第8話 妹の授業参観 中編

金曜日。ついに授業参観の日がやって来た。

どんな服装で行けばいいのかわからなかったので、無難に高校の制服を着用して行くことにする。

授業参観は午後からだ。そのため午前中はのんびり過ごし、少し早めに昼食を済ませてから妹の通っている小学校に向かう。

母校なので通学路はしっかりと覚えている。

とはいえ、小学生時代にランドセルを背負って歩いていた道を、高校の制服を着て歩くのはなんとも不思議な気分だ。


平日の昼間だけあって交通量の少ない道を、おれはひたすら歩いた。

そして、十分ほどで目的地である小学校に到着する。


「思ったより早く着いちまったな……」


昔は自宅を出て小学校に着くまでにもう少し時間がかかった気がするが、今日は予想していた時刻よりもずっと早く到着してしまった。

きっと、体が成長したぶん歩幅が大きくなり、それに比例して歩く速度も速くなったためだろう。


「え~と……五年生の教室は確か三階だったな」


昇降口で来賓用のスリッパに履き替え、三階に向かう。

そして妹の教室を見つけると、少々ためらいつつも静かにドアを開けて中へ入った。


「うわ……予想はしてたけど、保護者の大半は母親だな……」


教室内はすでに大勢の保護者で賑わっていたが、ほとんどが生徒の母親と思しき女性だった。

一応、父親らしき男性も来てはいるが、教室の隅の方でおとなしく立っているだけだ。やはり大半が母親なので、少なからず居辛さを感じてしまっているのだろう。


そんな教室内でただ一人学生服を着ているおれは、非常に目立っていた。

父親でも母親でもなく兄が授業参観に来るのはやはり珍しいようで、どうしても保護者や生徒たちの注目の的になってしまう。


――う……もうすでに帰りてぇ……


周囲の視線を一身に浴びながら、窓際の方へ移動する。

教室の隅っこで静かにしていれば、そこまで目立たないだろう。


――この辺でいいか……


適当な場所を見つけ、他の保護者たちに紛れるようにしてそこに立つ。

なるべく目立たない場所を選んだつもりだったが、瑠璃はすぐに気づいたようで、おれのことを見つけると笑顔でそばまで駆け寄ってきた。


「お兄ちゃん! 来てくれたんだね!」


おれの前で天使のような笑顔をふりまく妹。

授業参観で気合が入っているのか、今日の瑠璃は長い髪をひとつに括ってポニーテールにしていた。

また、服装にも気をつかっており、上は薄いピンクのシャツに水色のサマーカーディガン、下はチェック柄のミニスカートという格好だ。

さらに、髪には普段は付けないヘアピンまで付けている。

特別な日だから精一杯おしゃれをしたのだろう。


おれはそんな妹の頭を優しく撫でてやった。


「もちろん。約束したからな。今日は瑠璃の学校での様子をしっかり見させてもらうからな」

「うん! ちゃんと見ててね」


我が妹ながら、本当に天使のようだ。

まわりからはシスコンと思われるかもしれないが、控えめに言っても可愛いのだから仕方がない。

シスコンはむしろ褒め言葉だ。


そんなことを考えながら妹の頭を撫でていると、担任らしき女性教師が教室に入ってきた。

それと同時に騒がしかった教室が静かになる。


「……あ、先生が来たみたい。それじゃわたしは席に戻るね」


瑠璃が自分の席に戻ってゆく。

他にも教室内を歩き回っている生徒もいたが、担任が来たことでみな自分の席に戻っていった。


そうして生徒全員が着席したのを確認すると、担任の女性教師は保護者たちにペコリとお辞儀をする。

保護者たちも担任教師にお辞儀を返した。

その後、女性教師は軽くあいさつをすると、生徒の保護者が見守る中授業を開始するのだった。

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