第48話 イルカに近づいてはいけません③
翌日の朝。
半袖半ズボンという適当な服装で朝食を済ませたオレは、風通しのよい部屋で持参したゲームをやりながらくつろいでいた。
昨日に続き本日も朝から晴天で気温も高く、海の方からは海水浴客たちの楽しそうな声が聞こえてくる。
今日も浜辺は賑やかになりそうだ。
そんな賑やかな声に耳を傾けながらゲームで遊んでいると、瑠衣ちゃんが近づいてきてオレを海に誘うのだった。
「勇吾くん! 海行こうよ! 海!」
「……海? オレはやめとく……」
ゲームの画面から目も離さずに従妹からの誘いを断る。
オレみたいな陰キャは、陽キャが集まる場所が大の苦手だから、そういう場所には極力近づきたくはないのだ。
しかし瑠衣ちゃんは諦めてはくれなかった。
「え〜……一緒に遊ぼうよ! せっかく三年ぶりに会えたんだし……それにもう水着も着てるんだよ?」
「……え?」
ほとんど反射的に彼女の方に視線を向ける。
すると、フリルの付いたチェック柄の水着を身にまとった瑠衣ちゃんの姿が視界に入ってきたのだった。
健康的な肌に引き締まったボディ。
出るところは出て引っ込むところは引っ込んでおり、特に大きな胸が目立ってしまっている。
水着自体も非常に可愛いらしく布面積も小さめのため、彼女のスタイルのよさを最大限に際立たせているような気がした。
「どうかな? 今年買ったばかりの水着なんだけど……」
彼女が感想を求めてくる。
「に、似合ってると思う……」
オレは目をそらしながら、無難な感想を口にした。
彼女の水着姿があまりにセクシー過ぎて直視することができなかったのだ。
「よかった……さんざん悩んで選んだ甲斐があったよ……」
褒められたことが嬉しいのか、はにかんだ表情を見せる瑠衣ちゃん。
その姿は非常に可愛いらしく、彼女の魅力をさらに引き立てているように感じた。
「……それじゃ、海に行こっか!」
「いや、何でそうなるんだよ!!」
なおも海に連れ出そうとする瑠衣ちゃんにツッコミを入れる。
確かに水着姿は魅力的で拝めてラッキーとも思っているが、そのことと海に行くことはまったく別の問題だ。
陽キャの集まる場所になんて絶対に近づきたくはないのだ。
だから何とか誘いを断ろうとするのだが……瑠衣ちゃんが悲しそうな表情を見せたため少し気持ちが揺らいでしまった。
「勇吾くんと海で遊ぶために一生懸命水着を選んだんだけどな……」
「う……」
「この水着を見せたのも勇吾くんが初めてなんだよ?」
「……わかったよ。一緒に行くよ」
最終的に根負けし、オレは仕方なく海で遊ぶことを決意する。
「……本当に? やったぁ!!」
飛び上がって喜ぶ瑠衣ちゃん。
一緒に海で遊べることが相当嬉しいようだ。
(海水浴客であふれてる浜辺とか正直苦手だけど……まぁ、たまにはいいか)
ここまで喜んでもらえたら悪い気はしない。
それにせっかく家の目の前に海があるのだから、少しくらい海水浴を楽しまなければもったいないだろう。
オレは陽キャひしめく真夏の浜辺で遊ぶ決意を固めるのだった。
「……じゃあ早く行こうよ、勇吾くん!」
瑠衣ちゃんがオレの腕を引っ張ってくる。
「その前に水着に着替えねぇと……確か海パンがあったはずだから借りてくる」
そう言って、祖父母のもとへ向かい、事情を話して海パンを貸してもらった。
紺色の地味な海パンだが、別にオシャレに興味があるわけではないので、特に問題はないだろう。
オレは急いで服を脱いで海パンを穿くと、瑠衣ちゃんのもとへと戻った。
瑠衣ちゃんは右腕に浮き輪、左腕にビーチバレーのボールを抱えてオレのことを待っていた。
どうやら本気で海水浴をエンジョイするつもりのようだ。
「さ、行こっか! 勇吾くん!」
「あぁ、そうだな……」
オレたちは帽子をかぶり、玄関でサンダルを穿くと、水着のまま家を出た。
その瞬間、真夏の直射日光が容赦なく襲ってくる。
「暑……」
帽子をかぶっているとはいえ、炎天下の屋外はやはり暑い。
同じ場所でずっと立ち止まっていたら熱中症で倒れてしまいそうだ。
そうならないためにも、早く海に入るべきだろう。
先ほどまではあまり乗り気ではなかったのに、今は早く冷たい海水に浸かって体を冷やしたいと思うようになっていた。
(海水浴なんて小学校低学年以来だな……)
そんなことを考えながら、オレは瑠衣ちゃんの後を追いかける形で海水浴場へと向かうのだった。
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