第16話 肉まんかと思ったらおっぱいだった 前編

 女子のおっぱいが好きだ。

 三度の飯より好きと言っても過言ではない。

 あまりに好き過ぎて、寝ている時以外は常におっぱいのことを考えてしまっている。

 いや、何なら寝ている時でさえ夢の中でおっぱいについて考えているくらいだ。

 そんなおっぱい星人の一日が今日も始まる。



 

「朝か……」


 オレの名前は栗峰翔くりみねしょう。いたって平凡な高校二年生の男子だ。

 ごく普通の顔立ちで、身長や体重は平均程度。勉強ができるわけでもスポーツが得意なわけでもなく、人より秀でた特技があるわけでもない。本当に普通の男子だ。

 だが、ひとつだけ自慢できるものがある。

 それは、おっぱいへの愛だ。

 ぶっちゃけオレは女子のおっぱいを拝むために生きている。

 おっぱいに対する執着なら誰にも負けない自信があった。


「う〜ん……まだ眠い……」


 そんなおっぱい星人のオレだが、現在はベッドの中で強烈な睡魔と戦っている最中だった。

 時刻は午前七時。一応目は覚めているのだが、眠くて起き上がる気になれない。

 十一月も最終週に突入してめっきり寒くなったことも、起きられない原因のひとつだろう。

 眠いし寒いから、できればずっと布団の中で過ごしていたい。おそらくその気持ちはほとんどの人が理解できるだろう。

 このままでは学校に遅刻してしまうとわかっているのに、なかなか布団から出ることができないでいた。


 そんな風に布団の誘惑から逃れられないでいると、部屋の外から誰かの足音が聞こえてきた。

 足音はどんどん大きくなってゆき、やがてオレの部屋の前でぴたりと止んだ。

 それと同時に部屋のドアが勢いよく開かれる。

 ドアを開けた人物はそのまま入室し、ベッドに近づいてくると、オレから布団を強引にひっぺがすのだった。


「お兄ちゃん! 朝だよ、起きて!」

 

 そう言ってオレを起こそうとするのは、現在高校一年生の妹だ。

 妹はオレと違って、真面目で規則正しい生活を心がけているため、平日だろうが休日だろうが関係なく早起きをしている。

 だから平日の朝はいつも、早起きのできないオレを起こしにきてくれるのだ。


「さ、寒い……」


 布団をはがされたことで、寝ている間に下がった室温に襲われる。

 実際はまだそこまで気温は低くないはずだが、それでも体感温度はほとんど氷点下並だった。


 ベッドの上で震えるオレを、妹が呆れたような目で見つめてくる。


「もう……だらしないないんだから……早く着替えて朝ご飯食べに来なさいよ」

「しょうがないだろ。寒いもんは寒いんだから!」


 ベッドに寝転がったままの状態で妹の方を見る。

 両手を腰に当てて前かがみの姿勢で兄の顔を見つめている妹と目が合った。

 そんな姿勢だから、その大きく張りのある胸が強調されてしまっている。

 オレの視線は、そんな妹の胸元に釘付けになってしまった。

 本当に大きな胸だ。制服越しでもその豊かさがよくわかる。もともと発育はよい方だったが、高校生になってから胸だけはさらに成長しているような気がした。


「お前……おっぱい大きくなってないか?」


 ついつい思ったことを口にしてしまう。

 おっぱいの衝撃が強すぎて、いつの間にか眠気や寒さなど気にならなくなっていた。


「な、な……」


 実の兄から胸について言及された妹が、ベッドから離れて、両手で胸を隠す。

 顔を赤くして恥ずかしそうに胸を隠す姿は、非常に扇情的だった。……まぁ、大きすぎて隠しきれていないのだが。

 完全に眠気が吹っ飛んだオレは、さらにセクハラ発言を続ける。


「なぁ……ちょっと触らせてくれないか?」

「ダメに決まってるでしょ!!」


 妹が声を張り上げた。


「触らせてくれたら起きられそうな気がするんだけど……」

「そんなことしなくても起きられるよね!? ……ていうか、妹の胸に欲情しないでよ」

「しょうがねぇだろ……目の前に大きなおっぱいがあるんだから。実の妹とか関係ないんだよ」


 そう――実の妹だろうがなんだろうが、巨乳は巨乳。

 立派なおっぱいを目の当たりにして興奮しない男子などいるはずがないのだ。

 少なくともオレは、妹のおっぱいに性的魅力を感じていた。


 そんなオレからさらに距離をとる妹。まるで自分の貞操を守ろうとしているかのようだ。


「まったく……相変わらずおっぱい星人なんだから……」

「そうだよ。オレはおっぱい星人だ」

「開き直らないでよ! ……ねぇ、一応確認するけど、学校で女子にこんなセクハラ発言してないよね!?」

「安心しろ! さすがに触らせてくれと言ったことはないから」

「全然安心できない! セクハラ発言はしてるってことだよね!?」


 いつの間にか妹の視線が、危険人物を見るかのような視線に変わっていた。


 そこまで警戒しなくてもいいだろうと思う。いくらオレでも傷つくぞ?


 さすがに心外だったので、妹に抗議する。


「おい! その危険人物を見るかのような視線をやめろ! オレはいたって健全な普通の男子だ!」


 しかし、妹は警戒を解こうとはしなかった。


「普通の男子は女の子にセクハラなんてしないから! 警戒されたくなかったら、胸をジロジロ見るのはやめなさい!!」

「無理言うなよ……そんなことできるわけないだろ?」

「何でできないの!?」


 再び声を張り上げる妹。まだ十六歳だから、思春期男子の気持ちは理解できないのだろう。


 そんな言い合いをしている間にも時間は進み、気づけば時計の針は七時半を指していた。


「……って、もうこんな時間なの!?」


 このままでは学校に遅刻してしまうと思ったのか、妹が部屋から出て行こうとする。


「とにかく! 女の子の胸に興味があるのは仕方ないけど、女子へのセクハラはやめて! いいわね!?」


 そう言うと、乱暴にドアを閉めて行ってしまうのだった。

 

 静まり返った自室で、オレは大きなあくびをする。

 そうしてベッドから起き上がり、制服に着替え始めた。そろそろ学校に行く準備を始めなければ、本当に遅刻してしまうからだ。

 セクハラをやめろという忠告に対しては、「善処する」としか言えないが……まぁ、妹もいつかわかってくれるだろう――おっぱいという素晴らしいものを前にしたら、理性など保てるわけがないということに。


 オレはそんなことを考えながら、制服のズボンを穿き、ブレザーに腕を通すのだった。


 

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