第26話 家出したクラスメイト 悠介視点③

「よ、よし……着いたぞ」


 バイトからの帰り道に、突然雨に降られたオレは、何とか自宅にたどり着くことができた。


 玄関のドアの前でオレは呼吸を整える。

 雨の中ずっと走ってきたので、かなり息が乱れていたからだ。


「うわ……全身ずぶ濡れだ」


 濡れた体を見て、思わず顔を顰める。

 冷たい雨に打たれたせいで体は冷え切っており、服が肌に貼り付いていて気持ち悪い。

 靴や靴下はもちろん、パンツまでぐっしょりだった。


「これは急いでシャワーを浴びないと風邪引いちまうな……」


 そんなことを考えながらドアを開けて家の中に入る。

 すると、玄関に見慣れない靴が置いてあることに気がついた。


「ただいま……ん? 何だ、この靴は……」


 シンプルなデザインの白いスニーカー。大きさから考えて女性用の靴だろう。

 とりあえず、うちの家族の靴でないことは明らかだった。


「実優が友だちでもつれてきたのかな……? まぁいいや。早くシャワーを浴びよう」


 早く温まりたかったオレは、スニーカーのことなど気にせずに靴を脱いで家に上がりこんだ。


 一階には誰もおらず、静まり返っている。

 きっと妹は二階にいるのだろう。

 ドアの鍵は開いていたし、電気もついているので、妹は家のどこかにいるはずだ。


 そんなことを考えながら、ペタペタと足音を立てて風呂場に向かう。

 なぜか風呂場の電気はついていた。


 だが寒さで限界だったオレは、電気がついていることに何の疑問も抱かず、勢いよくドアを開ける。

 すると、とんでもない光景が視界に飛び込んできたのだった。


「……え?」


 その光景を目にしたオレは、思わず硬直してしまう。

 しかし、それは無理もないだろう――全裸の女の子がそこにいたのだから。


(……ど、どうなってんだ!? ここ、ウチの脱衣所だよな?)


 あまりの出来事に頭が混乱してしまう。

 混乱し過ぎて、間違えて他人の家に上がりこんでしまったのではないかと考えてしまったほどだ。


 その女の子はぽかんとした表情でオレを見つめている。

 下着すら身につけていないすっぽんぽんの状態でこちらを向いて佇んでいるので、胸もアソコも丸見えだ。

 思春期かつ童貞のオレにとって、非常に刺激的な光景だった。


 彼女がゆっくりと口を開く。


「ど、どうして上浦君がここにいるの?」

「……ん? なんでオレの名前を知って……って、よく見たら松宮!?」


 オレはようやく目の前の少女の正体が、クラスメイトであり、かつ校内で五本の指に入る美少女と話題の松宮紫まつみやゆかりだということに気がついた。


(松宮がなんでオレの家に……?)


 クラスが同じというだけでほとんど接点のなかった女子生徒がなぜかオレの家にいる。

 極めておかしな状況だ。

 さすがに無断で侵入したわけではないだろうが、こんなところにいる理由は聞き出すべきだろう。


 しかし、すぐにそんなことなどどうでもよくなってしまう。

 何しろずっと気になっていた美少女が、裸で目の前に立っているのだ。

 年頃の男子ならその裸体に視線が釘付けになってしまうのも無理はないだろう。

 全裸の松宮が美し過ぎて、なぜ彼女がここにいるのかという疑問など一瞬で吹っ飛んでしまっていた。


(……それにしても、本当にスタイルいいな)


 彼女の正体が松宮紫だと知った上で改めて裸体を見ると、肌の美しさやスタイルの良さがより伝わってくる。

 大きいだけでなく張りがあって形のよい胸に、全体的に丸みを帯びた柔らかそうな体に、芸術的なくびれ。

 スタイルがいいのはわかっていたが、こうして脱いだ姿を間近で見ると、そのグラビアアイドル顔負けの体に圧倒されそうだ。

 もちろん顔も合格点を優に超えているので、本当にグラビアアイドルを目指せば大成するかもしれない。

 そう思ってしまうほどに、松宮の裸体は美しく芸術的だった。


「あの……上浦君?」


 松宮が怪訝そうに顔を覗き込んでくる。

 無言でクラスメイトの体を凝視するオレのことを不審に思ったのだろう。

 だが、それでもオレは松宮の裸体から視線をそらすことができなかった。


「いったい私の体がどうしたっていうのよ」


 松宮が視線を落として自分の体を見る。


「あ……」


 そこでようやく自分が今、全裸で男子の前に立っていることに気がついたようだ。


 松宮の顔がみるみる真っ赤になってゆく。

 今にも全身から湯気が出そうな様子だった。


「お……おい、落ち着け! 大丈夫だ! ちょっとしか見てないから」


 動揺のあまり体を震わせている松宮を何とか落ち着かせようとする。

 だが、思春期の女の子が恋人でもない男子に裸を見られて冷静でいられるわけがない。

 両手で胸と股間を隠し、その場にしゃがみ込むと、今まで聞いたことがないほど大きな叫び声を上げるのだった。


「きゃあぁぁぁぁぁ!!!」


 雨音にも負けないその悲鳴は、おそらくこのあたり一帯に響き渡っただろう。

 





 

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