第15話 敵の言葉と味方の言葉

「なん、だとっ……」


 スマホの画面に表示された『巡礼者のローブ』を見て、呼吸が止まった。


 たいして期待せずに引いたガチャだったが、なんとレア度レジェンドの防具をゲットしてしまった。


 防御力はたいして高くはないが、魔力が大きく上がり、更には素早さも大幅に上昇する防具である。


 嬉しくなってしまい、つい装備して少し操作してしまう。


「いかん。花蓮を待たせているのだった」


 慌てて戻ると、花蓮が二人組の男に声をかけられていた。

 花蓮は怯えたようにしており、俺を見つけた瞬間、駆け寄ってきた。


「どうした? なにがあったのだ?」


「なんでもない。早く行こう」


「おいおい。なんだ、てめえは」


 目の細い男が俺を睨みながら近付いてくる。


「俺らはその子に用があるんだ。失せろよ、ガキ」


 金髪坊主頭がへらへら笑いながら俺を値踏みするような目で見てくる。


「花蓮、こいつらは誰だ?」


「知らない。いきなり話しかけられて、遊ぼうって……嫌ですって答えたのに、しつこくて」


「なるほど。理解した」


「なにが『なるほど、理解した』だ? 変なしゃべり方してんな、このオタク野郎が!」


 細目が掴みかかろうと手を伸ばしてきたので、逆にその手首を掴んで捻り上げる。


『ぐあっ!? て、てめぇなにしやがるっ!』


 ずいぶんとでかい図体して、情けないほど簡単にひっくり返った。

 それにしてもこの世界の男たちは弱すぎないか?


「貴様ら、よくも俺の幼馴染みに付きまとってくれたな。覚悟は出来てるんだろうな?」


「ほざくな、オタク野郎! これはゲームやアニメじゃねぇんだよ!」


 金髪坊主が真っ赤になりながら殴りかかってくる。

 細目野郎の手首を離し、素早くバックして拳をかわす。


 パンチを当てられなかった金髪坊主は、情けないことに体勢を崩していた。

 その隙を逃すはずもなく、俺は顔面にハイキックをお見舞いしてやった。


「ぐはっ!?」


 金髪坊主はなにが起こったのかも理解出来なかった様子で、その場に倒れる。


「きゃあ!」


「安心しろ、花蓮。奴のパンチはかすってもいない」


 肩を抑えて踞っていた細目男の腹を蹴り上げる。


「ダメ! もうやめて、司波くん!」


「仕掛けてきたのはこいつらだ。しっかり過ちを教えてやらねばならない」


「もういいから。やめてあげて!」


 花蓮は背後から抱きついて俺を止める。


 細目と金髪坊主はよろよろと立ち上がり、悔しそうにこちらを睨む。


「これ以上痛い目に遭いたくなければ、さっさと失せろ」


 低い声で伝えると、二人はビクッと震えてから立ち去っていった。


「司波くんっ……ありがとう」


 背後から抱きついていた花蓮が、今度は正面から抱きついてくる。

 よほど怖かったらしく、身体が震えていた。


「すまない、花蓮。俺が目を離したため、怖い思いをさせて」


「ううん。私がこんなとこに来ようって誘ったのが悪いの。ごめんなさい」


 謝りながら、花蓮はギュッと更に強く抱きついてくる。


「分かったから、ちょっと離れてくれ」


「か、勘違いしないでよ。これは怖くて抱きついてるんだから」


「分かっておる」


 仕方ないやつだ。

 落ち着かせるように頭を撫でた。


「それにしても司波くん、こんなに強かったっけ?」


「まぁな。ちょっと鍛えた」


「ちょっと鍛えたにしては強くなりすぎでしょ」


「自分や大切な人を守るためには力が必要だからな」


 そう答えると、花蓮はじっと俺の顔を見詰めてくる。


「そ、その大切なものに、私も含まれるの?」


 なんだ、こいつ!?

 目を潤ませて、めちゃくちゃ可愛いんだが!?

 まさかいつの間にか蠱惑催淫テンプテーションの術を!?


「ま、まあ、そうだな。幼馴染みなんだから」


「そっか。えへへ」


 照れながら俺の胸に頬をムニュっと押し当ててくる。


「あ、でも、強くなったからって喧嘩なんてしちゃダメ。約束して」


「なぜだ? 負けないなら戦ってもいいだろ? 俺は誰にも負けない」


「相手が凶器を持ってくることだってあるでしょ。それに暴力なんかではなにも解決しない」


 天空の聖女と同じことを言って俺を諌める。


 しかし敵の立場である天空の聖女と、仲間(?)である花蓮から言われるのとでは、受け取り方が大分違った。


「分かった。極力喧嘩はしない」


「極力じゃなくて、しないの。約束して」


「それは……」


「約束してくれなきゃこのままずっと抱きついてるからね」


「ふ、ふざけるな。約束する。喧嘩しないからいい加減離れろ」


「うん。ありがと」


「お、おい、話が違うぞ!? 約束したのになんで余計ギューってするんだ!」


 花蓮は俺の胸に顔を埋めて、むぎゅーっと抱きついてくる。

 心拍数が聞かれてしまいそうで、焦ってしまった。



 さすがにこの状況から穴場的レストランとやらに行く気にはなれず、電車に乗って最寄駅まで帰ってきた。


「あー、なんかホッとしたらやっぱりお腹空いてきたかも」


「確かにそうだな」


「ねぇ、駅前の『まねきタヌキ』に行こうよ!」


「まねきタヌキ?」


「ほら、昔親に連れられてよく行ったでしょ。唐揚げの美味しい定食屋さんだよ」


「唐揚げか。悪くないな」


「よし、決まりね!」


 ゲームは出来ず、トレーニングも出来ない一日だったが、なかなか充実できた。

 たまには息抜きも悪くないものだ。



 ─────────────────────



 輩を追い払い、更に花蓮ちゃんから慕われてしまう魔王様。

 とはいえ彼の方も徐々に惹かれている気が……


 こんなことで異世界に戻れるのでしょうか?


 そしていま、異世界はどうなっているのか?


 次回衝撃的な事実が判明します!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る