もう一人の転生者

第19話 ユーグレイア王国の日常

 ~~大我side~~



「あー、異世界最高!」


 ふかふかのベッドの上で大の字に寝転がり、俺は改めて幸せを噛み締めていた。


 異世界に転生されて天空の聖女に殺されかけていた時は詰んだと思ったけど。


 ユーグレイア戦記をしていたお陰で、この世界の状況を理解していたので助かった。

 ソッコーで魔族を裏切り、人間側に寝返って本当によかった。


 今ではみんなから感謝されるし、魔力や凄まじい身体能力も手に入れられたし、最高の気分だ。

 異世界転生最高!


 元の世界にいたときは不良たちに毎日イジメられ、地獄のような生活だったからな。

 もう二度とあんな世界には戻りたくない。


 コンコン……


 ドアをノックする音が聞こえる。


「入れ」


「失礼します」


「おおー! 誰かと思えば天空の聖女、カレンじゃないか」


「その呼び方、やめてください。カレンで結構です」


 幼馴染みの天ケ嶋花蓮によく似たカレンは、頬を染めながらそう指摘する。

 見た目は似ているけど性格は少し違う。

 花蓮よりお淑やかだし、優しい。


 まあ花蓮も優しいところはあったけど、基本的にはダメな俺を叱るタイプだった。

 それに比べてこちらのカレンはありのままの俺を受け入れてくれる。

 どちらかと言えばこちらのカレンの方が個人的には好きである。


「今日は街の視察に行かれるんですよね。お供します」


「おー、そうだった。しかしその格好で行くのはよくないな」


「なぜですか?」


「こっそりお忍びで行くからに決まってるだろ。平民に紛れるため、着替えるんだ」


「なるほど。さすがはタイガさま。分かりました。着替えてきます」


「その必要はない。服はすでに俺の方で用意している」


 用意していた服を渡す。

 もちろん俺好みの清楚だけどちょっと際どくてエッチな服だ。


「こ、こんな短いスカートを穿くんですか!? それに胸元もゆるゆるで……屈んだら胸もパンツも見えてしまいそうなのですが……」


「それがいいんじゃ、あ、いや、いま街で流行っているファッションだ。これを着れば目立たないはずだ」


「はぁ……分かりました」


「ちなみに下着は何色だ? そこで平民じゃないとバレるかもしれないからな」


「……絶対ウソですよね、それ」


 じとっと睨まれる。

 さすがに無理がありすぎたか。




 俺が用意した服に着替え終えたカレンは、恥ずかしそうにスカートの丈を引っ張っていた。


「やはりこれは露出が激しいのでは? なんだかスースーして心許ないのですが……」


「そう? 可愛くてよく似合ってるぞ」


「か、かかか可愛い? 私が、ですか?」


「ああ。とてもよく似合っている。想像以上だ」


「あ、ありがとうございます……」


 カレンは顔を真っ赤にしながら、恥ずかしそうに笑っている。

 その姿は聖女というより天使だ。


「さあ、行くか」


「ひゃっ!? て、手を繋ぐんですか?」


「当たり前だろ? カップルを偽装して歩くんだから」


「そ、そうですよね。分かりました」


 カレンは頷きながら、おずおずと俺の手を握り返してきた。

 リアクションがいちいち可愛すぎる。



 ユーグレイアの街は活気に溢れていた。

 大通りには多くの人が行き交い、屋台も数多く出ている。

 俺たちは屋台でB級グルメを楽しんだり、大道芸人を観たりと、さながらデートのように満喫していた。


 はじめは照れていたくせに、カレンは自ら俺の手を握ってくる。

 可愛らしい奴め。

 試しにわざと手を離してみた。


「あ、ダメですよ、タイガさま。手を繋いでないと偽装になりません」


「手を繋ぐだけでは怪しまれるかもしれない。次は俺の腕に抱きつきながら歩いてみよう」


「ええっ……こ、こう、ですか?」


 カレンは恐る恐る俺の腕に抱きつく。

 さほど大きくはないが柔らかな胸がムニュっと当たる。


「そうだ。上手だな、カレン。さては経験があるな?」


「そ、そんな経験ないです!」


「それにしては自然な感じだぞ?」


「意地悪なこと言わないでください。私は男性とこうして二人きりで出歩いたこともないんですから」


「え? そうなのか? こんなに美少女なのに?」


 驚きながらカレンの顔を凝視する。


「び、美少女なんかじゃないです。聖女というのは男性と恋をしたり、その、そそそういった行為をするのは禁じられてますから」


 それは知らない設定だった。

 でも確かにゲームのストーリー的に、聖女との恋愛シーンはない。

 落とせないヒロインのくせに可愛すぎるだろうという非難があったほどだ。


「『そういうこと』とはなんだ?」


 知っていながら惚けて訊ねる。


「そ、それは……内緒です!」


「はっきり言ってもらわないと困る。間違って俺がカレンに『そういうこと』をしてしまうかもしれないだろ」


「えっと、それは、その……キスをしたり、とか、あの……」


「ゴニョゴニョ言って聞こえないんだが?」


 カレンは真っ赤な顔をして辺りを見回し、俺の耳許で囁く。


「聖女は男女の契りを交わしてはならないんです」


「ほう、そうなのか。つまりカレンは処──」


「それ以上言ったら、光の魔法で葬ります」


 目がマジだ。

 さすがにからかい過ぎた。

 反省しよう。



 ─────────────────────



 すっかり異世界ライフを満喫している様子の大我。

 元の世界に戻ろうなんて気持ちはゼロのようです。


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