第51話 この世界
必死に堪える花蓮の表情が愛おしく、胸が高鳴る。
そんな気持ちの高揚がついヒーリング魔法にも影響してしまった。
「ひうううっ……そ、そんなに強くしちゃだめっ……ば、ばかっ……司波くんっ……」
花蓮は俺の腕を掴み、爪を食い込ませるほど強く握りしめる。
「あ、済まない。強すぎたか?」
「もういいの、このままっ……お願いっ……ひっ……ああぁぁ……」
花蓮は俺の目を見詰めたまま、背筋を反らせる。
「だ、大丈夫かっ?」
慌てて顔を寄せると、花蓮は俺の首に腕を回し、ぐいっと抱き寄せてきた。
「おい、待てっ」
間髪を入れず、花蓮は唇を重ねてきた。
しかも舌を伸ばし、俺の唇に触れてくる。
頭がふわっとなり、俺も舌を伸ばして花蓮の舌に絡める。
俺たちは求め合うように互いの絡め合っていた。
長いキスが終わり、ゆっくりと顔を離す。
花蓮は瞳を潤ませて俺を見つめていた。
「……好き。司波くん、大好きだよ」
「ああ。俺もだ、花蓮。愛している」
花蓮はびしっと俺に抱きついてくる。
俺も固く抱きしめ返した。
花蓮が愛しているのは俺ではなく、大我だ。
それは分かっているのだが、花蓮がたまらなく愛しく思えた。
「ズルいよ、もう」
花蓮は少し膨れた顔で俺を睨む。
「なんのことだ?」
「だって急にカッコよくなるんだもん。そりゃすきになっちゃうよ。不登校になった時は、私が支えてあげないとって思っていたのに……」
「ちょっと待て。ということは花蓮は小学生の頃からずっと俺のことが好きだったんじゃないのか?」
「はあ? 調子に乗らないで。そりゃはじめは優しくていい人だなって、少し好きだったけど。中学生になったらもう全然好きじゃなかったよ」
「具体的にいつから俺に惹かれたんだ?」
「そりゃ不登校やめて学校に来てからだよ。もう。言わせないで」
なんということだ。
俺の行動によって大我の運命まで変えてしまったということか!?
いや、まあ、大我もあちらで無茶苦茶してくれているからお互い様か。
ん?
待てよ?
それならば花蓮が好きなのは大我ではなく、俺ということになるのか?
「司波くんは本当に強く、かっこよくなったね。出会った頃もかっこよかったけど、いまは更に何倍もカッコいいよ」
「当たり前だ。俺は──」
大我ではなく、闇の魔王なのだから。
その言葉は喉に詰まって口からは出なかった。
「無敵の魔王だからな、でしょ?」
花蓮が呆れた顔でそう言った。
「ああ、その通りだ」
「正直、中二病のところはなんとかして欲しいけど、でもそれを含めて司波くんだもんね」
「俺が本当にここではない世界から転生してきた魔王だったらどうする?」
冗談めかして訊ねると、花蓮は口許に人差し指を指を添えて真剣に考える。
「もし本当だとしたら、ここではない世界に帰らないで欲しい、かな」
真面目な顔で答える花蓮を見て、心臓を鷲掴みされたような衝動が走った。
「当たり前だ。どこにも行くわけないだろう。俺はずっとお前のそばにいる」
「本当? 約束だよ」
花蓮は小指をピッと立てて、小指の契りをせがんできた。
「もちろんだ。約束しよう」
小指を絡め、キスをする。
互いを求めるように舌を絡めあうが、まだ足りなかった。
手のひらで花蓮の乳房を掴むと、彼女は一瞬驚いた顔をしてから頷く。
花蓮は俺のシャツの裾から手を差し入れ、同じようにこちらの胸を触れてきた。
「花蓮……」
「司波くん……」
俺達はじゃれ合うように互いの肌を指で、唇で、舌で感じ合っていった──
朝目覚めたとき、まだ身体には花蓮の名残を感じていた。
「花蓮……」
胸の中で花蓮への想いが膨らんでいき、いっぱいにしていく。
元の世界に戻ることは、もはや出来ない。
俺はこの世界で生きていく。
花蓮を思いながら、胸の中でそう誓っていた。
このあと親にバレないか、相当焦りながら花蓮が部屋に戻っていった。
幸い親にはバレなかったが、愛花には白い目で見られてしまった……
だから花蓮にあれほど声を上げるなと言ったのに……
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