第47話 イルカに近づいてはいけません②
玄関で靴を脱いで家の中に上がり込む。
すると、白のタンクトップにデニムのハーフパンツという非常にラフな格好をした女の子が家の奥から現れてオレに抱きついてきたのだった。
「勇吾くん、久しぶり〜」
「わっ!
その行為に思わずたじろいでしまうが、彼女の方はまったく気にしていない様子だ。
無邪気な笑顔を振りまきながら、オレの右腕に抱きついている。
「今年は会えて良かった〜」
「ちょ、ちょっと……」
オレと会えたことを本気で喜んでいる彼女の名前は
オレの父親の弟の娘で、オレよりひとつ年下の高校一年生。
つまりオレの
非常に大人びた顔立ちをしており、身長も女子の中では高い方だろう。
艶のある長髪をひとつにまとめた髪型はいわゆるポニーテールと呼ばれるもので、溌剌な彼女にとてもよく似合っているような気がする。
そして、ぱっちりとした瞳や柔らかく瑞々しい唇が特徴的で、スタイルもよく、特に胸は16歳とは思えないほどの豊かさを誇っていた。
親戚という贔屓目を抜きにしても間違いなく美人に分類される女子高生ではないかとオレは考えていた。
そんな美人でスタイルのよい従妹が腕に抱きついているのだから、オレの理性は崩壊寸前だ。
幼い頃から人懐っこく、祖父母の家で会う度にオレに抱きついてくるような子だったが、さすがに高校生になった今、その行為はいろいろな意味で危険過ぎる。
オレだって健全な思春期の男の子なのだ。
従妹とはいえ、美人でスタイルのよい女の子に抱きつかれて平静を保てるわけがない。
このままでは腕から伝わってくる従妹のおっぱいの感触で昇天してしまいそうだったので、少し離れるように頼むことにした。
「あ、あの瑠衣ちゃん……歩きにくいから離れてもらってもいいかな……」
「うん。わかった!」
そう言って、素直に腕を離してくれる瑠衣ちゃん。
オレはようやく少しだけ安堵することができたのだった。
「……それにしても本当に久しぶりだね。去年も一昨年も会ってないから、三年ぶりかな?」
「去年は受験生で忙しかったからここに来る余裕がなかったんだよね……」
「その前の年はオレが受験生だったからここには来れなかったんだよな……」
毎年お盆と年末年始は父方の祖父母の家で過ごすことになっているのだが、オレも瑠衣ちゃんも受験生の年はさすがにここには来ていない。
つまり最後に顔を合わせたのは、オレが中学二年生で瑠衣ちゃんが中学一年生の時の年末年始なのだ。
それ以来、一度も会っていなかったため、オレはどうしても今の彼女の成長した姿に驚きを隠せなかった。
(すごい成長だよな……女子って三年会わないだけでここまで変わるのか……)
瑠衣ちゃんの体を改めてじっと見つめる。
当時の瑠衣ちゃんはまだ身長も低めでスタイルもよくなかったことを覚えている。
顔立ちもまだまだ子どもだったし、胸なんてペッタンコだったはずだ。
それが現在は成人女性と見間違うほどのスタイルを手に入れている。
そんなナイスバディの女の子がタンクトップを着用しているせいで、大きな胸が強調されてしまっていた。
正直、嬉しいような目のやり場に困るような複雑な気持ちだった。
「勇吾くん、どうしたの?」
無言で従妹の胸元に視線を向けるオレの顔を、瑠衣ちゃんが不思議そうに見つめてくる。
「い……いや、何でもないよ! 何でも!」
オレは慌てて胸元から目をそらした。
胸を見ていたことがバレたら、さすがに軽蔑されると思ったからだ。
「そっか……ずっと黙ってたから体調でも悪いのかと思ったよ。元気ならよかった! それじゃ、おばあちゃんがスイカ切ってくれるみたいだから一緒に食べよっか!」
瑠衣ちゃんがオレの腕をつかみ、縁側へつれて行こうとする。
「あ……ちょ……引っ張るなって!」
オレは従妹に引っ張られるがままに歩き出した。
祖父母の家の縁側は海側に造られており、日当たりもよい。
そのため冬は暖かいが、夏は暑いと感じる場所だった。
しかし、夏は浜辺の方から海水浴客たちの賑やかな声が聞こえてくるし、時々心地よい海風が吹いてくるから、くつろぐにはちょうどよい場所と言えるだろう。
扇風機もあるし、軒先には風鈴が吊るされていて非常に涼しげなため、夏でもそれなりに快適に過ごすことができるのだ。
そんな縁側で座って待っていると、祖母がスイカと麦茶の載ったお盆を持ってやって来る。
とても大きく食べごたえのありそうなスイカだ。
真っ赤な果肉が食欲をそそる。
オレと瑠衣ちゃんはさっそくスイカを味わうことにした。
皮の部分を両手で持ち、果肉にかぶりつく。
その瞬間、甘くジューシーな果汁が口に広がった。
「あま〜い……」
隣に座っていた瑠衣ちゃんが顔をほころばせる。
「確かに甘い……それによく冷えてるからめちゃくちゃうまいな」
きっと孫が来るからずっと冷蔵庫で冷やしてくれていたのだろう。
おかげでオレたちは、夏の果物の代表とも言えるスイカを最高の状態で味わうことができたのだった。
「勇吾くん、塩かける?」
半分ほど食べたところで、瑠衣ちゃんが食塩片手に話しかけてくる。
「そうだな……お願いするよ」
残り半分ほどになったスイカに少しだけ塩をかけてもらい、再びかぶりついた。
塩のおかげで果肉の甘さがより引き立ったような気がする。
隣を見れば、瑠衣ちゃんもスイカに塩をかけ、美味しそうに頬張っていた。
(夏はやっぱりスイカだよな……)
そんなことを考えながら、オレは甘くジューシーな夏の果物を堪能するのだった。
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