか?」
「いや、その……」
どう答えるべきなのかわからず、曖昧な態度をとってしまう。
しかし彼女にはその態度でバレバレのようだった。
「見たんですね……おじさんのえっち!」
パンツを見られてしまったことが相当恥ずかしかったのか顔を真っ赤にしたまま吐き捨てるようにそう言うと、目の前にある駅の方へと走り去ってしまう。
俺はその場から動くこともできずに、去ってゆく彼女の後ろ姿をぽかんとした表情で見つめていた。
やがて彼女の姿が駅の構内へと消えてゆく。
それを見届けた瞬間、俺は自分の心臓が尋常ではないほどバクバクと脈打っていることにようやく気がついた。
その事実に俺は軽く驚く。
思春期の頃ならともかくアラサーにもなってパンチラ程度で取り乱すなんて思っていなかったからだ。
(俺……今でも女性にときめいたりできるんだな)
アラサーだから、もう女性にときめくことなどないだろうと勝手に決めつけていた。
だが意外にもそんなことはなく、俺の中にはまだ中高生のような感覚が残っていたらしい。女子の一挙手一投足にいちいち反応し、ちょっぴりセクシーな姿に興奮していたあの時の感覚が。
もしかしたら日々の疲れや忙しさのせいで忘れてしまっていただけなのかもしれない。
(これならアラサーの俺でも恋愛ができるかもしれないな……)
失いかけていた自信を取り戻すことができて、少しだけ気持ちが軽くなったような気がした。
少年の頃の感覚をせっかく思い出すことができたのだから、この感覚は大切にしたい。
女性に興味を持つことができるなら、後は自分の努力次第だ。
頑張って自分を磨き続けていれば、いつか魅力的な異性が現れるだろう。
そんな人と恋人関係になり最終的に結婚まで漕ぎ着けることができれば、もう両親や親戚から結婚を急かされることはなくなるし、何より人生が華やかになるはずだ。
今からそんな未来を目指すのもアリかもしれない――何となくそんな気がした。
(まずは頑張って彼女を作ってみようかな)
魅力的な恋人を作るという当面の目標が決定する。
もちろんいずれは結婚も視野に入れる予定だが、まずは恋人を見つけるこたから始めるべきだろう。
目標ができたことで少しだけ気持ちが前向きになった。
(ありがとな、見ず知らずのお嬢さん。キミのおかげで恋愛を頑張ってみる気になれたよ)
自信を取り戻すきっかけをくれた少女に感謝しながら、俺は再び駅への道を歩き出すのだった。
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