第55話 ここにいる
「えっ……どういうこと?」
「そのままの意味だ。このまま互いの身体を交換して生きていこうと提案をしている」
なぜだかシュバイツァーは人をほんのり赤らめている。
「もしかしてシュバイツァー、花蓮とうまくいってるのか!?」
「な、なにをっ……」
「そりゃもう。二人はラブラブですよー」
レレイレが脳天気な声で囃し立てる。
「マジか……」
「すまん、大我。お前の身体とは分かっているが……成り行きで、つい」
「成り行きって……」
一体何をどうすればそんな成り行きになるんだ?
確かに俺と花蓮は幼馴染で、それなりに仲はよかった。
しかしそれは花蓮が俺のことを心配しているだけで、恋愛感情的なものは一切なかったはずだ。
「大我さえ良ければ、このまま暮らしていかないか?」
「だから俺ははじめからそう言ってるだろ。俺はそちらに戻るつもりはない」
「お前もユーグレイアでカレンとうまいことやってるのか?」
「そ、それは……まあ」
「へぇ。やるな。大我は女を口説く度胸なんてなさそうなのに、よくあの堅物女を落とせたな」
シュバイツァーは意外そうな顔をして俺を見る。
「俺はただ、この世界を平和にしたいと願っただけだ。その志がカレンと共鳴し、心と心が結びついた。それだけのこと」
「なるほどな。楽な道ではなかったはずだが、よく逃げなかったな」
「まだ平和にはなってない。しかしこれからも全力で取り組んでいくつもりだ」
「よかったですねー、お二人共」
レレイレはにっこり微笑んでいる。
「じゃあ頑張れよ、大我」
「お前もな、シュバイツァー。言っとくが令和日本はユーグレイアより難易度激むずのクソゲーだからな」
「お前こそ気をつけろ。ユーグレイアは油断すればすぐに殺される世界だ」
互いに拳を突き出し、コツンっとぶつける。
まあ俺は実体がない状態なので実際にはぶつからないのだけれど。
その瞬間、再び光がファーっと溢れ出し、包まれていく──
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「──イガ様っ! タイガ様!」
目を開けると目に涙をためたカレンの姿があった。
「カレン……」
「タイガ様! よかった!」
カレンはガバっと俺に抱きつく。
「びっくりしました! 光ったかと思ったらいなくなってしまうんですから」
「すまん、すまん」
レレイレに呼び出されている時は消えてしまうらしい。
そりゃいきなり光っていなくなれば、周りの人は驚くよな。
「またいなくなってしまったのかと思いました」
俺の腕の中でカレンは震えながら泣いていた。
これほど俺を深く愛し、大切に思ってくれた人なんてこれまでいなかった。
「馬鹿だな。カレンを置いてどこにも行くわけがないだろ」
「絶対ですよ。約束して下さい」
「ああ、約束だ」
小指を立てるとカレンは恥じらいながら自らの指を絡めてくる。
「お、おい、お前たちっ! わしの前でそんなふしだらなっ」
それまで静かに俺達を見守っていた国王が突然動揺し始める。
たかが指切りげんまんでなぜそんなに騒ぐことがあるというのだろう?
「あっ……」
そのときふと大切なことをシュバイツァーに伝え忘れていたことを思い出す。
「どうされました?」
「いや、なんでもない」
魔王の座をゲレイロに譲渡してしまったので、俺はもう魔王ではない。
そう伝えるのを忘れてしまっていた。
まあ、いっか。
どうせシュバイツァーはもうこの世界には戻らないと言っていた。
あとからゲームをして知ったとき怒るだろうけど、知ったことではない。
「さあ、カレン。これからもっと忙しくなるぞ。魔族との和平交渉の続きを考えなくてはいけないし、実際共存するとなったときのための準備もしなければならない」
「はい!」
これからもっと大変なこと、辛いことも起こるだろう。
しかし俺は諦めない。
逃げずに全ての問題に立ち向かう。
そしてこれからも俺はこの世界で生きていく。
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