第27話 家出したクラスメイト 悠介視点④

「ど、どうしたんですか!? 松宮さんっ!?」


 今の悲鳴を聞きつけた実優が大きな音を立てて二階から下りてくる。

 そして、脱衣所のそばまでやって来るや否や絶句した。


 全裸でうずくまる少女に、その姿を呆然と見下ろす兄。

 実優から見れば、あまりにも奇妙な光景だろう。

 絶句するのも無理はない。


 だが、すぐに正気を取り戻し、オレを非難してくるのだった。


「いつまで見てるの、お兄ちゃん!? あっち向いてて!!」

「あ、あぁ……」


 妹に言われるがままに回れ右をする。

 それを確認した後、実優は松宮のそばに駆け寄った。


「兄がすみません、松宮さん。大丈夫でしたか!?」

「大丈夫よ。何かされたわけじゃないから……それより兄っていうのは……」

「あたしのお兄ちゃんです。どうやらバイトから帰ってきたみたいですね……」

「あなた、上浦君の妹さんだったの!?」

「お兄ちゃんのこと知ってるんですか?」

「ええ、クラスメイトよ。まさかあなたの言っていた兄が上浦君のことだったなんて思わなかったわ」

「あたしも……松宮さんがお兄ちゃんのクラスメイトだとは思いませんでした。こんな偶然もあるんですね……」


 しばらく押し黙ってしまう二人。

 正直に言って、ものすごく気まずかった。

 だからオレは後ろを向いたまま、恐る恐る二人に話しかけることにした。


「あの……二人が知り合いだってことはわかったけど、何で松宮がウチにいるんだ?」


 それを聞いた二人がはっと我に返る。


「そうでした! 松宮さん、風邪を引かないうちに早くシャワーを浴びて下さい! これタオルと着替えです。着られそうな服が見つからなかったので、お父さんのトレーナーで申し訳ないのですが……」

「い、いえ。嬉しいわ。何から何まで本当にありがとね」


 松宮が、差し出されたタオルとトレーナーを受け取る。

 

 その後、実優は脱衣所のドアを閉めてオレの方に視線を向けた。


「ごめんね、お兄ちゃん。今、事情を説明するから」

「あ、あぁ……」


 そうして松宮がシャワーを浴びている間に、実優はこの状況について詳しく話すのだった。


 やがて松宮が風呂場から出てくる。

 ピッタリの服が見つからなかったと実優が言っていたが、どうやら本当だったようで、今の松宮は男物のトレーナーを着用していた。

 

 そんな彼女にオレは話しかける。


「松宮……だいたいの事情は妹から聞いたよ。大変だったんだな……」

「いえ……私の家の事情に巻き込んじゃってごめんなさい。迷惑だったわよね」

「別にそんなこと思ってねぇけど……」


 迷惑どころか、いいものを見せてくれたことに感謝しているくらいだ。

 先ほど全裸を拝ませてもらったばかりだし、今もぶかぶかのトレーナーを着用した松宮を見て目の保養にしている。

 この状況を喜ばない男はいないだろう。


(……にしても、あのトレーナーの下ってたぶん裸だよな)


 改めて松宮の姿をじっと見る。

 上半身は紺色のトレーナーで完全に隠れているが、それ一枚だけでは下半身まではカバーできない。足の付け根の部分がかろうじて隠れているのみだ。

 おそらく下着も身につけていないだろうから、ノーパンノーブラ状態だろう。

 ノーパンだった場合、ちょっと動いただけで女の子の大事なところが見えそうだ。


(くっそ〜絶妙に見えねぇ……何かの拍子にめくれたりしねぇかなぁ……)


 無防備な姿のクラスメイトを前に、ついつい不埒なことを考えてしまう。

 アソコなら先ほども見たが、松宮ほどの美少女の大事なところなら何度でも見たくなってしまうのだ。


 そんなことを考えているオレを、実優がジト目で見つめてくる。


「お兄ちゃん……今、エッチなこと考えてるでしょ」

「えっ!? そ、そんなこと考えてねぇぞ!?」


 必死に否定するが、妹にはお見通しのようだった。


「いや、バレバレだから……松宮さんをそんな目で見ないでよ」

「だ、だからオレは……」


 妹の非難の言葉に反論できず、あたふたしてしまう。

 そんなオレを見かねたのか、松宮が助け船を出した。


「いいのよ、実優ちゃん。悠介君も年頃の男の子なんだし……それに、元はといえば私が家出したのが原因なんだから。でも、やっぱり恥ずかしいからあまり見ないでくれると助かるんだけど……」

「あ、悪い……」


 本当に恥ずかしそうにしていたので、さすがに申し訳なくなって目をそらす。


「まぁ松宮さんがそう言うなら……」


 実優はようやくオレへの非難をやめた。

 年頃の男子なのだからある程度は仕方ないというのは実優も理解しているようだ。


「……それはそうと、お兄ちゃんもそろそろシャワー浴びてきたら? 雨でびしょ濡れだよ?」

「あ、あぁ……そうだな」


 妹に言われて、オレはようやくシャワーを浴びるつもりだったことを思い出す。

 暖房の効いた部屋にいたからだいぶ乾いてしまっているが、それでもお湯で体を温めておいた方がいいだろう。

 

 そう考えて、オレは脱衣所に向かう。


「ごめんなさいね。悠介君の家のシャワーなのに私が先に借りてしまって……」

「気にしなくていいよ。それより、さっきから気になってたんだけど『悠介君』っていうのは……」

「あ、それは苗字で呼ぶと紛らわしいから名前で呼ぶことにしたんだけど……ダメだったかしら?」

「い、いや……ダメじゃねぇけど……」


 そう、ダメなわけではない。

 ただ、あまり女子から下の名前で呼ばれた経験がないから照れくさいだけだ。

 照れくさいが、松宮のような美少女に名前で呼んでもらえることは素直に嬉しい。

 自然に顔がニヤけてしまいそうになる。


「……どうしたの? 悠介君?」

「な、何でもねぇよ! それじゃ、シャワー浴びてくるから!」


 このままここにいたらニヤケ顔を見られかねないと思ったオレは、逃げるように脱衣所に向かった。

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