第12話 写真撮影

 最後の種目はダンスだ。

 意外とこれがこの高校のメインイベントらしく、盛り上がりを見せている。


 各クラスが躍り、それを教師たちが採点するシステムらしい。


「よし、行くよ! 一年五組の凄さを見せよう!」


「おー!」


 花蓮が声を上げると、みんなが拳を突き上げる。


「声が小さい! もう一回! 行くよ!」


「おおぉー!」


 みんながポジションに散らばり、ダンスがはじまる。

 力強く、伸びやかに、そしてときに軽やかに。

 全員が息を揃えて踊る。


 ダンスなど下らないなどと思っていたが、こうして全員で合わせて踊るというのも意外と楽しいものだ。


 最前列のセンターで踊る花蓮は本当に楽しそうに笑っている。

 汗を飛ばして踊る姿は光り輝いて見えた。


 たまにミスをする者もいたが、花蓮の教え通り、同様な度せず踊り続けた。


 ラストのターンを決めてポーズを取る。

 一秒の静寂のあと、グラウンドに大きな拍手が沸き起こっていた。


 踊り終えたクラスメイトたちはお互いハイタッチをしたり、抱き合いながら捌けていく。


「やったね、司波くん! 最高の出来だったよ!」


 花蓮が両手を広げながら俺のもとに駆け寄ってくる。


「ふん。当たり前だ」


「俺が参加したんだから当たり前だって言うんでしょ?」


「いや。花蓮がみんなを指揮したからだ」


「えっ……」


 花蓮は驚いた顔をし、顔を赤らめた。


「ず、ずるい……そこはいつもみたいに俺様的な発言してよ……こんなときにそんなこと言われたら……」


「ん? なにがズルいんだ?」


「な、なんでもない! ありがと、司波くん」


「お、おい。腕に抱きつくな!」


 慎ましいサイズとはいえ、胸を押し付けられるとその柔らかさにドキッとしてしまう。


「花蓮! みんなで写真撮るよー!」


「はーい!」


 花蓮は自分から抱きついてきたくせに、逃げるように俺から離れて駆け出していく。

 まったく賑やかな女だ。

 性格は天空の聖女とそんなに似てないのかもしれない。




 ダンスは一年の部で一位となり、俺たちの五組は学年優勝を果たした。

 クラスメイトたちは互いに喜び合い、多いに盛り上がっていた。


 いつもは俺と同じようにクラスに馴染めていない美濃が、クラスメイトたちと手を叩き合って喜んでいたのは微笑ましい光景だった。


 クラスのみんなで打ち上げをすると盛り上がっていた。

 その喧騒のなか、俺はこっそり抜け出して一人で帰宅する。

 馴れ合いは好きじゃない。

 打ち上げは奴らだけでやればいい。


「ちょっと司波くんっ!」


 駅の近くまで来たとき、背後から呼び止められる。

 振り返ると花蓮が息を切らして追いかけてきた。


「なんだ、花蓮。打ち上げに行くんじゃなかったのか?」


「なんで一人で帰っちゃうのよ!」


「俺はそういうの興味ないから」


「本当にノリが悪いんだから」


 花蓮は鞄でぽすっと俺を叩いてくる。


「なにボーッとしてるの。帰るよ、司波くん」


「お前は打ち上げに行けよ。主役のようなもんだろ」


「主役はみんな一人ひとりだよ」


「そうかもしれないが、みんなはお前を待っている。俺に気を遣わず打ち上げに行け」


 そう告げると花蓮は顔を赤く染めた。


「はぁ? べ、別に司波くんのために一緒に帰る訳じゃないし。私も疲れたから帰るの」


 疲れたと言う割りには走って追いかけてくるし、元気そうだ。


「まあ好きにしろ」


「あー、疲れた。荷物持って」


 ぽいっと投げてきた鞄をキャッチする。


「そんなに疲れたなら、抱っこして連れていってやろうか?」


 ひょいっと持ち上げると、花蓮は驚いた顔になる。


「ちょっ、やめて! 恥ずかしいから!」


「冗談だ」


「もうっ!」


 駅前も、駅構内もうちの生徒がたくさんいて、体育祭の興奮の余韻を引きずっていた。


「あ、そうだ、司波くん。みんなで写真撮影するときも参加してなかったでしょ」


「ああ。面倒だからな」


「すぐそういうこと言うんだから」


 花蓮はスマホを翳しながら俺に寄り添ってくる。


「何をしてる?」


「二人だけで記念撮影だよ。ほら、司波くんも笑って」


「だから俺はそういうのは」


 嫌だと言うのに勝手に花蓮はシャッターを切ってしまう。


「あー、笑ってないからビミョーな写真になっちゃった。もう一枚」


「ふざけるな。もう撮らん!」


 密着してくる花蓮を押し退ける。


「ま、いっか。久々に司波くんとツーショットで撮れたし」


 なんだか変に胸が高鳴っていた。

 やはりこいつは蠱惑催淫テンプテーションの術が使えるのか!?


「あ、そうそう。明日は用事ある?」


「愚問だ。休みの日は一日中トレーニングをしている」


「じゃあ一緒に出掛けようか」


「花蓮、俺の話を聞いていたか? 俺は忙しいんだ」


「えー? 一日くらい休んだっていいでしょ?」


「駄目だ。毎日欠かさず鍛えることに意味がある」


「人がせっかくダンス教えて上げたのに」


「うっ……」


 痛いところを衝かれた。

 恩を受けた相手にはその見返りをせねばならない。

 それが俺のポリシーだ。


「仕方ない。明日だけは付き合ってやろう」


「やった! じゃあどこ行くか考えておくね!」


 花蓮はニコニコしながら早速スマホでなにやら検索し始める。

 まあたまには息抜きもいいだろう。

 俺は仕方なく付き合うだけだ。


 高鳴る鼓動を抑えながら俺は自分にそういい聞かせていた。



 ─────────────────────



 すっかり花蓮のペースに巻き込まれた魔王様。


 さすがの魔王もツンデレ美少女幼馴染みには勝てない模様。


 そして次回は衝撃の展開が待っています!

 乞うご期待!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る