第13話 驚くべき事実

 家に帰えると、なんだかどっと疲れが押し寄せてきた。

 もちろん体育祭の疲労ではない。

 花蓮とのやり取りの疲れである。

 心労というのはヒーリングで癒せないので厄介だ。


「おかえり。体育祭どうだったの」


 母上は笑顔で出迎えてくれた。

 元の世界ではこんな風に俺を無条件の愛で出迎えてくれる者はいなかった。


 母上と接していると、なんだか心がとても安らぐ。


「ああ。もちろん優勝だ」


「そう! よかったわね! お祝いしなくちゃ」


 喜ぶ母上に感謝をしながら自室に戻る。


 夕食までは時間があるので、スマホを使ってこの世界のことでも調べてみるか……


「ん? なんだ、これ」


 スマホの中に気になるアイコンがあったのでタップしてみる。



『ユーグレイア戦記』



 その文字が突如スマホ画面に写し出され、息が止まった。


「ユーグレイア、だとっ!?」


 それは俺が元々暮らしていた世界にある王国の名前だ。

 勇者や天空の聖女が住んでいた、そして俺と対立していた王国である。


 震える指で内容を確認していくと、更に驚かされた。


「勇者ケインっ……天空の聖女カレンっ……だとっ!?」


 なんとそこには俺の暮らしていた世界のことがこと細かく記されている。


 どういうことだ!?

 この異世界と俺の住む世界は繋がっているのか!?


 訳が分からない。

 どう見てもこのゲームは俺の世界について描かれている。

 偶然でここまで名前が一致することはない……


 どうやらこれはゲームらしく、プレイヤーはユーグレイア王国の騎士で、勇者や天空の聖女と力を合わせて魔王と戦うストーリーになっている。


 そしてもちろん、その魔王というのは──


「俺じゃないか!!」


 魔王の名はシュバイツァー。

 間違いなく俺のことだ……


『冷酷無比で残虐な魔王を打ち倒し、この世界に平和をもたらすぞ!』


 ゲーム内で勇者カインがそうほざく。


「ふざけるな! 貴様ら人間の方がよほど残虐だ! 罪もない魔族のものを殺し、我々の土地を侵略し始めたのはお前たちじゃないか!」


 怒りでスマホを壁に投げつけそうになる。


 落ち着け。

 これは元の世界に戻るヒントになるに違いない。

 感情に任せてスマホを壊してしまったら大変だ。


 それにこれは人間どもの言い分だ。

 あいつらの立場からすれば、圧倒的な力を持つ魔族は脅威以外の何者でもないのだろう。


 気は進まないが、人間サイドとなりこのゲームを進めるしかないだろう。



 たかがゲーム。

 そう侮っていたが、このユーグレイア戦記はかなり難易度が高い。

 広大な土地を探索するアクションゲームなのだが、戦闘になるとすぐに魔族に殺されてしまう。


 魔族が圧倒的な強さで人間を屠るのは嬉しいが、ゲームは進めたい。

 なんとも複雑な気分でプレイしていた。


「大我、ご飯よ。何度呼んでも来ないんだから」


「いまちょっと手が離せない。先に食べていてくれ」


「ゲームしてるだけでしょ」


「いや、これはゲームじゃなくて、一大事なんだ」


「なにが一大事よ。いいから早く来なさい。ゲームはその後にして」


 仕方ないので慌てて食事をしてゲームを再開する。

 しかしあまりの難しさに全然進まない。


 王国を救うために戦っているというのに、リーダーである勇者がまったく助けに来ないのが腹立たしい。

 やはりあいつは口ばっかりのペテン師だ。


 ストーリーの先が知りたいのにもどかしい。


「あ、そうだ! 美濃に聞いてみるか」


 彼ならこのゲームをしているかもしれない。

 一旦ゲームを切り、急いで電話する。


「ユーグレイア戦記? まだアレやってるの?」


「そうだ。しかし難しすぎて進まない。美濃にコツを聞こうと思ってな」


「当たり前だよ。あれ、かなりの死にゲーだから」


「死にゲー? なんだその物騒な言葉は?」


「あまりにも難しいから死ぬのがデフォルト、死にながら上達するゲームのことだよ」


「おお、なるほど」


 確かに俺も死にながら少しづつ腕を上げていった。


「ユーグレイア戦記は中でもすごく難易度が高過ぎる死にゲーとして有名なんだ。僕もやってたけど、あまりの難しさにリタイアしたよ。魔族が強すぎるんだよ」


「あはは! そりゃそうだ! 我が魔族は人間などに屈指はせん!」


「なんで司波くんが誇らしげなの!?」


 しかし我が軍が強すぎるために死にゲーになってしまっているのか。

 これは悩ましい問題である。


「そんなことより司波くん、打ち上げに来なかったよね」


「当たり前だ。俺は馴れ合いなどせん」


「そんなこと言って、実は花蓮さんと二人きりで馴れ合ってたんじゃないの?」


「な、なにを馬鹿なっ……あいつが勝手に俺について来ただけだ!」


「やっぱりぃ。花蓮さんが打ち上げに来なかったから、そうじゃないかと思ってたんだ」


 しまった。

 奴の口車に乗せられて、つい共に下校したことを漏らしてしまった。

 美濃のニマニマする顔が目に浮かぶ。


「いちゃつくのもいいけど、打ち上げに来てほしかったなぁ。僕は司波くんと打ち上げで盛り上がりたかったのに」


「それは悪かったな」


「あ、そうだ。明日二人で打ち上げしようよ! どうせトレーニングなんでしょ」


「あ、いや……明日は、ちょっと」


「まさか花蓮さんとデートとか?」


「ち、違う! 誘われたから二人で遊びに行くだけだ!」


「それをこの世界ではデートって呼ぶんだよ?」


 美濃は笑いを噛み殺しきれていない声で俺をからかった。


 言われなくても知っている。

 俺の世界でもそれはデートと呼んでおるわ……



 ─────────────────────



 なんとシュバイツァーの世界と現代日本はゲームで繋がっていた。

 元の世界に戻る手掛りはあるのでしょうか?


 そして花蓮ちゃんとのデートは?


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