第32話 髪に隠れた真相

 ~~シュバイツァーside~~



 髪を切るという行為は、意外と疲れるものらしい。

 俺は髪を切ってもらった後、一時間もかけて花蓮のヒーリングをさせられた。


 それにしても、花蓮はヒーリングを施術した後の方がぐったりしている気がする。

 まあ本人が回復したと言っているから、効き目はあるのだろうけど。



 翌朝。

 バッサリ切ったはいいが、髪が短いとスースーしてなんとも心許ない。

 特に前髪が短いとこれまでと視界が違うので、なんだか違和感を覚えてしまう。


 それにしても、なんだか今日はやけに視線を感じるな……

 しかも普段はガラの悪そうな奴らしか見てこないのに、今日は女子もチラチラとこっちを見てきている。


 もしや夏油たちが俺の評判を落とす噂でも流しているのか?

 あとでとっちめてやらなければなるまい。


 イラつきながら教室に入ると、クラスメイトたちがこちらを見て固まった。

 これは相当ひどい噂を流されたようだ。


「おい、美濃何があった? どんな噂を流されてるんだ?」


「えっ!? し、司波くんなの!?」


「当たり前だろ。誰だと思ったんだ」


「ええーーー!?」


 教室が割れるくらいの声が湧き上がる。


「な、なんだっ!?」


「嘘でしょ!? 司波くんってそんなにイケメンだったの!?」


「可愛い感じなのに目元と眉がキリッとしててカッコいいとかありえない!」


「なんで今まで髪で隠してたの!」


 次から次と矢継ぎ早に声を掛けられ、思わず身構えてしまった。


 この世界ではこれが美しいとされる顔立ちなのか!?

 なよなよっとしてて、正直情けない顔立ちだと思っていた。


「ちょっと、なに騒いでるの!司波くん困ってるでしょ!」


 あとから教室に入ってきた花蓮が、人垣を割って俺を助けに来る。


「ずるいよ、花蓮。幼馴染未だから司波くんがイケメンって知ってたんでしょ!」 


「はいはい。興奮しないで。ホームルーム始まるよ」

 

 花蓮は羊の群れを追い払う牧羊犬のように女子たちを追い立てていた。


「悪いな、花蓮」


「っとにもう。見た目だけで浮つくんだから。司波くんは中身もすごいんだから……」


「ん?なんか言ったか?」


「ッッ……なんでもない!司波くんもデレデレしてないで席について!」


「俺はデレデレなんてしてない」


 ふと見ると、勇真の奴が険しい目でこちらを見ていた。

 いきなり俺の人気が上がって面白くないのだろう。

 わかりやすい奴だ。


 休み時間も、掃除中も、なんなら授業中でさえ女子から話しかけられる。

 ついこの前まで見向きもされなかったのが嘘のようだ。


 あまり話をするのは慣れていないので、放課後にはぐったりしてしまっていた。

 特に女子と話すのは疲れる。

 普段女子といえば花蓮としか話さないが、今日はむしろほとんど花蓮とは会話できなかった。


「あー、疲れた。お、そうだ花蓮。確か今日は旨いハンバーガー店を紹介してくれるって言ってたな」


「ふん。悪いけど私は忙しいから」


 花蓮はプイッとそっぽを向き、さっさと帰ってしまう。


「どうしたんだ、あいつ」


 美濃に訊ねると、呆れた顔をされた。


「本当に理由がわからないとしたら、かなりやばいと思うよ」


「変な言い回しをせず教えろ」


「いや、なんかちょっとムカつくから教えない」


「はあ!? なんだ、それ?」


「そんなことより早く帰った方がいいんじゃない? 女子たちが一緒に帰ろうと狙ってるよ」


「は? ふざけるな。ほら、美濃! さっさと帰るぞ!」


 美濃の腕を引っ張り二人で急いで教室をあとにした。



「それにしても驚いたな。司波くんがこんなにイケメンだったなんて」


「美濃までやめろ。俺はイケメンとやらではない」


「またまた謙遜しちゃって」


「そもそもお前も最近カッコよくなったって評判らしいぞ」


「えっ!? そうなの!?」


 美濃はびっくりした様子で俺を見る。


「ああ、本当だ。昨日花蓮が言ってた。痩せて逞しくなって見違えったと女子が噂してるそうだ」


「うえぇぇーい!」


「わっ!? どうした!? いきなり大きな声を出すな!」


「女子からカッコいいなんて、人生ではじめて言われたよ! これも司波くんのおかげだよ! ありがとう!」 


 美濃は俺の手を握って感謝していた。 

 こんなに喜ぶ美濃を見るのは初めてのことだったので、なんだか少し嬉しい。

 

「せっかくイケメンになったんだから、きょうは遊びに行こう!」


「まあ特に予定はないからいいが。あ、そうだ。それならクズガスコンビも呼ぶか」


「うん、いいね。僕も最近あの二人と仲良くなってきたし」

 

 電話で呼び出すと葛原と粕谷は文句を言いつつも、すぐにやって来た。

 なんだかんだ言って、なかなか従順で可愛い奴らだ。


「で、どこに行くんだよ?」


「そうだな。腹が減ったから葛原のおすすめの店に案内してくれ」


「唐突にそう言われてもな」


「あ、あそこがいいんじゃね? チキンリパブリック」


 粕谷が提案すると葛原も頷いて賛同する。

 どうやらフライドチキンが有名な店らしい。


 繁華街からは少し離れているらしいが、行く価値はあるというのでついて行く。



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 いきなり人気になってしまった司波くんにモヤモヤしてしまう花蓮ちゃんなのでした!

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