第17話 大我の暴走

 新しくアップデートされたストーリーを進めたが、絶望の連続だった。


 魔王となった大我は全面降伏し、ユーグレイア王国へと移送された。

 大我は早々に魔族と人間の戦争の終結を宣言する。

 しかし魔族はすんなりとその号令に従わなかった。


 というのも、元々魔族は一枚岩ではなかったからである。

 魔王の圧倒的な力が怖くて従っていただけだ。

 敵に寝返った弱々しい魔王の言うことなど聞くはずもない。


「シュバイツァーの臆病者め!」


「元々あいつは嫌いだったんだよ!」


「あんな奴いなくなってせいせいする。人間と共に殺してやる!」


 魔族たちの罵詈雑言の嵐に、俺はぶっちゃけ凹んだ。


 まあ嫌われてるんだろうなーって自覚はあったが、ここまでだったとは……


 ただミノタウロスとか一部の配下は俺に従い、ついてきてくれた。

 それだけが唯一の救いだった。


「こうなったら俺に歯向かった魔族も殺してやる! それが終わったら今度は人間どもを駆逐する!」


 そんな怒りに震えながらゲームを進める。

 だが、ゲームはこれまでのバトルアクションから国造りのゲームに変わってしまっていた。


 道路を舗装や、農地を開拓、効率のよい畜産、治水工事の計画を打ち立てていく。

 その陣頭指揮を取っているのは、もちろん大我だった。


「ありがとう、魔王!」


「これで住みやすくなった!」


「魔王様のおかげで安心して暮らせます」


 人間たちは老若男女問わず、大我に感謝していく。


「ふざけるな!なにをしておる! 魔王が人間たちの暮らしをよくしてどうするんだ!」


 怒りのあまり、スマホを壊しそうになってしまう。


 川に毒を流せ!

 田畑を荒らせ!

 家畜を凶暴化させて人間たちを襲わせろ!


 寝る間を惜しんでゲームをしたが、やればやるほど魔王がどんどんと人々から感謝されていく展開でストーリーが進んでいった。



 本当は学校を休んでゲームをしていたかったが、そんなことをすれば母上が悲しむ。

 あの心優しい女性を悲しませるのは気が引ける。

 仕方なく学校へと向かった。



「おはよう、司波くん。って、目が真っ赤だよ!?」


 美濃は俺の顔を見て驚く。


「一晩中『ユーグレイア戦記』をしていたからな」


「一晩中!? 寝ないでしてたの!?」


「ああ。徹夜なんてなれておる」


「無茶しちゃダメだよ」


 心配する美濃を見て、イラッとしてしまう。

 人々と田畑を耕すミノタウロスを思い出してしまったからだ。


 いかんいかん。

 美濃とミノタウロスは別人だ。

 似てるというだけで八つ当たりをしてしまうところだった。


「なあ美濃。ゲームの世界に入る方法ってないのか?」


「あのゲームにそこまでハマってるの!? まあゲームの世界に行きたいという気持ちは分からなくもないけど。でもゲームと現実を混同しちゃダメだよ」


 美濃は残念そうな顔で俺を見ていた。




 放課後は家に帰る時間も惜しいので、教室でゲームを再開した。

 何か役に立つかもしれないので、美濃にも一緒に残ってもらっていた。


 ゲームを始めて三十分ほど経ったとき、いきなり荒々しく教室のドアが開かれた。


「よう、オタクくんたち」


 制服をだらしなく着崩した男たちがニヤニヤ笑いながら教室に入ってくる。


「げ、夏油げとう先輩……」


 美濃は怯えた目をして、慌てて直立不動に立ち上がる。


「よう、ブタ。元気そうだな」


 真ん中のピアスをしてパーマをかけた男がそれに答える。

 どうやらあいつが夏油なのだろう。


「チビの方は引きこもりやめて学校に来はじめたんだな?」


「なんのようだ? いま取り込み中だ。失せろ」


「おい、テメェ! 話しかけてんだから顔上げろ!」


 手下Aみたいな奴が吠える。

 大声を出せば相手が萎縮するとでも思っているのだろうか?

 本当に低能な奴らだ。


「いま俺は機嫌が悪い。死にたくなければさっさと失せろ」


「ふざけんなよ、ド陰キャ野郎! 学校だからボコられないとでも思っているんのか!?」


 手下Bが俺の髪を掴もうとしてくる。

 その手を手刀で弾き、頭頂部でザコBの顔面に頭突きを食らわせた。


「ぐはぁあああ!!」


「あーあ。大丈夫ですか? センパイ。鼻血出てるじゃないですか。あはは。汚した床は自分で拭いてくださいね」


 床で転げ回るザコBをニヤニヤ見ながら煽る。

 美濃は情けなくおろおろしていた。


「イキがんなよ、オタク!」


「イキがってるのはお前らの方だろ? いきなりやって来て喧嘩を売ってきたのはそっちだ」


「この野郎! ぶっ殺すぞ!」


「やめろ」


 興奮する手下Aを夏油とやらが諌める。


「やけに強くなったという噂は本当のようだな?」


 夏油とやらはかなりの高身長で、体格もガッチリしている。

 何より落ち着いていて、立ち姿に隙がなかった。


 こいつはこれまでのザコとは少し違うな。


「体育祭のとき、随分調子に乗ってたよな、お前」


「わざわざ一年の種目を見てたのか? もしかして俺のファンか?」


 立ち上がって夏油と対峙する。


「あんま笑わすなよ? 殺すぞ?」


「殺す? お前こそ笑わせるな。命のやり取りをする戦いなどしたことがないだろ?」


「殺すは言い過ぎたな。半殺しにしてやるよ」


 口だけでなく、こいつはなかなか腕が立つようだ。

 まあ俺の敵ではないが。


 やれやれ。仕方ない。どちらが上なのか教えてやるか……



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 ついに二年の先輩までやって来てしまいました。

 しかし期限の悪い魔王様のところにやって来るとは、運のない奴らですね!

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