第44話 タイガの処分
〜〜大我Side〜〜
エノヴァでの惨劇のあと、俺は議会で吊るし上げられた。
軍の命令を無視して独断で行動した。
そのうえ街を守れなかった。
そもそも俺が魔族を招き入れたのではないかと疑うものまで現れた。
しかしそんなことはどうでもよかった。
何より辛かったのは、俺を信じてくれた国王や聖女カレンまでも責任を追求されてしまったことだ。
そもそもユーグレイアは元々多くの小国が集まってできた国家だ。
現国王を快く思っていない反勢力もいる。
今回の件で国王辞任とまではいかなかったが、権力が弱まったことは間違いなかった。
聖女もかなりの叱責を受けた。
これまで特権的に許されていたことも、今後は許されなくなるようだ。
すべて俺のせいだ。
俺がイザベラの攻撃を阻止できていれば、こんなことにはならなかった。
シュバイツァーなら、きっとこんなことにはならなかっただろう。
己の弱さが悔しかった。
俺はユーグレイア軍に加わることを禁じられた。
これまでの功績やミノタウロスのシェルナ防衛のお陰で国外追放は免れたが、当分の間謹慎ということになった。
「すいません、タイガさま。あなたは命を賭して人間を守ろうとしてくださったのに」
「もう泣くな、カレン。俺がエノヴァを守れなかったのが悪い」
「でもあんまりです! これまでのタイガさまの功績まで無視して」
「そんなもんだ。俺は魔族だからな。人間に信頼されるためには、相当の努力をしなければならない」
「そんなのおかしい! 人間とか魔族とか関係ありません、この世界のために尽力してくださっているのに」
カレンは涙で腫らした目で俺に訴える。
「残念ながら人間なのか魔族なのかは大きな問題なんだ、カレン。俺が今していることは、それが大きな問題ではなくなる世界にすることだ。そのときこそ、人と魔族が共存する世界と言える」
「そうでしたね……すいません」
カレンは涙を拭い、力強く頷く。
「今のままでは、俺はイザベラに勝てない。だから特訓をするつもりだ」
「では私がお相手させてもらいます。共に強くなりましょう」
「いや……申し訳ないが、そうはいかない。俺は先代魔王であるヴァッゾーラのもとに行き、修行をするつもりだ」
シュバイツァーが口にしたその名前を伝える。
恐らく口を滑らした振りをして俺に教えてくれたのだろう。
「ヴァッゾーラ!? 伝説の魔王ですよね。まだ存命だったんですか!?」
「ああ。そのはずだ」
「でも危険じゃないんですか?」
「危険は承知だ。それでも俺は強くならねばならない」
「では私もお供します!」
「それは駄目だ。カレンはここに残れ」
「でもっ」
「俺が不在の時、再びモンスターストライクが起きたらどうする? カレンにはここに残って王国を守ってもらいたい」
生きて帰れる保証もない。
この国の平和をカレンに託すしかなかった。
カレンはキュッと口を結び、眉をハの字に下げて俺を見詰める。
そして──
「わっ!?」
急にガシッと抱きついてきた。
「分かりました。でも絶対生きて帰ってきてください」
「お、おう……もちろんだ」
「私とタイガさまは小指の契りを交わした仲なんです。忘れないでください」
「小指の契り? ああ、指切りげんまんのことか」
カレンは俺の瞳をジッと見詰め、両手で俺の頬に触れる。
「へ? お、おい、カレン……」
そのままカレンは背伸びをし、顔を近付けてくる。
カレンの美しく気品のある顔が眼前に迫って──
ちゅっ……
「ッッッッ!?」
一秒程度のキスをし、カレンが逃げるように顔を離した。
ほおずきのように顔を真っ赤にしてうつ向いている。
「////////ッッッ……」
「えっ……あ……あ、あ、あああのっ……へ?」
キス、したよな、いま……
生まれてはじめて触れた女性の唇は、驚くほど柔らかかった。
「す、すすすすいません。はしたない真似を……」
「い、いや……それは、その……」
カレンは俺の手を握り、潤んだ瞳で見詰めてくる。
「必ず帰ってきてください。私を一人にしないで下さいね」
「当たり前だ。必ず戻って来る」
「はい。約束です」
指切りげんまんのために小指をピッと差し出す。
「ま、また契るのですか?」
「約束だからな」
「そんなことしなくても、私はあなたのものです……」
カレンは恥ずかしそうに自らの小指を絡める。
「俺もカレンだけのものだ」
「嬉しい……ありがとうございます。お慕いしております、タイガさま」
カレンはギュッと抱きついてくる。
「お、おう……」
余裕を見せたセリフでも吐きたいが、ファーストキスを終えたばかりの童貞野郎にそんな余裕はない。
「この世界が人間と魔族が共存できる世界になったら……その象徴として私と共に暮らしてくださいますか?」
「それって、つまり……その」
「はい……タイガさまのお嫁さんにして下さい」
「よ、よよ嫁っ……カレンが、俺の嫁ぇぇえ!?」
「お嫌ですか?」
ぶんぶん首を振って否定する。
「そ、そんなわけなかろう! 嬉しいに決まっておる! みなまで言わせるな!」
カレンの突然のプロポーズで折れかかっていた心が、再び強くなっていく。
カレンのため、この世界の人々のため、俺は必ず強くなる。
カレンをギュッと抱きしめ、心のなかでそう誓っていた。
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失望のどん底から這い上がれるのか、大我!
ってかちゃっかりキスするな!
反省が足りないぞ!
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