第46話 イルカに近づいてはいけません①

 オレの名前は牧村勇吾まきむらゆうご。一般的な高校に通う、平凡としか言いようのない二年生の男子だ。


 ごく普通の顔立ちに、色白な肌。

 身長は平均よりも低く、どちらかといえば痩せ型で手足も短い。


 また、あまり自己肯定感が高い方ではないので自分から積極的に他人と関わることが苦手だ。

 そのため友人はお世辞にも多いとは言えない。


 休みの日は家に引きこもってゲームをしたり、ネットサーフィンなどをして過ごすことが多い、いわゆる陰キャと呼ばれるような男子だった。


 そんなオレだが、毎年夏休みは強制的に祖父母の家に連れていかれるため、その時ばかりは外出せざるをえない。

 本当は冷房の効いた室内でゲームでもしながらダラダラと過ごしたいのだが、さすがにお盆の時期に祖父母の家に行くことを拒否はできないのだ。


 きっと今年も行くことになるのだろう。


         ◇◇◇◇◇


 高校二年生になってからも特に何かを頑張ることもなくダラダラと過ごすこと約四ヶ月。


 ついに高校生活二度目の夏休みがやって来た。


 予想通り今年もお盆は例年通り祖父母の家で過ごすそうだ。


 前日のうちに荷物をまとめておき、当日は朝食後すぐに出発することになっている。


 車で数時間かかる距離なので、あまり家でのんびりしていると到着が遅くなってしまうからだ。


 そうして当日の朝。

 普段よりも早めに起床したオレは、すぐに無地のTシャツを来てその上にチェック柄の半袖のシャツを羽織り、半ズボンを穿いた。


 着替えが終わると、自室を出て一階に下りてゆく。


 リビングではすでに朝食の準備ができていたので、さっそく食事をすることになった。


 朝からたくさん食べるわけではないので、食事にそんなに時間はかからない。


 朝食はあっという間に終了した。


 その後、洗い物が終わると、オレたち一家は荷物を持って車庫へと向かう。


 いつものように父親が運転席、母親が助手席に座った。


 そして最後にオレが後部座席に座ると、父は車を発進させた。


 一家を乗せた車は閑静な住宅街を走り抜け、賑やかな市街地を進み、やがて高速道路に乗る。

 

 夏休みの時期なので、高速道路は走行車線も追い越し車線も大渋滞だった。


 走行している時間よりも停車している時間の方が長いような気もするが、それでも車は少しずつ前に進む。


 途中のサービスエリアで休憩をはさみつつ祖父母の家を目指し、何とか高速を降りることができた。


 その後も車で走り続けていると、前方にきらきらと輝く海が見えてくる。


 ここまで来れば、祖父母の家はもうすぐだ。


(もうそろそろだな……それにしても長かった……)


 目的地が間近に迫ってきたので、オレは車内で荷物をまとめ、降りる準備を始める。

 

 やがて車はきれいな砂浜ビーチの前に建つ一軒家に到着した。


 この一軒家こそが祖父母の家なのだ。


 かかった時間は、サービスエリアでの休憩時間を含めて四時間以上。

 高速道路で渋滞に巻き込まれたせいとはいえ、かなりの長時間移動だったと言えるだろう。


(やっと着いたか……)


 車から降りて、大きく伸びをしながら深呼吸をする。

 すぐ目の前に海があるので、潮の香りが漂ってきた。


 そんなふうに軽いストレッチをするオレの背後では、両親が車のトランクを開けて荷物を下ろしていた。

 今日から数日間この家で生活するため荷物も多いのだ。


 そうしていると、家のドアが開き、中から祖父母が顔を出した。

 どうやらオレたちの到着に気がついて出迎えてくれたようだ。


 父親が二人に「ただいま」と元気よく声をかける。

 ここは父方の祖父母の家だ。

 つまり、オレの父親にとって二人は実の両親なのだ。

 

 母親は深々と頭を下げて義理の両親に「数日間お世話になります」とあいさつをした。


 オレも適当にあいさつをすると、祖父母の家に入る。


 毎年の恒例行事とも言える父の実家での生活が始まろうとしていた。

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