第18話 主犯格

 夏油はじっと俺を睨み付けてくる。

 これまでの奴らと違い、舐めくさった態度でいきなり殴ってこない。


「どうした? 半殺しにするんじゃなかったのか?」


「あんまイキがるなよ? 優しい俺にも限界っていうのがあるからな」


「優しい? 弱いものいじめをする奴が優しいのか? この世界の言葉は難しいな」


 これまで美濃や大我に暴力を振るってきた奴だ。

 お灸を据えてやるか……


『強くなったからって喧嘩なんてしちゃダメ。約束して』


 全身に力を込めた瞬間、不意に花蓮の言葉が脳裏をよぎった。

 瞬間の躊躇いが隙を生んでしまう。


 夏油はその隙を見逃さず、拳を振り上げてきた。

 慌ててバックしたが、不覚にも頬を殴られてしまった。


「てめえ、この野郎!」


「すいませんでしたああぁ!」


 反撃しようとした瞬間、美濃が俺を押し退けて土下座をかました。


「どうか許してください! 司波くんにもよく言って聞かせますんで!」


「おい、やめろ美濃」


 こんな奴、別に余裕でぶちのめせる。

 謝る必要なんてない。


「なんの騒ぎだ?」


 美濃のでかい声が聞こえたらしく、教師が駆けてくる。


「ちっ……行くぞ」


 夏油たちが慌てて教室から出ていく。


 遅れてやってきた教師に美濃は適当な嘘をついてやり過ごしていた。

 恐らく大声を出して助けを呼ぶ作戦だったのだろう。

 ミノタウロスと違い、小賢しいことを思い付く奴だ。


「早く下校するように」と教師に促され、仕方なく俺たちは下校した。


「余計なことをしやがって。あんな奴余裕で半殺しに出来たのに」


「ダメだよ、そんなことしちゃ」


「あいつが前に言っていたイジメの首謀者なのか?」


「いや、違うよ」


 美濃は暗い顔で首を振る。


「夏油先輩は二年生。トップは三年生なんだ」


「三年? なぜそんな奴らに俺たちはイジメられていたんだ?」


「そんなの分からないよ。でもあの人たちはいじり甲斐がありそうな人を見つけると、絡んでくるんだ」


 随分とたちの悪い奴らのようだ。


「そいつの名前は?」


 改めて問いただすと、美濃は辺りをキョロキョロと見回した。


重森しげもり先輩……かなりヤバイ人だよ」


「どうヤバイんだ?」


「親は本職のヤクザだって噂だよ。卒業生のOBの半グレとも繋がってるらしい」


「何人も殺してるのか?」


「まさか! そこまではしてないよ」


「なんだ。じゃあ大したことないな」


「またそういうこと言って。本当にヤバイ人だから喧嘩なんてしちゃダメだよ」


 美濃の怯え具合を見ても、相当残虐な奴なんだろうということは推測できた。

 とはいえ殺し合いをしたこともない生温い奴なら大したことはないだろう。


「でもさっきザコを一人やっつけただろ? あれで仕返しとか来るんじゃないのか?」


「確かに……」


「向こうから喧嘩を売ってきたら、立ち向かうしかないよな?」


「なんでそんなに嬉しそうなんだよ、司波くん」


 こちらから喧嘩を売るのはいけないが、火の粉を払うために正当防衛することまでは花蓮も咎めないだろう。



 家に帰ってからゲームの続きをする。

 相変わらず向こうの世界では大我がユーグレイアの民たちと生温い馴れ合いを続けていた。



 ──

 ────



「ねーねー、魔王様、一緒に遊んで」


「これ、いけません。タイガさまは忙しいんですよ」


 大我に幼い子どもがじゃれついてきて、母親が慌てて止める。


「ははは。構わん。共に遊ぼう。あ、よかったら若奥さんも一緒に遊びましょうか? ぐへへへへ」


「タイガ様! またいやらしい目をして!」


「お、おい待て、カレン! 俺はただ子ども遊びたいだけだ」


 〜〜〜〜


 ……なに見せられてるんだ、これ?

 まるで安物のラブコメディのようだ。

 というか普通にタイガって呼ばれてるし。

 魔王の名はシュバイツァーだ!


 司波大我のせいで俺の世界がどんどん歪められてしまっている。


 人間どもに慕われていく魔王だが、それを快く思わない人間もいた。

 勇者カインである。


 勇者は不服そうにカレンに訊ねる。


「カレン、あなたは本当に魔王を信用されているのですか?」


「もちろんです。タイガは心を入れ換え、平和のために尽くそうと考えられています」


「それは奴の作戦です。我々の内部に潜り込み、油断させ、そして内側から破壊するつもりです」


 本当にそうであれば、どれだけ嬉しいだろう。

 俺は「そうだ。そうに違いない!」と勇者の意見を応援した。


「そんなことはありません。あの方は誠心誠意、人間と魔族の平和的共存を願っている立派な方です。ちょっとえっちなのは困りますけど」


「え、ええええっちとは!?」


「その、私の入浴を覗きにきたり、しれっと胸を触ってきたりとか、そういうことです」


 カレンは顔を真っ赤にしながら呟く。


 おい、ふざけるな!

 なにをしてるんだあいつは!

 最大の敵なんだぞ、その女は!


「む、むむ胸をっ!? あの野郎! 許せん! 叩き斬ってやる!」


「やめてください! 別に私はそれくらい……むしろ嬉しいというか」


「最後の方が小声で、よく聞き取れなかったのですが」


「な、ななななんでもありません! とにかく魔族と人間は共存していく。これは国王さまも決められたことです!」


 大我の奴、聖女だけでなく、国王までも味方につけたのか!?

 恐るべき奴である。



 ─────────────────────



 勝手に世界を改変させていく大我に苛立つ魔王様。

 果たして向こうの世界ではどうなっているのでしょうか?


 次回から第二章が始まります!

 果たしてもう一人の転生者、大我くんはどうなっているのでしょうか?


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