第24話 遊水地の提案
~~大我side~~
ユーグレイア王国第三の都市、イレンツォ。
ここは古くから交通の要として発展してきた。
東西の珍しいものが多く運ばれ、文化の交流も盛んだったことから、芸術家も多く排出した都市でもある。
しかし昔からこの街を悩ませてきた問題もある。
それが水害だ。
いくつもの川が周辺に流れているので、大雨が降ると氾濫してしまう。
その度に甚大な被害が出てしまうそうだ。
「タイガさま、本当に川の氾濫を抑えることなんて可能なんでしょうか?」
カレンは不思議そうに俺を見る。
「問題ない。ちゃんと上空からこの一帯の地形を確認してきたからな」
俺は地図を広げ、カレンをはじめとする集まっていた者たちに説明をする。
「この辺りに大規模な遊水池を設ける」
「ユウスイチ?」
「大雨などで水量が増えたとき、一時的に水を流して蓄える池のことだ」
「人の手で池を作るんですか!?」
「ああ、そうだ。それも大掛かりな」
その有用性を説くと、集まっていた人々の大半は「なるほど」と納得していた。
まあ俺も社会の授業で習っただけのことなんだけど、
学校の授業なんてなんの役に立つんだろうと疑問に思っていたが、異世界生活では結構役に立つ。
「ワシは反対だ」
白い髭をもっさりと生やしたイレンツォの市長が異議を唱えた。
「山も川も湖も海も、全ては神が作りしもの。人の手で池を作り、川の流れを変えるなど、天に背く行為である」
「その神が作りしもののせいでこの土地は長年水害にあってきたんだろ。その水害もまた神の試練というなら、不満を述べずに暮らすことだ」
一度水害が起これば、貯蓄していた穀物は水浸しで駄目になり、家畜も多く流される。
そのために飢饉が起こり、死者も多数出ていた。
「そもそも魔王の言うことをそのまま受け入れることが出来ん」
市長は鋭い眼光で俺を見る。
さすが大都市の市長というだけあり、老人ながらなかなかの迫力だ。
「市長! タイガさまは人々と魔族の共存を願う素晴らしい方です」
カレンがすぐさま反論する。
「それは我々を欺く仮の姿かもしれん。ここに池を作ることで魔族を招き入れる策だとしたらどうする?」
俺の案に同調しかけていた人たちも市長の言葉で揺らぎはじめていた。
結局その日は結論が出ず、また明日の会議で話し合うこととなった。
「すいません、タイガさま。せっかくこの土地の水害対策を考えてくださったのに」
カレンはしょんぼりとした顔で俺に頭を下げる。
「気にするな。市長の心配する気持ちも分かる。千年もの長きに渡り、人と争ってきた魔王の提案など、そう簡単に受け入れられることではない」
「でもっ……あんな言い方はあんまりです」
「俺のために憂いてくれているのか? 可愛い奴め」
「可愛いだなんて、そんな……」
カレンは頬を染めながら照れている。
「いきなり人と仲良くするなんてことは難しい。しかしカレンのように俺を信じて受け入れてくれる者もいる。それだけで俺は嬉しいぞ。ありがとう」
「タイガさま……もったいない言葉、ありがとうございます」
「さあ食事にしよう。腹が減った」
「そうですね! この土地は牛肉料理が有名なんです。仔牛の骨付きステーキや臓物の料理も美味しいですよ」
「ほう。それは楽しみだ」
レストランに向かう途中、突如警報の鐘が鳴らされた。
「モンスターストライク発生! 市民は直ちに避難せよ! 繰り返す、モンスターストライク発生っ!」
その号令で周りの人々は叫びながら走り出した。
「モンスターストライクっ!?」
緩んでいた気分が一気に引き締まる。
モンスターストライクとは、魔族が大群をなして襲いかかってくることを指す。
通常人の住む大都市にモンスターストライクが発生することはあまりない。
「タイガさまっ!」
「行くぞ。食事はしばしお預けだ」
俺とカレンは浮遊術で勢いよく空へと飛び立つ。
イレンツォの街に押し寄せてきたモンスターの数は百や二百じゃなかった。
地上からだけではなく、空からも無数のモンスターが襲ってくる。
「カレンは地上に降りて兵たちと迎撃しろ。決して街にモンスターを入れるな。俺は空から来る奴らを叩き落とす」
「そんなっ。無理です! ものすごい数ですよ。いくらタイガさまでもお一人では」
「侮るな。俺は魔王だぞ! 地上は任せた!」
「は、はい! どうかご無事で!」
カレンは一直線に地上のモンスターたちへと向かっていく。
さて、俺も戦うか……
見たところ大半は下等魔族で構成された部隊だ。
しかし飛龍の姿もいくつか確認できる。
まあ無敵のこの身体さえあれば、余裕だろう。
アプリゲーム『ユーグレイア戦記』で鍛えた俺の戦闘技術を見せてやんよ!
まずは炎の魔術で城に向かっていた雑魚をなぎ払う。
細かく狙ったわけではないので、それほど多くを燃やせたわけではない。
これは突撃を妨げるのが目的だった。
「雑魚ども! この魔王さまが相手になってやろう」
俺の登場に多くのモンスターが驚いていた。
その隙に魔王の得意技、暗黒業火で次々と焼き払っていく。
「おやおや。誰かと思えば『マオウサマ』じゃないですか」
突撃させた雑魚の後ろに控えていたのは、魔族軍の三番隊長『漆黒のゲレイロ』だった。
─────────────────────
異世界生活も楽しいことばかりではありません。
ときにはこんな不遇や襲撃もあります。
負けるな、大我!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます