第47話 いきなり英雄

 〜〜シュバイツァーSide〜〜



 教室に入るとクラスメイトたちがわらわらと俺の周りに集まってきた。


「よかった司波くんが戻ってきて!」


「心配したぞ!」


「大丈夫だった?」


 女子だけでなく、男子も声をかけてきた。


「おい、いっぺんに話し掛けるな」


 どうやら重森の被害に遭っていたのほ俺だけじゃなかったのだろう。

 まるで英雄扱いだ。 


「やるんなら俺らにも声をかけてくれよ」


 葛原がぐいっと肩を寄せてくる。


「お前なんていても足手まといだ」


「ひでー言い方だな、おい」


 葛原が大げさに拗ねると、クラス中に笑いが起きた。


「でも色々教頭に話してくれたんだろ。助かった」


「ったり前だろ! 俺ら仲間なんだから」


 葛原は恥ずかしそうに顔を背ける。

 なかなかいい奴だ。


 勇真の奴は少し離れたところで、この騒ぎを無視するようにスマホを弄っていた。

 侮っていた司波がクラスの人気者になり、面白くないのだろう。

 相変わらず器の小さい男である。



 騒ぎが収まってから花蓮が俺のところにやって来る。


「もう無茶はしないでよ」  


 花蓮は少し怒った顔で俺を睨む。


「悪かったな、色々。教師たちにも掛け合ってくれたらしいな」


「べ、別に大したことしてないし」


「花蓮が言ってくれなければ、俺も処分されていただろう。本当にありがとう」


 頭を下げて感謝を述べると、花蓮は頬を染めて目を泳がせる。


「言葉だけじゃなく、行動で感謝を示してよね」


「そうだな。じゃあプレゼントをしてやろう。ルイヴィトンの鞄にするか? それともスワロフスキーのアクセサリーがいいか?」


「そんな高価なものいらないよ。それより今度の休み、付き合ってよね」


「お、おう。そんなことでいいなら。何をするんだ?」


「それは内緒。あ、でも最後はアレだからね」


「アレとは?」


 意味不明で首を傾げると、花蓮は更に顔を赤らめて耳打ちしてきた。


「ほら、あのヒーリングってやつ」


「おー、あれか。分かった」


 花蓮は本当に回復魔法が好きだな。

 まあ簡単だから構わないが。

 それにしてもそんなコソコソ話すような内容か、それ?



 校内を歩いているとクラスメイトだけでなく、見知らぬ生徒からも声を掛けられる。

 中には二年生や三年生からも声を掛けられた。

 重森を打ちのめしたことにより、多くの生徒たちから感謝されているようだった。


 その中には重森の手下のような奴までいた。

 部下からも嫌われていたとは、本当に人望のない奴だったのだろう。


 一躍ヒーローになった一日は、また別の意味で疲れた。

 下校はさっさと美濃と二人で帰る。


「スゴい人気だね、司波くん」


「俺が人気なのではない。重森の人気がなさすぎたんだろ」


「あはは。まあそれもあるかもね」 


「まあこれで理不尽にイジメられる者が減るだろう」


「そうだね。司波くんのおかげだよ」


 これだけ平和な学校になったのだから、もう大我が戻ってきても大丈夫だろう。


「いつまでも俺に頼るなよ。美濃も鍛えて強くなったのだから、これからはお前も弱いものイジメをする奴に立ち向かえ」


「僕が? 無理だよ」


「美濃は自信がないところだけが弱いところだ。もっと堂々としておけ」


「うん。分かった。実は司波くんを見て、僕もそうしなきゃって少し感じていたんだ」


 美濃は照れくさそうにそう言って笑った。


 はじめて見たときは肥満体質で情けない奴だったが、今は痩せているし精悍な顔つきになっている。

 こいつならもう心配もないだろう。


「もし俺が突然弱くなって、臆病者になったら、そのときは美濃が助けてくれよ」


「司波くんが臆病に? ないない」


 美濃がおかしそうに手をパタパタさせる。


「そりゃわからないぞ。何かの弾みでそうなるかも知れない」


 真剣な表情で美濃に伝えると、美濃も神妙な面持ちで頷く。


「分かった。そうなった時は僕が司波くんを護る」


「よろしく頼むな」


 俺と大我が再び入れ替わっても問題ない地盤を築かなければいけない。

 そのためには親友の美濃の存在が大切だった。



「ちょっとキモ兄、なにしたのよ!」


 家に帰ると妹がすっ飛んでくる。


「なんのことだ?」


「こっちが聞いてるの! 学校に行ったら、『お前の兄ちゃんめちゃくちゃ喧嘩強いんだって?』とか聞かれてびっくりしたんだから」


「なんと!? お前の学校にまで名が響いているのか?」


 他の高校はおろか、中学校にまで噂が轟いているとは驚きである。


「ヤンキーなのかとか、家でも暴れているのかとか聞かれて大変だったんだからね!」


「まさか愛花、お前はイジメられてないだろうな」


「は? そんなわけないでしょ。キモ兄じゃないんだから」


「そうか。よかった。イジメられたらすぐ言うんだぞ。俺が仕返ししてやるから」


「な、何言ってるの。馬鹿じゃない」


 愛花は怒ってプイッと出ていってしまう。


 あの勝ち気で活発な妹がイジメられることはないだろうが、俺が原因で変な奴に絡まれないとも限らない。

 注意を払っておこう。



 ─────────────────────



 すっかり英雄の魔王様。

 この世界での地盤を作り、大我も住みやすい世界になったはず!



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