第22話 初めての嫉妬

俺の通う高校には文化祭なるものがあるらしい。

各クラスが模擬店を行い、体育館をステージにして音楽や演劇を披露するそうだ。


俺たちのクラスは駄菓子カフェなるものをするらしい。

駄菓子と飲み物を出すという簡単なもので、文化祭当日は数人が対応すればいいという楽なものだ。


文化祭などに興味がない俺としてはありがたい話だった。

それなのに──


「あー、違うよ、司波くん。そこは赤で塗るの。郵便ポストなんだから赤に決まってるでしょ、もう」


俺は花蓮に駄菓子屋カフェの小道具づくりを手伝わされている。


「知るか、そんなこと。っていうかなぜカフェをするのに、こんなに細かい小道具がいるんだ? 菓子を並べて注文された飲み物をコップに注げばいいだろ。椅子とテーブルだけで充分だ」


「分かってないなぁ、司波くん。コンセプトは昭和の時代の駄菓子屋なの。ノスタルジックな雰囲気を出して店の雰囲気を盛り上げなきゃ」


「それにしたって張りぼての郵便ポストやら公衆電話はやりすぎじゃないのか?」


「神は細部に宿るって言葉知らないの? 些細な小道具の仕掛けがよりリアルなノスタルジーを生み出すの」


花蓮は呆れながらため息をつく。

そこにしたり顔の勇真が近付いてきた。


「俺は花蓮のその考え、分かるな。雰囲気作りってどこまで細かく作られているかが大切だよな」


花蓮に媚を売るようなその態度が、なんだか鼻につく。


「口ばっかり。勇真くん、さっきから真面目にやらずにふざけてばっかりの見てたよ」


「いや、あれは……どんな風にしようか相談してただけだし」


勇真はしどろもどろで言い訳するが、既に花蓮は聞いてない様子だった。

ザマァ見ろ、勇真。



結局一斉下校の時間まで小道具作りをさせられた。

帰りは当然のように俺の隣を歩いてくる。


「文化祭、楽しみだねー」


「そうだな」


「なにその言い方。全然心がこもってない」


「駄菓子屋カフェなんてなにが楽しいんだ? そんなものいつでも食べられるだろ」


「そういう白けたこと言わないの。火も使わないでカフェ出来るからいいでしょ。当日はコスプレもする予定だし」


「コスプレ? 仮装のことか?」


「そうだよ。私はメイドになるんだ」


そう言いながら花蓮はスマホで衣装を着た写真を見せてきた。


「ちょっ、こ、これっ……ス、ススカートが短すぎるんじゃないのか!?」


「これくらい普通だよ」


「太ももまで見えてるぞ! こんなっ……たくさんの人が来るのに、はしたない!」


「あれー? もしかして司波くん、私の脚を大勢の人に見られるのが嫌なの? やきもち?」


花蓮はニターッと笑いながら俺の脇腹を突っついてくる。


「ふ、ふざけるな! なんで俺がやきもちなんて……俺はただそんな淫らな姿を見せて恥ずかしくないのか心配してるだけだ!」


「そっかそっか。やきもちか」


「だから違うと言っておろう!」


「はいはい。分かりましたよ」


「ニヤニヤするな! 全然分かってなさそうなのだが!?」


家に近付いて来ると、花蓮は急に自らの肩を揉み始めた。


「あー、疲れたね。なんだか肩凝っちゃったかも」


「小道具作りは意外と身体を使うからな」


「あー疲れた」


「今日はゆっくり寝ろ」


「そうじゃなくて、疲れたの!」


花蓮はブスッとした顔で俺を睨む。


「……もしかして回復の術を使って欲しいのか?」


そう訊ねると、花蓮は恥ずかしそうにコクっと頷く。


それならそうとはっきり言えばいいのに、変わった奴だ。


「肩が凝ったんだな。背中を向けろ」


「ここじゃなくて私の部屋でして欲しいんだけど」


「この時間に家に訪問するのは迷惑だろう」


「ううん。今日は両親がいないから大丈夫なの」


「そうか? じゃあ」


どうせ断れないのだろうから従う。

はじめて入った花蓮の部屋はパステルカラーが目立つ、愛らしいものだった。


「ほう。これが花蓮の部屋か」


「ジロジロ見ないで。恥ずかしいでしょ!」


「さあ回復してやる。そこに座れ」


「ちょ、ちょっと待ってて。汗かいたし、シャワー浴びてくる」


「すぐ終わるからそんな心配はない」


「すぐ終わるって……ゆっくりして欲しいな」


花蓮は妙に艶っぽい目をして呟く。


「そうか? まあ分かった」


花蓮はいそいそとシャワーへと向かっていった。


それにしても可愛らしい部屋だ。

いかにも若い女性の部屋である。

カーテンはライムグリーン、ベッドの布団は淡いピンク、机には色々な小物が飾られている。


入ったことはもちろんないが、天空の聖女の部屋はきっと白で統一された色気の欠片もないものだろう。

花蓮とカレン。

見た目は似ていても中身はずいぶんと違う。


「お、お待たせ……」


ドアが開くと、ふわっと石鹸の香りが広がった。

制服から先ほど写真を見せてきたミニスカートのメイド服に着替えていた。


「お、お前、そんな脚を露出した格好して」


「い、いいでしょ。不特定多数に見せてる訳じゃないんだし」


「それはそうだが……」


目のやり場に困っていると、花蓮は床にマットを引き始めた。



─────────────────────



思わず嫉妬をしてしまった魔王様。

そろそろ花蓮ちゃんの魅力に惹かれ始めてきたようですね。


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