第29話 中学生になった幼馴染み 前編

 オレの名前は倉坂智紀くらさかともき。もうすぐ中学二年生になるごく普通の少年だ。

 オレは小学生の頃は人より成長が遅くて高学年なのに低学年に間違われることもあったほどだが、中学生になったあたりから急に成長期が訪れたような気がする。

 中一の夏休みを過ぎた頃から急激に身長が伸び、筋肉もつき、中学生にしては精悍な顔立ちになってきた。

 そのため今では実年齢より上に見られることもあるほどだ。

 それが少し嬉しくて、最近は人前では背伸びをして大人っぽく振る舞うようになっていた。


 そんなオレには、幼稚園の頃から仲の良い幼馴染みの女の子がいた。

 彼女の名前は高本真奈こうもとまな。近所に住むひとつ年下の少女だ。

 現在はまだ小学生だが、もうすぐオレの通う中学に進学してくる。つまり、また同じ学校に通えるのだ。

 オレはそれが楽しみだったのだが、同時に不安でもあった。

 というのも、真奈は昔から引っ込み思案で自己主張が苦手な女の子だからだ。オレと二人でいる時は普通に話せるが、初対面の人間やあまり親しくない子がいると途端に口数が少なくなる。緊張にあまりオレの背中に隠れてしまうこともしばしばだ。

 そんな真奈が果たして中学でうまくやっていけるのだろうか。

 幼馴染みとして、そして何より年上として、それが心配だった。


「何とかしてやれないかなぁ……」


 オレにとって真奈は、もはや妹みたいな存在だ。

 だが、中学校と小学校に分かれてからは、勉強やら部活やら友達付き合いやらで忙しくてほとんど会っていない。

 最後に会ったのは今年の正月だ。

 つまり、もう三ヶ月ほど会っていないのだが、それでも真奈が妹のような存在であることに変わりはない。

 その大切な妹が中学デビューで失敗するのはとても悲しい。

 どうすれば引っ込み思案の真奈が最高の中学生活を送れるようになるのか――ここ最近、オレはそればっかり考えていた。


         ◇◇◇◇◇


 四月三日。

 春休みも終盤に差しかかりそこかしこで桜が咲き誇る頃。

 コンビニに行く途中で見慣れない神社が建っていることに気づき、オレは足を止めた。


「……こんなところに神社なんてあったか?」


 普段はあまり通らない道なので、どこにどんな建物があったかを完璧に把握しているわけではないが、それでも神社などなかったことだけは記憶している。

 最近になってこのあたりに神社が建てられたという話も聞いたことがない。

 だから正直言って、非常に不気味だった。

 だが、不気味なだけでそこまで恐怖心は抱かない。

 

「まぁ、いいや。参拝していこう」


 オレは神社の境内に足を踏み入れることにした。


 鳥居をくぐった瞬間、何ともいえない神秘的な雰囲気に包まれる。

 この神社にどんな神様が祀られているのかはわからないが、ご利益は期待できそうだ。

 参道を歩き、途中の手水舎で手と口を清めてから拝殿へ向かう。

 そうして拝殿にたどり着くと、財布から百円玉を取り出して賽銭箱に投入した。

 本坪鈴を鳴らしてから二礼し、二拍手をする。

 その後、すでに決めてある願いを神仏に祈願した。


「真奈が中学生活を楽しめますように」


 あと数日で中学生になる幼馴染みが中学校で毎日楽しく過ごしてくれること。今のオレにそれ以外の願いなどなかった。

 家が近所で幼稚園の頃から仲が良かった真奈。

 小学生の頃は毎日のように一緒に登校し、休日は家族ぐるみで遊びに行ったこともある。

 まさに妹ような存在。

 真奈もオレには懐いていたので、もしかしたらオレのことを兄のように思ってくれていたかもしれない。


 そんな大切な幼馴染みに充実した中学校生活を送ってほしいと思うのは自然なことだろう。


「何卒! 何卒よろしくお願いします! 引っ込み思案の真奈に充実した中学校生活を……」


 神様に届くようにオレは強く願う。

 それから最後に一礼をすると、拝殿に背を向け、来た道を引き返すのだった。


 

 


 

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