第11話 体育祭
そして迎えた体育祭当日──
グラウンドには全校生徒が集まり、まさにお祭り騒ぎとなっていた。
「祭りなのに出店は出てないのか」
「当たり前でしょ、司波くん。これは学校行事なんだから」
花蓮は呆れた顔をする。
「そうなのか。祭りと聞いていたから楽しみにしてたのだが」
「出店が出るお祭りに行きたいなら、今度一緒に行く? 秋祭りは賑やかだし」
急に花蓮が顔を赤らめながらそう提案してきた。
「秋祭り? 豊作を祝う祭りがこの国にもあるのか?」
見たところ田畑はなく、農作物を作っている様子はない。
「はいはい。そうですよ。この国にも秋祭りはあります。本当にすぐそうやってふざけるんだから。素直に一緒にお祭りに行きたいって言えばいいのに……」
花蓮はぶつぶつ言いながら立ち去っていく。
なにか怒らせてしまったようだ。
花蓮は時々よくわからない時があるな。
一年生の競技は綱引きとリレーとダンスである。
まず最初は綱引きがあった。
鍛え上げた美濃と俺の活躍で余裕で優勝を果たした。
しかし綱引きという種目は誰が活躍したのか分かりづらい競技である。
優勝という結果を得て、なぜか勇真やその他仕切りたがりの男子が自分達の功績だと興奮気味に捲し立てていた。
葛原と粕谷のクズカスコンビは大人しいものだったけど。
昼食後、クラス対抗のリレーが行われる。
一人グラウンドの半周を回り、バトンを繋ぐというルールだ。
はなから期待されていない俺は第六走者というどうでもいい順番だ。
「いけー! 花蓮!」
「頑張ってー!」
第一走者の花蓮はなかなかいい走りを見せ、微差ながらトップになる。
しかし続く第二走者で三位に転落し、そこからもズルズルと順位を落としていく。
「うわぁ。次は司波かよ」
誰かが悲鳴に近い声を上げた。
俺にバトンが回ってきたとき、既に最下位になっていた。
トップの走者は既に向こうのコーナーを曲がっている。
まあハンデとしてはちょうどいいだろう。
バトンを受けとると一気に足を振り上げ、加速する。
この一週間、ダンス練習と同様、走る練習もしてきた。
「うわっ!? 誰あれ!?」
「めちゃくちゃ速くね!?」
「あれ、五組の司波だろ!?」
驚きの声が聞こえるくらい、俺は余裕をもって走っていた。
さて、ここから更に加速してやろう。
二位の背中が見え、数歩で抜き去る、
「きゃー! 司波くん、頑張ってー!」
「いけー! 司波ー!」
チラッと見ると、花蓮も手を振って応援していた。
加速が最高まで乗り、一気にトップの奴を追い抜き、首位でバトンを繋いだ。
わぁああああーっ!
グラウンドが揺れるほどの歓声が上がった。
「すげぇ……てか、世界記録より速かったんじゃね?」
「司波くんすごい!」
「誰かタイム計ってねーのかよ!」
大騒ぎのクラスメイトたちに囲まれる。
「すごいよ、司波くん! こんなに速いなんて知らなかった!」
花蓮が駆け寄ってきて、俺の手を握り、ぴょんぴょん跳ねている。
情けないことに俺は息が切れてまともに喋れなかった。
「これくらい……はぁはぁはぁ……造作のないことだ……はぁはぁはぁ」
「強がっちゃって!」
「強がってなど……かつては矢が飛び交う戦場を、文字通り一日中走ってたこともある」
「はいはい。その話はまた今度ね」
子どもをあやすように適当にあしらわれた。
おのれ、花蓮め。
俺の話をまったく信用していないな。
リレーはその後、抜きつ抜かれつの攻防を繰り広げる。
粕谷と葛原には死ぬ気で走れと命令したから、まずまずの走りを見せた。
人間とは弱みを握られると、実力以上の力を発揮できる生き物のようである。
美濃は筋トレしかしてこなかったので、走るのはいまいちだ。
次は走り込みもさせないといけない。
結局アンカーにバトンが渡ったとき、うちのクラスはギリギリの一位だった。
うちのクラスのアンカーは勇真である。
勇真は大きく手を振り、全力で走っていた。
「勇真くん、頑張れー!」
「カッコいい!」
主に女子たちが黄色い声援を上げている。
花蓮はみんなと一緒に「いけー!」と笑いながら応援していた。
結局ラストの直線で追い付かれ、うちのクラスは二位でフィニッシュした。
「あー、惜しい!」
「あとちょっとだったのに!」
「お疲れ、勇真!」
残念な結果に終わったが、みんな嬉しそうに笑っていた。
当然誰も勇真を責める様子はなかった。
「みんな、ごめん。俺がもう少し頑張れたらっ……」
勇真は声を詰まらせながら、みんなに謝る。
「別に勇真のせいじゃないよ」
「どのクラスもアンカーは速いんだよ」
「むしろ勇真のお陰で二位でフィニッシュ出来たんだし」
「勇真くん速かったよ!」
みんなが口々に勇真を庇い、労った。
うつ向いていた勇真は少しニヤッと笑ったのを、俺は見逃さなかった。
こいつ、絶対責められない空気だと分かっていたから謝ったな……
逆にもしもっと険悪な空気だったら、絶対謝らなかったに違いない。
人の心を敏感に嗅ぎ取り、得があるように動く。
勇者とそっくりなあざとい性格だ。
しかも劇的なラストとなったことで、俺の走りよりも勇真が話題の中心となっている。
まさかそこまで計算してわざと負けたんじゃないだろうか?
そんなことまで想像させられてしまうほど、勇真の悔しがる姿はあざとく見えた。
─────────────────────
体育祭というのは色んなドラマが巻き起こる!
これが縁で誕生するカップルなんてものも。
運動が得意な男子はカッコよく見えるのでしょう。
私は水泳以外のスポーツは苦手なので、体育祭はひっそりしてました。
なぜ水泳大会はないのか。
理不尽な話ですね!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます