第32話 オープンキャンパス1
高校二年の夏休み前。
僕、
相手は近所に住む幼馴染みの女の子。
容姿端麗で勉強もスポーツもでき、人望も厚いというまさに絵に描いたようなスーパー美少女だ。
小学生の頃からとても可愛い女の子だったが、高校生になってさらに可愛さに磨きがかかったような気がする。
そんな美少女をずっとそばで見ていた僕が、彼女に恋心を抱くのは自然なことと言えるだろう。
しかし、当然だがライバルも多い。
彼女に好意を寄せる男子はたくさん存在し、すでに何度か告白されたという噂も耳にした。
だから僕は焦ったのだ。
このまま幼馴染みという立場にあぐらをかいて何もしないでいたら、どこの馬の骨ともしれない男にあっさりと奪われてしまうかもしれない。
そうなれば、子どもの頃からずっと好きだった幼馴染みが彼氏とイチャイチャする様を遠くから見つめるハメになってしまう。
そう思うと居ても立ってもいられなかった。
可能性は低いとしても、気持ちを伝えられないまま他の男子にとられるのは嫌だった。
日に日に募ってゆく危機感に耐えるのも限界になり、気がついたら幼馴染みを屋上に呼び出して告白していたというわけだ。
心臓が破裂しそうになるのを感じながら、僕はぎゅっと目を閉じて相手の返事を待つ。
彼女にとって僕の告白は意外なことだっただろうか。それとも、僕の気持ちになどとっくに気づいていただろうか。
いや、正直どちらでもよかった。
重要なのは、僕の告白に対して彼女がどんな返事をするのかだ。
『よろしくお願いします』なら嬉しい。こんな美少女と恋仲になれたら、今後の高校生活はさらに楽しくなるだろう。
『ごめんなさい』はできれば聞きたくはないが、それがちゃんと悩んだ末に出した答えなら受け入れるしかない。
だがその場合も、気持ちを伝えるという目的は果たしたのだから、そこまで悲観する必要はないはずだ。
もしかしたら今回の告白をきっかけに、僕のことを意識し始めるかもしれない。
そうして今度は彼女の方から告白してきてくれれば、晴れて付き合うことができる。
その可能性が残っている以上、フラれたとしても希望を持ち続けることはできるのだ。
果たして彼女の返事はどちらなのか。
彼女が答えを出すまで、僕はいつまででも待つつもりだった。
しかし、僕の予想よりもずっと早く返事を聞かされることになる。
というか、ほとんど即答だった。
「……は? あたしがあんたと付き合うなんてさすがにありえないから」
「……え?」
こんなにキツい言葉を浴びせられるとは思っておらず、面食らってしまう。一瞬、聞き間違いなのではないかと思ってしまったほどだ。
仮にも幼馴染みの告白を、ここまで辛辣な言葉で断る必要があるだろうか……。
「え〜と……」
念のため、もう一度確認してみる。
「ごめん……もう一回言ってもらえるかな?」
「だから、あんたなんかと付き合うなんてありえないって言ってるの!! 二度も言わせないでよ!!」
やはり聞き間違いなどではなかった。
彼女は僕に対して本気で嫌悪感に近い感情を抱いているようだ。
「そんな……」
屋上のコンクリートに膝をつき、がっくりとうなだれてしまう。
これまでの人生で経験したことがないほど大きな絶望感に襲われた。
確かに僕は、顔も体格も普通だし背が高いわけでもないし誰かに自慢できるような特技があるわけでもない、至って平凡な男子だ。
教室の隅で静かにソシャゲをしたり漫画を読んだりアニメやVTuberの動画を視聴したりして過ごしているので、陰キャと言われても仕方がないのかもしれない。
だから彼女に釣り合うような男ではないことくらい僕自身が一番理解している。
今回告白したのも、はっきり言ってダメ元。成功する確率は限りなくゼロに近いとわかっていて気持ちを伝えたのだ。
なので、フラれたことはある意味想定内。
だが、こんなフラれ方は完全に想定外だった。
優しい彼女のことだから、断るにしても僕が傷つかないように気を配ってくれると思い込んでいたのだ。
しかし、現実は無情だった。優しい少女だと信じていた彼女は、口が悪く、思いやりがなかった。
せっかく勇気を出して告白したのに、この仕打ちはあんまりだろう。
こんなことなら、告白などしなければよかったと思ってしまった。
そんな僕に、彼女はまだ言い足りないのか追い討ちをかけてくる。
「とにかく、あたしはあんたみたいな陰キャになんかまったく興味ないから! 今まではお情けで優しく接してあげてただけ……ただ幼馴染みってだけで勝手に勘違いして『自分にもワンチャンあるかも?』とか考えてんじゃないわよ!! 迷惑だわ!!」
「ごめん……」
おおむね彼女の言う通りなので、僕は何も言い返せなかった。『ワンチャンあるかも?』とどこかで思っていたのは紛れもない事実なのだ。
「じゃあね! もう話しかけてこないでよ!!」
彼女は最後にぴしゃりと言い放つと、膝をついてうなだれている僕を置いて屋上から立ち去ってゆくのだった。
「うぅ……」
一人になった後も動く気にはなれず、僕はその場でむせび泣く。
彼女にとっては、僕みたいな陰キャからの好意など迷惑でしかなかった。
その事実があまりに悲しくて、涙が止まらないのだ。
この失恋の痛みは、しばらく癒えることはないだろう。
こうして僕の初恋は、あまりにもあっけなく終わってしまったのだった。
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