第23話 花蓮へのヒーリング

 花蓮は敷いたマットの上にうつ伏せで寝転がる。


「それじゃ……お願い、します」


「なんで寝転がるんだ? 座ったままでいいぞ?」


「この姿勢のほうがいいの」


「?」


 よく分からないが、まあこちらとしてはどっちでもいい。


 改めて見ると花蓮の身体は引き締まっている。

 すらりとしつつも、脚や腕、背中にはしなやかな筋肉があった。


「さすがダンスをしているだけあって美しい体躯をしている」


「そ、そうかな? ありがとう」


 花蓮は恥ずかしそうに顔を赤らめて笑う。


「さ、始めるか」


「はじめから強くしないでね。徐々に強くして……焦らすくらいでいいから」


「なんだ、それ? いちいち指示が細かい奴だな」


 花蓮の肩に手を翳し、ゆっくりとヒーリングを始める。

 手のひらから青白い光が溢れてきたので、ゆっくりと花蓮の身体に入れていく。


「あっ……来た来たっ……身体が温かくなる感じ……」


「花蓮の中に俺の気が入っていってるんだ」


「司波くんが……私の中に……んっ……はぁっ……」


「大丈夫か!?」


「うん、平気。気にしないで続けて」


「そうか?」


 うつ伏せだから花蓮の顔は見れないが、なにやら息を弾ませている。


 それにしてもゆっくりヒーリングするというのは意外と難しい。

 そもそもヒーリングというものは素早くするものであって、抑えながらすることなどはじめてだ。


「あっ、ダメ……やめないで」


「おう、すまない。弱めすぎて止まってしまったか」


 慌ててヒーリングを再開する。


「ひゃううっ!! い、一気に激しくしすぎっ……あああっ……」


「あ、すまん」


「い、いいの……逆にいいかも」


「逆に?」


「なんでもないから、続けて」


 花蓮が首だけ振り返り、俺を見る。

 その瞳は妙に潤んでいた。


「肩ばっかりじゃなくて、他のところもっ……お願い……」


「分かった」


 肩から背中、臀部、太ももと下げていく。


「ひゃ……んぅうっ……や、ダメっ……そんなにっ……ああっ!!」


「おい、そんなに動くな。やりづらいだろ」


 脚をバタバタさせるので、ミニスカートが捲れて白い下着が見えてしまっていて、目のやり場に困る


「だって……」


「そもそももう回復しただろ? やめるぞ」


「や、やめないで! 動かないから!」


 花蓮は必死に懇願してくる。


「仕方ないな……じゃあ動くなよ」


「鬼……鬼畜……」


 一瞬褒められたのかと思ったが、恐らく流れからして貶されたのだろう。

 ならばさらに強めに術をかけてやる。


「ひっ!? う、うううっ……激しっ……」


 ヒクつきながらも暴れずに堪えている。

 なかなか根性があるな、花蓮。


「あっ……あっ……そこっ……弱いかもっ……」


 脚の付け根辺りが効くらしい。

 確かに触れなくても気を送る感覚で疲労しているのが分かる。

 ダンスで疲労しているのかもしれない。


「そ、そこばっか、ダメっ! ああっ!」


「おい、大丈夫か?」


「やめないでっ! お願い、このままっ……」


 花蓮は俺の脚を掴んでくる。


「しかしずいぶんと苦しそうなんだが?」


「ね、司波くん……手を握って」


「手を? まあいいが」


 治癒に使っていない左手で花蓮の手を握る。


「あうっ……だ、ダメ、ダメかもっ……もうダメかも」


 花蓮はギューッと強く俺の手を握る。


「なにがダメなんだ?」


 花蓮は顔を上げ、俺を見詰めてくる。

 眉尻を下げ、ギリッと歯を食い縛りながら、無理やり微笑もうとしていた。

 なんだか感情がぐちゃぐちゃになったような表情だ。


 いつもの整った顔立ちと違う、必死の顔だった。

 しかしそれが妙に官能的で、蠱惑的だ。


「ごめっ……んっ……司波くん、ごめんねっ……私、こんなっ……ああっ……み、見ないで」


「花蓮が俺を見てるんだろ?」


 花蓮は脚をピンっと伸ばし、足の指を開いたり閉じたりさせていた。


「あっ……あああっ……司波くんっ……ごめんっ……私、もう、無理かも……ダメになっちゃうっ……ひゃああああっ!!」


 花蓮はうつ伏せのままピンっと海老反り、虚空に視線を飛ばしながら二秒ほど固まり、次の瞬間脱力していた。


「ちょ、おい! 大丈夫か!?」


「うん……へーき、らいじょーぶだよ……えへへ」


 花蓮はへにゃっと弛緩した顔で笑う。

 ちっとも大丈夫ではなさそうだ。


「水でも飲め。汲んでくる」


「いいの。どこにもいかないで」


 俺を行かせまいと、ぎゅっと手を握ってくる。


「ねえ、頭撫でて」


「こ、こうか?」


「うん。そう……ありがと……気持ちいいよ」


 いつも気丈な花蓮とは思えないくらいの甘えぶりだ。

 そのギャップが可愛くて、ドキッとしてしまう。


 しばらくそのまま頭を撫でていると、次第に花蓮は身を縮めはじめた。


「どうした?」


「落ち着いてきたら、なんか恥ずかしくなってきた……」


「なにを恥ずかしがることがある。ヒーリングを施されただけだぞ」


「そ、そうかもしれないけど」


 花蓮は起き上がって、所在なさげに衣服の乱れを整えていた。


「あ、ありがと……おかげで疲れが取れたよ」


「そうか。それならよかった」


 花蓮は火照った顔で微笑んでいた。

 それにしても本当に回復してるのか?

 なんだかちょっとぐったりしているように見えた。



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 ヒーリング回をお楽しみいただきました。

 花蓮ちゃん、健康になれてよかったですね!


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