最強の魔王、現代日本の中二病高校生に転生する。イジメていた奴ら、全員にリベンジします

鹿ノ倉いるか

異世界へ

第1話 最強の魔王、中二病男子に転生する

「もう逃げられませんよ」


 天空の聖女ことカレンが光明の杖を振りかざした。


(くそっ……怪我さえしてなければこんな奴……)


 このままだと殺られる。

 千年間この世界を統べた俺が負けるだとっ……


「いい気になるなよ、小娘っ!」


 一か八か不可視インビシブルの呪文を唱える。


「消えても無駄ですよ!」


 光明の杖から放たれたエネルギーはバリバリと空を切り、俺へと向かってくる。


「くそっ……」


 エネルギーは増大していき、俺の身体を包む。

 途端に肌が焼ける痛みが走った──



 ────

 ──



「ぐああああー!」


 叫びながら目を覚ました。


「ん?」


 気がつけば俺はベッドの上で寝ていた。

 肌の痛みもない。


「ここは……どこだ?」


 得体の知れないものがあちこちに散らかった、見覚えのないやけに狭い部屋。

 本棚には高級そうな書物がぎっしり並べられている。


 見たところ牢獄でもなさそうだ。


「何がどうなってる? 俺は死んだのか?」


 自分の置かれた状況が把握できない。


 窓の外は見たこともない奇妙な光景だ。

 小さい家があちこちに密集し、遠くには細長くて天に届きそうな塔がいくつも建っていた。


 夜なのだが、あちらこちらで灯りが煌々と灯っている。


「はっ!? ま、まさか……異世界転生!? ここは異世界なのか!?」


 死にかけたとき異世界に転生されるという伝説を聞いたことがある。

 まさか俺が異世界転生するとは……


 急に激しい吐き気が起こり、慌てて部屋を出てトイレを探す。

 なんとか嘔吐する前にトイレを見つけ、部屋を汚すことを免れた。


「ふぅ……」


 落ち着いてから階段を降りる。

 廊下に掛けられていた鏡を見て、また驚いた。

 2メートル以上あった俺の背丈が160センチくらいしかない。

 身体つきもガリガリで貧相だ。

 ただ前髪で隠れた顔つきは、転生前の俺とよく似ている。


 それにしても、なんて弱そうなんだ!

 腕とか脚とかぽっきり折れてしまいそうである。


「大我、どっか行くの?」


 急に背後から声をかけられ、慌てて振り返る。

 見ると中年の女性が不思議そうにこちらを見ていた。

 ある程度歳はとっているが、なかなかの美人だ。


「なに? どうしたの?」


「い、いや。なんでもない」


「コンビニ行くの? 夜遅いから気をつけてね」


「お、おう……忠告ありがとう」


 どうやら敵対しているものではないようだ。

 雰囲気からして俺の母上だろうか?


 女性は特に興味もなさそうに扉の向こうに去っていこうとする。


「ちょっと待て」


「なに?」


「その、コンビニとは、なんのことだ?」


 人が真剣に聞いているのに女はなにも答えず、呆れた様子で去っていった。



 家を出て、さらに驚かされた。

 道はなにやらよく分からない舗装がなされ真っ平らであり、動力不明な鉄の塊の車が走っている。それも大量に。


 あちらこちらに四角く長細い塔が建っており、遠くには我が魔城よりも遥かに高い塔も建っているのが見える。


「なんなんだ、ここはっ……!」


 文明と魔力が高度に発達した都市なのだろうか?

 異世界とはいえ、まさか人間どもがここまで凄まじい都市を作り上げているとは夢にも思わなかった。


 しばらく歩いていくと、街の中に鬱蒼と木が生い茂る場所を見つけた。


「ここは千樹の泉?」


 よく似た森が魔王城の近くにもあった。

 なんだかホッとして森の中に入っていくと、人が争う声が聞こえてきた。


「ん?」


 複数の男が一人を襲っていた。

 集団でなぶり殺しとは卑劣な奴らだ。

 懲らしめてやろう。


暗黒業火ダークエンブレム!」


 右手を翳して術を唱える。

 しかし手のひらからは、なにも出ない。

 大きな声を出したものだから、争っていた奴らが振り返ってこちらを見てきた。


「司波くんっ!」


 一方的にやられていた男が俺を見て、そう叫んだ。

 知り合いなのか?


「誰かと思えば司波かよ。なにしに来たんだ?」


「お友だちを助けに来たんじゃね?」


「うわぁ。怖ぇえ。アハハハハ!」


 雑魚どもがケタケタと笑う。

 よく見るとリーダー格の男は、王国の第三騎士団の団長によく似ている。

 恐らく他人の空似で、無関係な奴なのだろうが、なんだかムカついた。


「シバ? 誰だ、それは。俺の名はシュバイツァーだ」


「うわ、出た! まだ中二病拗らせてんのかよ司波! きめぇ!」


「チューニ病?」


 どうやら俺はこの世界では司波と呼ばれており、なにかの病に罹患しているらしい。


「ギャアギャアうるさい奴らだな。大勢で一人を痛みつけて楽しいか、雑魚共」


「はぁあ!? 調子にのってんなよ、クソオタク!」


 男の一人が殴りかかってくる。


 嘘だろっ!?


 あまりにも遅いし、弱点を丸出しにする無防備過ぎる攻撃だ。

 ふざけているのかと勘違いするくらいである。


 スッとしゃがんでかわし、腹にパンチを見舞ってやった。


「ぐふうっ!」


 崩れる雑魚を見て、仲間たちが唖然としていた。


「ほら、どうした? 魔王様を見て怖じ気づいたか?」


「っざけんな! やっちまえ!」


 驚いたことに、こいつらはみんな戦いのド素人だった。

 大降りなパンチ、体重が乗っていない蹴り、それらをとても遅い速度で繰り出してくる。


 とはいえ俺の身体もかなり貧弱だ。

 筋肉がほとんどないし、俊敏さもない。


 だが俺は戦い方を知っている。

 全身をバネのように使って勢いをつけた攻撃で、雑魚どもを片付けてやった。


 五分もしないうちに敵は全員地面に這いつくばる。


「ヤバイよ、司波くん!」


 やられていた男は俺の手を掴んで逃げる。


「待て。まだとどめを刺していない」


「とどめなんて刺しちゃダメだよ。捕まるよ!」


 森を出て、しばらく走ってからようやく男は止まった。

 よく見るとこいつは魔族軍のミノタウロス隊長によく似ていた。

 まさかミノタウロスも俺と同じように異世界転生させられたのだろうか?


「お前、ミノタウロスか?」


「は? 僕は美濃太郎だよ。変な冗談はいいから」


「ミノウタロウ?」


 ほぼ同じ気もするが、違うらしい。

 ややこしい奴だ。


「司波くん、助けてくれてありがとう」


「あいつらは何者なんだ? というかここはどこだ? なにが起こっている?」


 美濃は俺に色々と教えてくれた。

 残念ながら言葉の意味はほとんど意味が分からなかったが、内容はなんとなく理解出来た。


 俺の名前は司波大我らしく、高校に通う一年生で十六歳だそうだ。

 とはいえ、俺は夏休み明けから学校に行っていないらしい。


 理由は先程の奴らをはじめとした、素行の悪い生徒からイジメを受けていたからだそうだ。

 美濃もずいぶんと奴らにイジメられているらしい。

 あんな弱い奴らにイジメられるとは、にわかには信じ難い。


「なるほど。よく分からないが理解した。要はあいつらを全員叩きのめせばいいわけだな」


「……しばらく会わないうちに中二病が悪化したみたいだね」


「その『チューニ病』というのはなんだ? 死の病か?」


「いや、死にはしないけど……相当イタいよ」


「なんと。激痛を伴うのか。治るのか?」


 美濃は俺の顔をジーッと見て、悲しそうに首を振る。


「司波くんの中二病は治らないかもしれない」


「不治の病なのか!? くそっ!」


 このまま終わってなるものか。

 敵を駆逐し、チューニ病とやらを完治させ、そして必ず元の世界に戻ってやる!


 こうして俺の異世界生活はスタートした。




 ─────────────────────




 今回の物語は最強の魔王が現代日本に異世界転生した物語です!

 イジメのリベンジ、美少女との甘いちゃ生活、ヒーリング魔法でのハプニングなどが詰まっております。


 果たして魔王様は無事に異世界に帰れるのでしょうか?

 お楽しみに!


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 よろしくお願い致します!

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