第36話 双子だったの!? 前編

「お願いします! お願いします、神様! どうか……どうかこのオレを笹岡真穂ささおかまほさんの彼氏にして下さい!!」


 ある日の放課後。

 オレ、近野達哉こんのたつやは、下校途中で見たことのない神社が建っているのに気づき、その神社に参拝していた。

 願いは笹岡真穂という名の女子生徒と付き合うこと。今のオレに、それ以外の願いなど考えられなかった。


 彼女はオレと同じ高校二年生でクラスメイトだ。

 そのため学校のある日は毎日のように顔を合わせている。

 非常に可愛らしい顔立ちで、常にニコニコと天使のような笑顔を周囲にふりまいており、その笑顔は毎日の癒しだ。彼女がいるから毎日学校に通えていると言っても決して大げさではない。

 ちなみに、髪はさらさらとした美しいロングヘア。

 また、高校生にしては小柄で手足も短い。

 だが、そんな体格に反比例するかのように胸だけは大きく、歩いたり走ったりする度に揺れていた。

 おそらく胸だけなら、その辺の成人女性よりも大人だろう。

 彼女の豊かな胸を少し離れた場所からこっそり見るのも、天使のような笑顔を見るのと同様に毎日の癒しとなっていた。


 また、彼女は外見だけでなく性格も非の打ち所がなかった。

 明るく前向きで誰に対しても優しい。

 もちろん短所や欠点もあるだろうが、多少の欠点など気にならないほど美点がたくさんあるのだ。

 まさに完璧な美少女と言っても過言ではない女の子だった。


 そんな可愛くて明るい笹岡は、当然男子にモテモテだ。

 すでに何人も彼女にアタックし、その全員がフラれてしまったと聞く。

 おそらく告白してきた男子の中に好みのタイプがいなかったか、そもそも誰とも付き合う気がないかのどちらかだろう。

 そのため彼女は今はまだフリーなのだが、彼氏ができてしまうのも時間の問題だ。

 仮に誰とも付き合うつもりがなかったのだとしても、いつ気が変わるかわからない。

 だから、そうなる前に何としてでも彼女のハートを射止めたかった。


 しかし現実問題、オレでは笹岡の彼氏にはなれないだろう。

 オレは顔も体格も平凡だし、身長も平均並み。勉強も運動もイマイチで、人に自慢できるような特技もない。

 本当にどこにでもいる普通の男子高生なのだ。

 そんなオレが告白したところで、笹岡クラスの美少女が彼女になってくれるとは思えない。

 今まで彼女に告白してフラれた生徒の中にはきっとオレなんかよりずっとイケメンの男子もいただろう。

 そのイケメン男子ですら断わられたのだから、オレでは到底彼氏になどなれないのだ。

 気持ちを伝えても、その場でフラれて終わりに決まっている。

 当たって砕けるほどの覚悟はオレにはない。

 だから今こうして神社で必死に神頼みをしているのである。


 だが正直、かなり不気味な神社だとは思う。

 今朝までは通学路にこのような神社などなかったはずだからだ。

 なので、下校時に見つけた時は本当に驚いた。

 境内に足を踏み入れることをためらってしまったほどだ。

 しかし、不思議と悪意や害意などは感じられず、気づけば鳥居をくぐって境内を歩き、途中にあった手水舎で手と口を清めて拝殿に向かっていたというわけだ。


「お願いします! 何とぞ……何とぞ笹岡とお付き合いをさせて下さい!!」


 何度も何度も同じ願いを口に出して神様に以前から抱いていた悲願を伝える。

 この神社の神様が何を司っているのかはわからないが、これだけ立派な神社ならきっと恋愛にもご利益はあるだろう。

 オレのような平凡な男子が学年一の美少女と言っても過言ではない笹岡と付き合うには、もう神様にお願いするしかないのだ。

 オレは自分でも驚くほど長い時間、拝殿の前で神仏に祈っていた。


「……さて、そろそろ帰るかな」


 そうして充分に祈ったと判断したオレは帰途につくため、くるりと回れ右をして拝殿に背中を向ける。


 これだけ真剣に祈ったのだから、さすがに何らかのご利益を期待しても良いだろう。


 オレは、どんなご利益があるか楽しみに感じながら参道の端を歩いて鳥居をくぐり、神社の敷地から出るのだった。

 

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