第56話 魔王様に攻略できない世界はない

 〜〜シュバイツァーSide〜〜



 大我が光と共に消えていく。

 情けなかったあいつも、ずいぶんと逞しくなったようだ。

 あれならば魔王として向こうでもやっていけるかもしれない。


「これにて一件落着ですね! よかったぁ。一時はどうなるかと思いましたよ」


 レレイレがにっこり笑って手を合わせている。


「なに人のせいみたいに言ってるんだ。そもそもお前の手違いでこんな入れ替わりが起きたんだからな」


「でもそのおかげでシュバイツァーさんは花蓮ちゃんと出会えたんじゃないですか。大我さんもカレンさんと出会えたし」


「それは結果論だ。お前は反省しろ」


「まあまあ。結果がよかったんだから細かいことは気にしないでください」


 本当にいい加減な女神だ。


 しかし内心、少しは感謝をしていた。


 魔王として千年過ごしてたあちらでの暮らしで、俺は安らいだことなんて一度もなかった。

 常に生きるか死ぬかの毎日だった。

 人間との戦いもそうだし、魔族同士の争いも然りだ。


 この令和日本に来てから、特に花蓮と過ごす時間は大きな安らぎを感じた。


 生きることとは戦うこと。

 俺は長年そう信じてきた。


 しかしそうではない生き方を、この世界と花蓮が教えてくれた。


「じゃあな、レレイレ」


「はい。なにかお困りのことがあれば、またいつでも来て下さい」


「困ったことがあったら自分でなんとかする。お前には頼らないよ」


「そんなこと言って、花蓮ちゃんと喧嘩して私に泣きついてくるシュバイツァーさんが目に浮かびます」


「くだらない。そんな真似するか」


 レレイレと別れ、家へと向かう。

 その道中、ばったり花蓮と出くわした。


「あ、司波くん」


 花蓮は俺を見るなり、にっこりと微笑んだ。

 その笑顔を見るだけで心が安らぐ。


「よう。どこに行くんだ?」


「今からちょうど司波くんのところに行こうと思ってたの」


「そうか。俺もちょうど花蓮に逢いたいと思っていたところだ」


 素直な気持ちを伝えると、花蓮は顔を赤く染める。


「よ、よく平気でそんな恥ずかしいこと言えるねー」


「言わないほうがいいものなのか?」


「ううん。言ったほうがいいことだよ。思ったことは正直に話したほうがいい」


 花蓮は俺の隣に立ち、指を絡めるように手を繋いでくる。


「私も司波くんに逢いたくて家に行こうとしてたんだよ」


 花蓮の細い指は力を込めたら壊してしまいそうだ。

 柔らかく握ると、花蓮も握り返してくる。


「今からうちに来るのか?」


「うん。今日は覚えたてのお菓子を作ってあげようと思って」


「それはありがたいが」


「なに?」


「いや、今日は休みだから妹や両親もいるぞ。まぐわうことは難しい」


「は、はぁあ!? なに言ってんのよ!」


 花蓮は俺の手を振りほどき、睨んでくる。


「え? あ、いや、したいのかなと思って……」 


「最低。そういうこと言う、普通?」


「え、いや……思ったことは正直に言ったほうがいいと、さっき花蓮も」


「ふんっ!」


 花蓮は気分を害したように歩きだしてしまう。


 思っていても言った方がいいことと、悪いことがあるらしい。

 慣れたとはいえ俺はまだ令和日本のしきたりや文化が分かってないらしい。


「おい待て花蓮。悪かった。機嫌を直してくれ」 


「知らない。お菓子は愛花ちゃんやおじさんおばさんに作るんだからね。司波くんは食べちゃ駄目」


「そんな冷たいこと言うなよ」


 大我の言うとおり、この令和日本もなかなかハードモードなのかもしれない。

 しかし俺は最強の魔王だ。

 必ずや実力で攻略してやろう。




《終わり》




 ─────────────────────




 長らくのご愛読、ありがとうございました!


 これにて魔王様の異世界転生ラブコメディーは完結です!


 次回作でまたお待ちしましょう!

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最強の魔王、現代日本の中二病高校生に転生する。イジメていた奴ら、全員にリベンジします 鹿ノ倉いるか @kanokura

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