第20話 お詫び

 散々デートを楽しんでしまっていたが、今回の隠密調査にはちゃんと意味がある。


「さて、そろそろ次のところに行くか」


「次はどちらへ? あ、凱旋通りに美味しいケーキ屋さんがあるんですけど、そこに行きましょうか?」


「いや。その前に行きたいところがある」


 俺がカレンとやって来たのは、繁華街から大きく離れた集落だ。

 この辺りはよく言えば古くからの下町、悪く言えば治安の悪いスラム街である。


「こんなところになんのご用が?」


「こっちだ」


 古びた倉庫街だ。

 すでに使われなくなったと思われる朽ちた倉庫も散見出来た。


「ここだな」


 五十五番倉庫。

 見た目には他の見分けがつかない、赤レンガに蔦が絡まる倉庫である。


 中に入ると、微かに血の匂いがした。


「カレン、俺から離れるなよ」


「はいっ……」


 倉庫内には一見誰もいない。

 しかし先程から視線を感じていた。

 恐らくカレンもその気配に気付いているのだろう。


 奥の扉に手を掛けると、物陰から何者かが出てきた。


「ここに何の用だ?」


 頬に傷のある大男が凄んでくる。


「ここにテロリストのアジトがあるだろ? それを摘発にきた」


「テロリストっ!?」


 事情を知らなかったカレンが驚く。

 ここにテロリストのアジトがあるということは『ユーグレイア戦記』をしていれば知っていることだ。


「そうか。それなら話は早い」


 そう言うなり、大男は腰に下げた剣に手をかける。


「遅いな」


 抜かせる前に大男の腹にパンチを見舞った。


「うぐっ」


 前屈みに崩れたところをカレンが魔法で捕縛する。


 それが合図だったように、扉が開いてテロリストたちが一斉に襲いかかってきた。


「行くぞ、カレン」


「はいっ!」



 ──

 ────



 二十分後には床に多くのテロリストたちが転がっていた。


「タイガさん、強すぎです」


「カレンだって相当なもんだったぞ」


「いえ。私なんてまだまだ」


「派手に動くからパンツも丸見えだったし」


「ッッッッ! タイガさまの変態!」


「ぐほっ!?」


 ボスっと素早く腹にパンチを食らった。

 あまりの速さにこの俺ですら避けられなかったほどだ。


「さて、こいつらを軍に渡すか」


 転がっているテロリストの一人を足で転がす。

 ちなみに全員目隠しをしている。

 俺たちの顔を見られないためというより、カレンのパンチラを防止するためだ。


「なぜここにテロリストのアジトがあることをご存じだったんですか?」


 当然そんな疑問を抱くよねー……


「色々情報を集めていたんだ。せっかくユーグレイア王国を建て直しても、内部に反乱するものがいたら元も子もないからな」


「さすがはタイガさまです」


 カレンは尊敬の眼差しで俺を見つめている。


 もう一度言おう。


 やっぱり異世界最高!



 テロリストたちの回収に勇者も軍と共にやって来た。

 勇者は俺たちを見るなり、驚きで目を剥いていた。


「なぜカレンさまがここに? それにタイガまで!」


 こいつは敵対心剥き出しで好きになれない。

 なんだか同級生の勇真に似てるのも、嫌いなポイントのひとつだ。


「俺たちがデートしてたら偶然テロリストのアジトを見つけたんだ」


「デ、デデデデートぉおお!? 貴様、聖女さまとデートしたのか!?」


「そうだが、なにか問題でも?」


 てっきりカレンが『デートじゃありません』と訂正するかと思いきや、恥ずかしそうにうつ向いていた。


「お前、聖女さまは男性とデートなどしてはいけない立場なんだぞ!」


 勇者は青筋を立てながら、怒りで体を震わせていた。


「私だってデ、デートくらいします!」


「カレンさまっ……それならば私がお供しましたのに」


「相手くらい私が選びます」


「そ、そんなっ……」


 勇者は呆然としていた。


「そいつは魔族ですよ! いつ本性を現して襲いかかってくるかも分からない! そんな奴とデートだなんて!」


「いい加減にしてください! タイガさまはそんな人じゃありません! 行きましょう、タイガさま。まだデートの途中です」


「お、おう」


 カレンは俺の腕にしがみつき、ぐいぐいと引っ張っていく。


「すいません、タイガさま。カインが失礼なことを」


「いや。別に構わない。嫌われるのは慣れてるからな」


 なにせ元の世界では美濃くらいしか友達はいなかったし。


「辛い思いをされていたんですね、タイガさま……」


「ちょ、泣くことないだろ!」


「人と魔族の共存を願う素晴らしい方なのに……」


「すべて過去のことだ。今は幸せだから問題ない」


「本当ですか?」


「ああ。皆優しくしてくれるし、頼りにしてくれる。それにカレンもいるからな」


「タイガさま……」


「これでカレンがおっぱいを揉ませてくれたら最高なんだけど」


 しんみりした雰囲気が苦手で、ついふざけてしまう。

 カレンのパンチが飛んでくると思い、全身に力を込める。


「そ、そんなことで幸せを感じていただけるなら……」


 カレンは瞳を潤ませ、ついっと胸をこちらに向ける。


「い、いや、冗談だから!」


 ここでふざけて揉めないのが、童貞の悲しい性である。


 いや、もう一回言うわ。


 異世界最高!!



 ─────────────────────



 元の世界なんて帰る気ゼロな大我くん。

 魔王様の気も知らずのんきなものです。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る