第28話 株式会社リンカーネイション

『ユーグレイア戦記』がアップデートされた。

 今回の更新はずいぶんと早いようだ。

 さっそくプレイし、更新分まで進めてみる。


「なんだ、これはッッッ!?」


 思わず叫んでしまった。


 俺が魔族軍と戦うところはまだいい。

 人間と結託したとたんに手の平を返した奴らへの制裁は.いずれしなければならないと思っていたからだ。


 しかしタイガは魔王の力を使い、次々と人間たちの国力が高まるような行動をしてしまっている。


 そんなことをしているうちに、魔族の長にはあの魔女王のイザベラが就任してしまっていた。


 そして極めつけに、タイガはあろうことか天空の聖女カレンと『小指の契り』を結んでしまっている。


「ふざける、ふざけるな、ふざけるなッッッ!! 俺はカレンに必ず復讐すると誓っているんだぞ! そんな宿敵と小指の契りを交わすとはっ!!」


 怒りで身体が震えてしまっていた。


 もはや一刻の猶予もない。

 今すぐ戻って軌道修正をしなければっ!


 とはいえ元の世界に戻る方法はわからない。


 どうすればいいんだ?


 イライラしながらゲームのあちらこちらを確認していたとき、ふとあることに気がついた。


「ちょっと待て!? このゲームを作っている会社に行けばいいんじゃないか?」


 どう見たってこのゲームは、俺のいた世界をそのままゲームにしている。

 この会社に行けばなにか分かるかもしれない。


 会社の名前は簡単に分かった。

 というかログインするときにいつも見ている。


「株式会社リーンカーネイション、か。所在地は……」


 少し遠いが、行けない距離ではない。

 幸い今日は文化祭の振替休日なので一日自由である。


 俺はすぐに家を飛び出し、株式会社リーンカーネイションへと向かった。


 ゲーム製作会社というのは大都市の塔のように聳え立つビルにあるのかと思っていたが、リーンカーネイションはずいぶんと下町にあった。


 街には高いビルなどなく、細い路地が入り組み、商店街の活気が溢れるような下町である。


「……ここ、だよな?」


 ホームページに記されていた所在地には、四階建ての雑居ビルがあった。

 どう見ても最先端のゲームを作っている会社があるところには見えない。


 半信半疑になりながら階段で三階まで昇ると、ドアには確かに『株式会社リーンカーネイション』と書かれてある。


 インターフォンを押してしばらく待ったが、応答はない。


「休みなのか?」


 訝しみながらもう一度インターフォンを押すと、中から慌ただしく動く音がした。


「はい?」


 トアが開くと、中から見事な金髪ロングヘアの女性が出てきた。

 瞳は翡翠のように鮮やかで、肌は血管が透けるほど白い。

 恐らくは北欧辺りの出身のものだろう。

 年齢は恐らく二十代半ばだ。


 机に突っ伏してうたた寝でもしていたのか、頬に押し潰された跡が付いていた。


「ここはゲーム会社のリーンカーネイションで間違いないか?」


「こ、国税局の方でしょうか? ちゃんと税金は納めてます」


「いや、そうではない」


「あ、分かった! ゲームが難しすぎるという苦情ですね? 残念ですが、そういった個別の苦情は受け付けておりません」


 急に毅然とした態度になり、撥ね付けるように手の平を翳してきた。


「人の話を聞け。俺は訊きたいことがあって来たんだ」


「攻略法は教えられません。お引き取りください」


「ふざけるな。あんなゲームごとき、攻略法など訊かなくても最新のところまでクリアーしておる」


「ええ!? すごいですね、それは。普通難しすぎてクリアー出来ませんよ。難易度が糞ですから」


 自分で作ってるくせに、なんという言い草だ。

 っていうか、見た目に反してこの国の言葉が実に流暢である。

 生まれも育ちもこの国なのだろうか?


「クリアーしてるのに何が訊きたいんですか? あ、次回のアップデート日程ですか? そういったことは公式サイトで告知しますんで」


「本当に人の話を聞かない奴だな。俺が訊きたいのは、どうやってあのゲームを作っているのかということだ」


「そ、それは、その……複雑なプログラミングをしてるんです! 超難しい方法なので教えられません」


 なんか急に発言が怪しくなってきた。

 これはやはりなにかを隠しているに違いない。


「なにか隠してるな?」


「な、ななななにも隠してなんかいません」


「正直に言え」


「私は常に正直です。嘘なんてつきません」


 これでは埒が明かない。

 ここははっきり言ったほうがいいだろう。


「俺はシュバイツァーだ。大我と中身を入れ変えられた。どうせお前の仕業だろ? さっさと元の世界に戻せ」


 そう伝えると、金髪美女の表情が明らかに動揺した。


「えっ……あ、あなたが本物のシュバイツァーさん!? 本当ですか!?」


 話が通じた。

 やはりこの者なら俺を元の世界に戻せるかもしれない。


「立ち話もなんですから、どうぞ中へ」


 金髪美女に促され、事務所内へと移動する。



 ─────────────────────



 制作会社に乗り込んだ魔王様。

 これは進展が期待できそう!


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る